株式報酬

株式報酬制度の事例を市場区分ごとに解説

この記事でわかること

  • 株式報酬制度の全体傾向や市場区分ごとの事例
  • RS・RSU・PS・PSU・SOの市場区分ごとの事例
  • RS・RSU・PS・PSU・SOにおける特定企業の事例

著者プロフィール

福地 悠太

O f All株式会社

代表取締役

福地 悠太

主に上場企業に対するストック・オプションの設計・導入支援、エクイティ・ファイナンスに関するアドバイザリー業務、M&Aアドバイザリー業務等に従事。証券株式会社を経て、再びコンサルティング業に戻り、株式報酬制度の設計・導入支援、役員報酬制度の設計、指名報酬委員会の設置・運用に係る助言業務等を行う。

 

 

株式報酬制度を検討していく際に、気になるポイントとして挙げられるのが他社の導入事例です。

 

本記事ではRS・RSU・PS・PSU・無償SO・株式報酬型SO・有償SO・信託関連(株式給付信託等)の8種類を中心に全体の導入傾向や主要な【東京証券取引所の市場区分ごと】の導入傾向と特定企業の事例を整理し、解説していきます。

 

株式報酬制度について、網羅的に知りたいという方は以下の記事をご確認下さい。
🔗株式報酬制度とは?基礎から11種類の制度・選び方まで理解しやすく解説

 

今回の事例解説で取り上げる株式報酬制度

今回、事例として取り上げる株式報酬制度はRS・RSU・PS・PSU・無償SO・株式報酬型SO・有償SO・信託関連(株式給付信託等)の8種類です。


本記事では上記の8種類の株式報酬制度を中心に弊社が提供する「🔗株式報酬データベース」を活用しながら事例を解説していきます。

株式報酬制度・株価連動金銭報酬の種類フェーズ概要
譲渡制限付株式(RS)上場企業   一定期間の譲渡制限(継続勤務等の条件)が付された現物株式を付与する報酬制度。
譲渡制限付株式ユニット(RSU)上場企業一定期間の継続勤務等の条件付で株式が交付される権利(ユニット)を付与する報酬制度。
パフォーマンス・シェア(PS)上場企業事前に設定した業績目標等(売上高・利益額など)による譲渡制限が付された現物株式を付与する報酬制度。
パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)上場企業事前に設定した業績目標等(売上高・利益額など)が達成された際に株式が交付される権利(ユニット)を付与する報酬制度。
株式給付信託上場企業信託を通じて対象者へ自社株式を給付する報酬制度。給付に際してはポイントを介す。
株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)    上場企業発行のタイミングで付与対象者による金銭の払い込みを必要とせず、権利行使価額を1円に設定するストック・オプション。
無償ストック・オプション上場企業
未上場企業
あらかじめ定めた価額(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利(新株予約権)を付与する報酬制度。税制適格要件を満たせば、課税のタイミングが1回のみとなるが、税制適格要件を満たさない場合、課税は権利行使時と株式売却時の2回にわたり行われる。
有償ストック・オプション上場企業
未上場企業
新株予約権の発行のタイミングで付与対象者による金銭の払い込みが発生する。税務上、報酬ではなく、有価証券の売買として扱われる。


すべての株式報酬制度を確認したい方は「🔗主な株式報酬制度・株価連動金銭報酬 11種類を解説」をご確認下さい。


また、本記事では、株式報酬制度の導入事例を「東証グロース」「東証スタンダード」「東証プライム」の3つの市場区分に焦点を当てて、解説していきます。


株式報酬制度の導入事例を業種ごとに解説した記事は以下をご確認ください。

🔗株式報酬制度の事例を業種ごとに解説


2024年における株式報酬制度の導入傾向(市場全体)

