株式報酬

株式報酬制度の事例を業種ごとに解説

この記事でわかること

  • 株式報酬制度の全体傾向や業界ごとの事例
  • RS・RSU・PS・PSU・SOの業種ごとの事例
  • RS・RSU・PS・PSU・SOにおける特定企業の事例

著者プロフィール

福地 悠太

O f All株式会社

代表取締役

福地 悠太

主に上場企業に対するストック・オプションの設計・導入支援、エクイティ・ファイナンスに関するアドバイザリー業務、M&Aアドバイザリー業務等に従事。証券株式会社を経て、再びコンサルティング業に戻り、株式報酬制度の設計・導入支援、役員報酬制度の設計、指名報酬委員会の設置・運用に係る助言業務等を行う。

 

 

株式報酬制度を検討していく際に、気になるポイントとして挙げられるのが他社の導入事例です。

 

本記事ではRS・RSU・PS・PSU・無償SO・株式報酬型SO・有償SO・信託関連(株式給付信託等)の8種類を中心に主要な各業界の全体の導入傾向と特定企業の事例を整理し、解説していきます。

 

株式報酬制度について、網羅的に知りたいという方は以下の記事をご確認下さい。
🔗株式報酬制度とは?基礎から11種類の制度・選び方まで理解しやすく解説

 

今回の事例解説で取り上げる株式報酬制度

今回、事例として取り上げる株式報酬制度はRS・RSU・PS・PSU・無償SO・株式報酬型SO・有償SO・信託関連(株式給付信託等)の8種類です。


本記事では上記の8種類の株式報酬制度を中心に弊社が提供する「🔗株式報酬データベース」を活用しながら事例を解説していきます。

株式報酬制度・株価連動金銭報酬の種類フェーズ概要
譲渡制限付株式(RS)上場企業   一定期間の譲渡制限(継続勤務等の条件)が付された現物株式を付与する報酬制度。
譲渡制限付株式ユニット(RSU)上場企業一定期間の継続勤務等の条件付で株式が交付される権利(ユニット)を付与する報酬制度。
パフォーマンス・シェア(PS)上場企業事前に設定した業績目標等(売上高・利益額など)による譲渡制限が付された現物株式を付与する報酬制度。
パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)上場企業事前に設定した業績目標等(売上高・利益額など)が達成された際に株式が交付される権利(ユニット)を付与する報酬制度。
株式給付信託上場企業信託を通じて対象者へ自社株式を給付する報酬制度。給付に際してはポイントを介す。
株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)    上場企業発行のタイミングで付与対象者による金銭の払い込みを必要とせず、権利行使価額を1円に設定するストック・オプション。
無償ストック・オプション上場企業
未上場企業
あらかじめ定めた価額(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利(新株予約権)を付与する報酬制度。税制適格要件を満たせば、課税のタイミングが1回のみとなるが、税制適格要件を満たさない場合、課税は権利行使時と株式売却時の2回にわたり行われる。
有償ストック・オプション上場企業
未上場企業
新株予約権の発行のタイミングで付与対象者による金銭の払い込みが発生する。税務上、報酬ではなく、有価証券の売買として扱われる。


すべての株式報酬制度を確認したい方は「🔗主な株式報酬制度・株価連動金銭報酬 11種類を解説」をご確認下さい。


また、本記事では、株式報酬制度の導入事例が比較的多い「情報・通信業」「サービス業」「小売業」の3つの業界に焦点を当てて、解説していきます。


株式報酬制度の導入事例を市場区分ごとに解説した記事は以下をご確認ください。

🔗株式報酬制度の事例を市場区分ごとに解説

2024年における株式報酬制度の導入傾向(市場全体)

まずは、2024年における市場全体の株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。


なお、今回使用するデータは「🔗株式報酬データベース」をもとに作成しています。
株式報酬データベースの留意点は下記をご確認ください。

  • 本データベースは、上場企業の適時開示を参照して作成しています。
  • 本データベースは無償SO・有償SO・株式報酬型SO・RS・RSU・PS・PSU・信託に関連する制度を対象としています。
  • 一部、AIを用いて処理をしている箇所も含まれるため、誤った結果や予期しない結果・重複が表示される場合もございます。正確な情報については各適時開示のPDFをご確認下さい。
  • 調査・作成に関しては細心の注意を払っておりますが、内容及び情報の正確性等を必ずしも保証するものではございません。
  • 本データについて、事前に承諾を得ることなく、これらの内容を複製・加工譲渡することはご遠慮ください。(ただし、常識及び著作権法等の法令で認められる範囲内での部分的な引用は問題ございません。)
  • 本記事では2024年1月~2024年12月に適時開示されたデータを使用しています。