まずは、2024年における市場全体の株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。


なお、今回使用するデータは「🔗株式報酬データベース」をもとに作成しています。
株式報酬データベースの留意点は下記をご確認ください。

  • 本データベースは、上場企業の適時開示を参照して作成しています。
  • 本データベースは無償SO・有償SO・株式報酬型SO・RS・RSU・PS・PSU・信託に関連する制度を対象としています。
  • 一部、AIを用いて処理をしている箇所も含まれるため、誤った結果や予期しない結果・重複が表示される場合もございます。正確な情報については各適時開示のPDFをご確認下さい。
  • 調査・作成に関しては細心の注意を払っておりますが、内容及び情報の正確性等を必ずしも保証するものではございません。
  • 本データについて、事前に承諾を得ることなく、これらの内容を複製・加工譲渡することはご遠慮ください。(ただし、常識及び著作権法等の法令で認められる範囲内での部分的な引用は問題ございません。)
  • 本記事では2024年1月~2024年12月に適時開示されたデータを使用しています。


各制度の導入比率

2024年における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。
最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となり、次いで「無償SO」と「株式報酬型SO」の導入比率が多くなっています。

PS・PSUなどの業績連動型株式報酬の導入件数は徐々に増えてきていますが、全体としてはまだ少数という結果になりました。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1,40167.2%
RSU301.4%
PS1145.5%
PSU251.2%
無償SO1828.7%
有償SO1235.9%
株式報酬型SO1557.4%
信託関連552.6%



役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりましたが、「社外協力者」においては「無償SO」が最も多く導入されている制度となりました。

社内役員が他の役職と比べてRSの導入比率が高いのは、自社株式の継続保有による経営陣と株主の利害共有の促進が重視されているものと推測されます。



社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1,16871.9%
RSU231.4%
PS996.1%
PSU211.3%
無償SO976%
有償SO1006.2%
株式報酬型SO1167.1%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS7863.9%
RSU43.3%
PS64.9%
PSU10.8%
無償SO1814.8%
有償SO75.7%
株式報酬型SO86.6%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS9066.4%
RSU251.8%
PS856.2%
PSU171.2%
無償SO16612.1%
有償SO836.1%
株式報酬型SO846.1%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS624%
RSU
PS
PSU
無償SO1144%
有償SO832%
株式報酬型SO


2024年における株式報酬制度の導入傾向(東証グロース)

続いて、「東証グロース」市場に焦点を当てて、株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。

「東証グロース」における各制度の導入比率

2024年「東証グロース」における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。最も多く導入されている株式報酬制度は全体の傾向と同じく「RS」となりましたが、全体傾向よりは少ない導入比率です。次いで「無償SO」と「有償SO」の導入比率は全体よりも多くなっています。

全体と比較してRSなどのフルバリュー型の比率が低く、無償SO・有償SOといったキャピタルゲイン型の比率が高いのは、成長性が高い企業が属するグロース市場ならではであり、業績および企業価値向上へのインセンティブ付け、株価上昇に対するコミットメントの引き出しが重要なフェイズであることを表しています。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS13745.4%
RSU10.3%
PS134.3%
PSU20.7%
無償SO7023.2%
有償SO6019.9%
株式報酬型SO196.3%
信託関連0



「東証グロース」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年「東証グロース」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりましたが、「社外協力者」においては「無償SO」が最も多く導入されている制度となりました。




社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS10750.5%
RSU10.5%
PS125.7%
PSU10.5%
無償SO3717.5%
有償SO4521.2%
株式報酬型SO94.2%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS1851.4%
RSU
PS
PSU
無償SO1028.6%
有償SO411.4%
株式報酬型SO38.6%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS8037.6%
RSU10.5%
PS104.7%
PSU20.9%
無償SO6229.1%
有償SO4320.2%
株式報酬型SO157%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS
RSU
PS
PSU
無償SO758.3%
有償SO541.7%
株式報酬型SO


「東証グロース」における特定企業の事例

続いて、「東証グロース」における特定企業の事例を紹介します。今回取り上げるのは「株式会社トヨクモの譲渡制限付株式(RS)」「株式会社サイフューズのPS」「株式会社タイミーの無償ストック・オプション」の3つとなります。

株式会社トヨクモの譲渡制限付株式(RS)の導入事例



🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240415/140120240412570432


株式会社トヨクモは、クラウドサービスを提供する東証グロース上場企業(証券コード:4058)です。

2024年4月15日、同社は譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分を決議しました。処分する株式数は46,070株(発行済株式総数の0.42%)、処分価額は1株につき1,515円、総額約6,980万円となります。

この事例の特徴は、取締役と従業員の両方を対象としている点です。当社の取締役(社外取締役を除く)4名に39,338株、従業員4名に6,732株を割り当てることで、経営層から一般社員まで幅広く株主との価値共有を進める設計となっています。

特徴は、譲渡制限期間の設計にあります。割当日から「当社又は当社子会社の取締役又は従業員のいずれも退任又は退職する日」までとされていますが、最低でも2025年4月1日までは譲渡制限が継続する仕組みとなっており、長期的な企業価値向上へのコミットメントを促しています。

組織再編時の取り扱いについても細かく規定されており、合併や株式交換等が承認された場合には、役務提供期間の経過月数に応じた按分計算による譲渡制限解除が行われる仕組みとなっています。



株式会社サイフューズのPSの導入事例



🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240417/140120240417572162

株式会社サイフューズは、再生医療分野で事業を展開する東証グロース市場上場のバイオテクノロジー企業(証券コード:4892)です。

2024年4月17日、同社は譲渡制限付株式報酬としての新株式発行を決議しました。発行する株式数は当社普通株式210,000株(発行済株式総数の2.58%)、発行価額は1株につき696円、発行価額の総額は146,160,000円となります。

この事例は、取締役(社外取締役を除く)のみを対象としています。割当予定先は当社取締役(社外取締役を除く)3名に対して210,000株となっており、経営陣の株式価値向上へのコミットメントを強化する設計となっています。

最大の特徴は、譲渡制限付株式の二種類の設計にあります。「在任条件型譲渡制限付株式」と「業績連動型譲渡制限付株式」という二つの異なるタイプを組み合わせた制度となっています。在任条件型は役員等の地位退任までという長期設計であるのに対し、業績連動型は2027年5月14日までの約3年間という設計です。

業績連動型譲渡制限付株式の解除条件として、同社の再生医療パイプライン等の製造販売承認申請の受理という明確な事業目標を設定しています。これにより、株式報酬と事業戦略の達成度が直接リンクする仕組みを構築しています。

また、譲渡制限解除の条件として、在任条件型は2034年5月14日までの10年間という長期にわたる役務提供期間を設定し、業績連動型は基本的に株式の2分の1が解除されるものの、製造販売承認申請が受理された場合は全部解除されるという業績達成度に応じた柔軟な設計となっています。



株式会社タイミーの無償ストック・オプションの導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20241015/140120241015597869

株式会社タイミーは、東証グロース市場に上場する人材派遣・マッチングサービスを提供する企業(証券コード:215A)です。

この事例の特徴は、従業員のみを対象としている点です。割当対象は、第15回新株予約権が当社従業員1名に6個(18,000株相当)、第16回新株予約権が当社従業員2名に2個(6,000株相当)となっています。(発行済株式総数の0.17%)本新株予約権は、業績向上に関する意欲や士気を高めることを目的として、無償にて発行されます。

同社のストック・オプション制度の特徴として、長期的かつ段階的な権利行使期間が設定されている点が挙げられます。
最大の特徴である段階的な権利行使条件の設定について、第15回新株予約権では、割当日から2年経過後に3分の2、3年経過後に全数が行使可能となる設計です。一方、第16回新株予約権では、割当日から3年経過後に3分の1、4年経過後に3分の2、5年経過後に全数が行使可能となる、よりゆるやかな段階設計となっています。これにより、付与から全数行使までの期間が長くなり、長期的なインセンティブとして機能する仕組みとなっています。