各制度の導入比率

2024年における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。
最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となり、次いで「無償SO」と「株式報酬型SO」の導入比率が多くなっています。

PS・PSUなどの業績連動型株式報酬の導入件数は徐々に増えてきていますが、全体としてはまだ少数という結果になりました。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1,40167.2%
RSU301.4%
PS1145.5%
PSU251.2%
無償SO1828.7%
有償SO1235.9%
株式報酬型SO1557.4%
信託関連552.6%



役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりましたが、「社外協力者」においては「無償SO」が最も多く導入されている制度となりました。

社内役員が他の役職と比べてRSの導入比率が高いのは、自社株式の継続保有による経営陣と株主の利害共有の促進が重視されているものと推測されます。



社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1,16871.9%
RSU231.4%
PS996.1%
PSU211.3%
無償SO976%
有償SO1006.2%
株式報酬型SO1167.1%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS7863.9%
RSU43.3%
PS64.9%
PSU10.8%
無償SO1814.8%
有償SO75.7%
株式報酬型SO86.6%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS9066.4%
RSU251.8%
PS856.2%
PSU171.2%
無償SO16612.1%
有償SO836.1%
株式報酬型SO846.1%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS624%
RSU
PS
PSU
無償SO1144%
有償SO832%
株式報酬型SO


2024年における株式報酬制度の導入傾向(情報・通信業)

続いて、「情報・通信業」の業界に焦点を当てて、株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。

「情報・通信業」における各制度の導入比率

2024年「情報・通信業」における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。最も多く導入されている株式報酬制度は全体の傾向と同じく「RS」となりましたが、全体傾向よりは少ない導入比率です。次いで「無償SO」と「有償SO」の導入比率が多くなっています。

市場全体と比較してRSなどの在籍要件型の制度の割合が低く、有償SOの割合が高くなっているのは、業績や株価にコミットし、その成果に応じてリターンを得るべきという考えが業種全体に根付いている結果と言えるかもしれません。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS19253.5%
RSU51.4%
PS185%
PSU41.1%
無償SO5415%
有償SO4813.4%
株式報酬型SO349.5%
信託関連41.1%



「情報・通信業」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年「情報・通信業」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりましたが、「社外協力者」においては「有償SO」が最も多く導入されている制度となりました。




社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS15760.4%
RSU31.2%
PS176.5%
PSU41.5%
無償SO2911.2%
有償SO3312.7%
株式報酬型SO176.5%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1548.4%
RSU13.2%
PS26.5%
PSU
無償SO825.8%
有償SO26.5%
株式報酬型SO39.7%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS12951.2%
RSU20.8%
PS156%
PSU
無償SO5019.8%
有償SO3413.5%
株式報酬型SO218.3%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS116.7%
RSU
PS
PSU
無償SO116.7%
有償SO466.7%
株式報酬型SO


「情報・通信業」における特定企業の事例

続いて、「情報・通信業」における特定企業の事例を紹介します。今回取り上げるのは「株式会社マネーフォワードの譲渡制限付株式(RS)」「株式会社スマレジのPSU」「Sansan株式会社の無償ストック・オプション」の3つとなります。

株式会社マネーフォワードの譲渡制限付株式(RS)の導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240326/140120240325559218


株式会社マネーフォワードは、クラウド会計ソフトやマネーフォワード MEなどの家計簿アプリを提供する東証プライム上場企業(証券コード:3994)です。

2024年3月26日に同社は譲渡制限付株式報酬として新株式発行を決議しました。発行株式数は108,690株(発行済株式総数の0.20%)、発行価額は1株につき6,505円、総額約7億円となります。

この事例の特徴は、取締役10名、使用人157名、子会社取締役9名、子会社使用人16名と幅広い対象者に株式を割り当てている点です。また、3種類の譲渡制限期間(3年・4年・5年)を設けることで、中長期的な企業価値向上へのインセンティブを段階的に強化しています。

社内取締役・使用人向けの3種類のプラン(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)と社外取締役向けのプラン(Ⅳ)を区別し、それぞれの役割に応じた設計となっています。譲渡制限解除の条件は在籍継続が基本ですが、正当な理由による退職の場合は一定条件下で制限解除される柔軟性も持たせています。



株式会社スマレジのPSUの導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240729/140120240729556550