組織再編行為時の取扱いも詳細に規定されており、合併や会社分割、株式交換等が行われる場合には、再編対象会社の新株予約権が一定の条件で交付される仕組みとなっています。


2024年における株式報酬制度の導入傾向(東証スタンダード)

続いて、「東証スタンダード」市場に焦点を当てて、株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。

「東証スタンダード」における各制度の導入比率

2024年「東証スタンダード」における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。最も多く導入されている株式報酬制度は全体の傾向と同じく「RS」となりましたが、全体傾向や東証グロースよりも多く、約80%の導入比率です。次いで「株式報酬型SO」と「無償SO」の導入比率が多くなっています。また、PSUに関しては今回の集計では導入されていない結果となりました。

安定的な成長を計画する企業が多く属する市場であるため、大幅な株価上昇時にメリットが大きいキャピタルゲイン型のSO導入比率が低く、フルバリュー型かつ在籍要件型となるRSの導入比率が高くなっているものと推測されます。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS49277.8%
RSU30.5%
PS213.3%
PSU
無償SO325.1%
有償SO294.6%
株式報酬型SO386%
信託関連172.7%



「東証スタンダード」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年「東証スタンダード」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」「社外協力者」、すべての役職で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりました。




社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS42580.2%
RSU30.6%
PS203.8%
PSU
無償SO193.6%
有償SO275.1%
株式報酬型SO366.8%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS2871.8%
RSU12.6%
PS12.6%
PSU
無償SO512.8%
有償SO25.1%
株式報酬型SO25.1%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS26480%
RSU10.3%
PS113.3%
PSU
無償SO288.5%
有償SO164.8%
株式報酬型SO103%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS350%
RSU
PS
PSU
無償SO233.3%
有償SO116.7%
株式報酬型SO


「東証スタンダード」における特定企業の事例

続いて、「東証スタンダード」における特定企業の事例を紹介します。今回取り上げるのは「ミナトホールディングス株式会社の譲渡制限付株式(RS)」「ウェルス・マネジメント株式会社のPS」「株式会社ハブの株式報酬型ストック・オプション」の3つとなります。

ミナトホールディングス株式会社の譲渡制限付株式(RS)の導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240724/140120240724554190


ミナトホールディングス株式会社は、IT関連機器や半導体などの製造・販売を行う東証スタンダード市場に上場する企業(証券コード:6862)です。

2024年7月24日、同社は譲渡制限付株式報酬として自己株式の処分を取締役会で決議しました。処分する株式は当社普通株式178,000株(発行済株式総数の2.26%)、処分価額は1株につき755円、処分総額は134,390,000円となります。

対象者は当社・子会社の取締役・執行役員32名(167,000株)と監査等委員2名(11,000株)と幅広く設定されています。

最大の特徴は、2024年6月27日の第68回定時株主総会において承認された譲渡制限期間の変更にあります。従来の比較的短期の譲渡制限期間から、「本割当契約により割当契約を受けた日より、当社又は当社の子会社の取締役(監査等委員である取締役を除く)、監査等委員である取締役、監査役、執行役、執行役員及び使用人その他当社の取締役会があらかじめ定める地位を退任した直後の時点又は株式の交付を受けた日の属する事業年度経過後3ヶ月を経過した直後の時点のいずれか遅い時点までの間」という、より長期にわたる設計に変更されました。

この変更により、対象役員が退任時まで譲渡制限付株式を保有することで当社の企業価値の持続的向上に向けた貢献をより一層高め、株主との価値共有を可能な限り実現させる設計となっています。重要な点として、この変更は今後付与される譲渡制限付株式に適用されるものであり、すでに付与済の譲渡制限付株式については譲渡制限期間を変更するものではない点が明記されています。




ウェルス・マネジメント株式会社のPSの導入事例





🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240510/140120240510589824

ウェルス・マネジメント株式会社は、資産運用や不動産関連サービスを提供する東証スタンダード市場上場企業(証券コード:3772)です。

2024年5月10日、同社は業績連動交付型の譲渡制限付株式報酬として新株発行を取締役会で決議しました。発行株式数は当社普通株式107,500株(発行済株式総数の0.01%)、発行価額は1株につき1,126円、発行総額は121,045,000円です。