株式会社スマレジは、iPadなどを活用したクラウド型POSレジシステムを提供する東証グロース上場企業(証券コード:4431)です。

2024年7月29日に同社は事後交付型業績連動型株式報酬(PSU)として自己株式の処分を決議しました。処分する株式数は一部のRS分を含め計24,400株(発行済株式総数の0.12%)、処分価額は1株につき2,318円、総額約5,655万円となります。

この事例の特徴は、取締役6名および従業員6名に対し、昨年度の業績目標達成度に応じて株式を交付する点です。PSU部分に充てられる金銭報酬債権は5,563万円、交付される株式数は24,000株となっています。

同社のPSU制度は2021年に導入され、評価期間を一事業年度とする設計としています。この短期間での評価サイクルにより、年度ごとの業績達成に対する動機付けを強化しています。取締役への報酬枠は年額100百万円以内(社外取締役は20百万円以内)、株式総数は年2万株以内(社外取締役は4千株以内)という上限が設定されています。



Sansan株式会社の無償ストック・オプションの導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240711/140120240711547742

Sansan株式会社は、名刺管理やクラウド請求書サービスを提供する東証プライム上場企業(証券コード:4443)です。

2024年7月11日に同社は従業員に対する無償税制適格ストックオプションの発行を決議しました。発行する新株予約権数は2,231個、権利行使時の交付株式数は223,100株(発行済株式総数の0.18%)、行使価額は1株当たり1,783円となります。

この事例の特徴は、幅広い従業員層(103名)に付与している点です。また、権利行使期間が2026年7月12日から2034年7月11日までと約8年間の長期設計となっており、中長期的な企業価値向上へのコミットメントを促しています。

特に注目すべき点は、権利行使条件として明確な株価目標(3,987円)を設定している点です。この株価水準は行使価額(1,783円)の約2.24倍に相当し、株主と従業員の利害を一致させる工夫がなされています。これにより、権利行使が可能となるためには株価の大幅な上昇が必要となる設計です。

また、税制適格ストックオプションとすることで付与対象者の税務上のメリットにも配慮しています。権利行使には在籍条件も設けられていますが、任期満了や定年退職などの正当な理由がある場合には例外規定も設けるなど、柔軟性も備えています。


2024年における株式報酬制度の導入傾向(サービス業)

続いて、「サービス業」の業界に焦点を当てて、株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。

「サービス業」における各制度の導入比率

2024年「サービス業」における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。最も多く導入されている株式報酬制度は全体の傾向と同じく「RS」となりましたが、全体傾向よりは少ない導入比率です。次いで「無償SO」と「有償SO」の導入比率が多くなっています。

キャピタルゲイン型の無償SO・有償SOの割合が高いのは、株価の上昇があってこその株式報酬と考える企業が多い業種だからかもしれません。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS18055.9%
RSU10.3%
PS134%
PSU10.3%
無償SO5316.5%
有償SO3711.5%
株式報酬型SO309.3%
信託関連72.2%



「サービス業」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年「サービス業」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりましたが、「社外協力者」においては「無償SO」が最も多く導入されている制度となりました。




社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS14861.9%
RSU10.4%
PS125%
PSU
無償SO2811.7%
有償SO2912.1%
株式報酬型SO218.8%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1152.4%
RSU
PS29.5%
PSU
無償SO314.3%
有償SO314.3%
株式報酬型SO29.5%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS10852.4%
RSU10.5%
PS62.9%
PSU10.5%
無償SO4421.4%
有償SO2914.1%
株式報酬型SO178.3%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS125%
RSU
PS
PSU
無償SO250%
有償SO125%
株式報酬型SO


「サービス業」における特定企業の事例

続いて、「サービス業」における特定企業の事例を紹介します。今回取り上げるのは「パーソルホールディングス株式会社の譲渡制限付株式(RS)」「株式会社プログリットのPS」「株式会社識学の株式報酬型ストック・オプション」の3つとなります。

パーソルホールディングス株式会社の譲渡制限付株式(RS)の導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240517/140120240517500574


パーソルホールディングス株式会社は、人材サービス大手として幅広い人材ソリューションを提供する東証プライム上場企業(証券コード:2181)です。

2024年5月17日に同社は譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分における処分株式数及び処分価額を決定しました。処分する株式数は13,104,214株(発行済株式総数の0.56%)と極めて大規模であり、処分価額は1株につき237円、総額約31億円となります。

この事例の特徴は、対象者の規模と広がりにあります。当社の管理職層従業員248名と当社国内子会社の取締役、監査役及び管理職層従業員2,858名の合計3,106名という非常に多くの対象者に株式を付与している点は、他社に例を見ない規模です。

譲渡制限期間は2024年9月25日から2027年3月31日までの約2年半に設定されており、この期間中は第三者への譲渡や担保設定などが禁止されています。制度設計の基準日は2024年4月1日とされ、この日に在籍する管理職層従業員等に対する3年間の労務へのインセンティブとして位置づけられています。



株式会社プログリットのPSの導入事例





🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20241127/140120241126529828

株式会社プログリットは、プログラミングスクールやエンジニア教育事業を展開する東証グロース上場企業(証券コード:9560)です。

2024年11月27日に同社は譲渡制限付株式報酬としての新株式発行を決議しました。この制度は特徴的な二本立て構造となっており、一般的な譲渡制限付株式報酬(RS)に加えて、業績条件型譲渡制限付株式報酬(PS)を併せて導入しています。今回の発行株式数は合計28,456株(発行済株式総数の0.23%)、公正な評価額は1株につき1,142円、総額約3,250万円相当となります。

この事例の最大の特徴は、2種類の株式報酬制度を組み合わせている点です。全体の発行株式のうち、約48%に当たる13,571株が業績条件型として設計されており、明確な業績目標達成を条件に譲渡制限が解除される仕組みとなっています。具体的には、2025年8月期の売上高および営業利益に係る目標値の達成が条件として設定されています。

対象者は社外取締役を除く取締役3名に限定されており、年間の株式報酬枠として60,000株以内・6,000万円以内という上限が設けられています。譲渡制限期間は両制度とも2024年11月27日から2025年の定時株主総会開催日までと設定されています。

特筆すべき点として、業績条件型の譲渡制限付株式は、組織再編時の取扱いが通常のRSと異なっています。業績条件型では、組織再編の効力発生日が譲渡制限期間満了前に到来する場合、譲渡制限を解除せずに全株式を無償取得する設計となっており、業績目標達成へのコミットメントを強く求める姿勢が表れています。



株式会社識学の株式報酬型ストック・オプションの導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240612/140120240612526845

株式会社識学は、組織コンサルティングや経営メソッドの提供を行う東証グロース上場企業(証券コード:7049)です。

2024年6月12日に同社は取締役および取締役を兼務しない上級執行役員に対して、株式報酬型ストック・オプションとしての新株予約権の発行を決議しました。発行する新株予約権は1,600個、権利行使時の交付株式数は160,000株(発行済株式総数の1.75%)、行使価額は1株当たり1円という極めて低い設定となっています。

この事例の特徴は、明確な業績連動型のベスティング(権利確定)条件を設けている点です。業績目標として「2025年2月期の連結業績予想の親会社株主に帰属する当期純利益額(37百万円)」と「株価(2024年2月末501円)」について、それぞれ10%・20%・30%・40%の超過達成度に応じて、25%・50%・75%・100%と段階的に権利行使可能な新株予約権数が増加する仕組みとなっています。

対象者は社外取締役を除く取締役2名と取締役を兼務しない上級執行役員1名に限定され、全体で1.75%程度の希薄化が生じるものの、業績向上と株主価値向上へのインセンティブとして合理的な範囲と説明されています。


2024年における株式報酬制度の導入傾向(小売業)

続いて、「小売業」の業界に焦点を当てて、株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。

「小売業」における各制度の導入比率

2024年「小売業」における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。最も多く導入されている株式報酬制度は全体の傾向と同じく「RS」となりました。次いで「無償SO」と「株式報酬型SO」の導入比率が多くなっています。

小売業はビジネスモデルとして安定的な成長を見込む企業が多く、その特性ゆえに業績連動型の株式報酬はマッチしないと考える企業が多いのかもしれません。結果として、在籍要件型のRS、無償SO、株式報酬型SOの割合が高くなっていると考えられます。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS10962.3%
RSU
PS74%
PSU
無償SO2011.4%
有償SO169.1%
株式報酬型SO2011.4%
信託関連31.7%



「小売業」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年「小売業」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりましたが、「社外協力者」においては「有償SO」が最も多く導入されている制度となりました。




社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS9366.4%
RSU0.4%
PS64.3%
PSU
無償SO107.1%
有償SO1510.7%
株式報酬型SO1611.4%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS583.3%
RSU
PS
PSU
無償SO116.7%
有償SO14.3%
株式報酬型SO


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS6060.6%
RSU
PS66.1%
PSU
無償SO1919.2%
有償SO77.1%
株式報酬型SO77.1%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS
RSU
PS
PSU
無償SO125%
有償SO375%
株式報酬型SO


「小売業における特定企業の事例

続いて、「小売業」における特定企業の事例を紹介します。今回取り上げるのは「株式会社コロワイドの譲渡制限付株式(RS)」「アスクル株式会社のPSUの導入事例」「株式会社東京一番フーズの無償ストック・オプション」の3つとなります。

株式会社コロワイドの譲渡制限付株式(RS)の導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240709/140120240709546005


株式会社コロワイドは、「甘太郎」「北の家族」「牛角」などの居酒屋チェーンを展開する外食産業大手の東証プライム上場企業(証券コード:7616)です。

2024年7月9日、同社は譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分を決議しました。処分する株式数は26,500株(発行済株式総数の0.03%)、処分価額は1株につき2,018.5円、総額約5,349万円となります。

この事例の特徴は、役員区分に応じた幅広い対象者への付与となっている点です。当社の取締役(監査等委員である取締役および社外取締役を除く)5名、当社の取締役を兼務しない執行役員1名、そして当社連結子会社の代表取締役1名と、グループ全体の経営層に対象を広げています。

同社の譲渡制限付株式報酬制度は2021年に導入され、同年6月の定時株主総会で承認を受けています。取締役に対する報酬枠は年額150百万円以内・年間50,000株以内と設定されています。

最大の特徴は、譲渡制限期間の設計にあります。割当日から「役職員等のいずれの地位をも退任または退職した時点まで」という、一般的な株式報酬制度よりも長期にわたる設計となっており、長期的な企業価値向上と株主との価値共有を重視しています。

また、譲渡制限解除の条件として「任期満了、定年、死亡、疾病による職務・就業不能または自己の都合に基づかない辞任・退職」などの正当理由を詳細に定めています。組織再編時の取り扱いも明確に規定され、役務提供期間(定時株主総会終結直後から次回定時株主総会終結時までの間)に応じた按分計算による譲渡制限解除の仕組みが整備されています。





アスクル株式会社の譲渡制限付株式の導入事例




🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240808/140120240808567843

アスクル株式会社は、オフィス用品の通販やEコマースを展開する東証プライム上場企業(証券コード:2678)です。

2024年8月8日、同社は譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分を決議しました。処分する株式数は役員等向けが23,600株(発行済株式総数の0.10%)、従業員向けが46,800株の合計70,400株、処分価額は1株につき2,051円、総額約1億4,439万円となります。

この事例の特徴は、従業員まで含めた幅広い対象者への付与となっている点です。当社の取締役(社外取締役を除く)3名、当社の執行役員8名、当社子会社取締役2名だけでなく、部長等の従業員122名にまで対象を広げています。

同社の譲渡制限付株式報酬制度は、「勤務継続条件付」と「ESG指標条件付」の2種類を設計している点が画期的です。勤務継続条件付が全体の約65%、ESG指標条件付が約35%という配分となっています。

最大の特徴は、ESG指標条件の設定内容にあります。環境(1箱あたり商品数の増加による配達個数低減など)、社会(従業員エンゲージメント指数、女性管理職比率30%)、ガバナンス(外部機関による評価)という5項目を設定し、「エシカルeコマース」を標榜する企業理念と報酬制度を連動させています。



株式会社東京一番フーズの無償ストック・オプションの導入事例



🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20241126/140120241125528841

株式会社東京一番フーズは、東証スタンダード市場に上場する外食企業(証券コード:3067)です。

2024年11月26日に同社は取締役に対するストックオプション(新株予約権)の割当について取締役会で決議しました。これは前年12月26日開催の株主総会で承認された内容に基づくものです。

この事例の特徴は、会社の長期的な企業価値向上への貢献意欲や士気を高めることを目的とし、特に取締役4名を対象とした無償発行となっている点です。新株予約権の総数は2,000個(発行済株式総数の2.21%)です。

また、代表取締役社長が支配株主であることから「支配株主との取引等に関する事項」として、公正性と妥当性の確保のための措置が詳細に記載されています。取締役会での審議・決議から当該支配株主を除外し、独立役員である社外監査役3名から「少数株主に不利益なものではない」との意見書を取得するなど、コーポレート・ガバナンス上の配慮がなされています。

社外監査役からの意見では、①職責が会社業績向上であること、②株主総会の特別決議で承認されていること、③発行内容・条件が適正であること、④規則・手続きに基づいていること、⑤希薄化の影響が限定的(2.21%)であることなどが根拠として挙げられています。


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ここまで、主要な業界の株式報酬事例を紹介してきました。

本記事の内容が株式報酬制度を検討している皆さまの参考になれば幸いです。

O f All株式会社では、株式報酬制度やストック・オプションの設計・導入、役員報酬設計までトータルでご支援しております。未上場/上場、どのフェーズでも柔軟にお応え可能です。

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