この事例の特徴は、業績連動交付型である点と対象者の範囲が広い点です。割当対象は当社の業務執行取締役5名(61,800株)と当社の執行役員およびグループ執行役員6名(45,700株)となっています。

同社の業績連動交付型譲渡制限付株式報酬制度は2017年に導入され、その後2020年、2021年、2022年の定時株主総会でそれぞれ改定が承認されています。本制度には、対象取締役に対して年額150百万円以内で金銭報酬債権を支給すること、および譲渡制限期間を払込期日から役員退任日以後の取締役会が予め定める日までとすることが含まれています。

最大の特徴は、業績連動型の設計にあります。本制度では、原則として事業年度毎に、前事業年度の経常利益の一定割合を原資として、各対象役員の経常利益への貢献度に応じて譲渡制限付株式を割り当てる仕組みとなっています。これにより、業績向上と株主価値向上のインセンティブが明確に連動する設計となっています。

特徴的な点として、譲渡制限を解除すべき時点において、対象者が本割当株式の割当日の属する事業年度終了後3ヶ月を超えていなかった場合には、当該事業年度終了から3ヶ月経過後に譲渡制限を解除するという条件が付されています。これは、最低限の在任期間を確保する仕組みといえます。



株式会社ハブの株式報酬型ストック・オプションの導入事例



🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20241011/140120241011597002

株式会社ハブは、「HUB」ブランドの英国風パブを展開する東証に上場する外食企業(証券コード:3030)です。

2024年10月11日、同社は従業員に対して株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の付与を取締役会で決議しました。

この事例の特徴は、対象者が従業員のみに限定されている点です。割当対象は当社従業員302名、割当数は2,233個(1個あたり100株で計223,300株相当)と広範囲に及んでいます。(発行済株式総数の1.74%)

同社の株式報酬型ストックオプション制度は、業績向上に対する貢献意欲や士気を一層高め、更なる企業価値の向上を図ることを目的としています。

特徴としては、「株式報酬型」という設計にあります。行使価額(払込金額)が1円と極めて低く設定されており、実質的に株式を無償で付与するのに近い仕組みとなっています。これにより、株価の上昇下落に関わらず価値が維持される点が通常のストックオプションと異なります。

行使期間は2029年12月12日から2032年12月11日までと約3年間に設定されており、権利確定までに5年の待機期間を設けています。これにより従業員の長期的な在籍を促進する設計となっています。

株式会社ハブの事例は、従業員の長期的な貢献意欲を引き出すための株式報酬型ストックオプションの実践例として注目に値します。1円という低い行使価額設定と5年間の待機期間により、株価変動リスクを抑えつつ従業員の長期的な在籍を促進する設計となっています。また、302名という多数の従業員を対象としており、全社的な企業価値向上へのインセンティブ付与を目指す姿勢が表れています。



2024年における株式報酬制度の導入傾向(東証プライム)

続いて、「東証プライム」の市場に焦点を当てて、株式報酬制度の導入傾向を見ていきます。

「東証プライム」における各制度の導入比率

2024年「東証プライム」における各制度の導入比率は全体で見ると下記の通りとなりました。最も多く導入されている株式報酬制度は全体の傾向と同じく「RS」となりました。次いで「株式報酬型SO」と「PS」の導入比率が多くなっています。

すでに企業規模が大きくなっている成熟企業が属する市場であるため、株価上昇時にメリットが大きいキャピタルゲイン型のSOは導入比率が低く、一方で、業績へのコミットメントとIR的なメッセージを込めつつ株主との価値共有を進めるためにフルバリュー型かつ業績連動型のPS・PSUの導入比率が高くなっていると考えられます。




制度の種類件数(推定値)導入比率
RS76067.9%
RSU262.3%
PS797.1%
PSU232.1%
無償SO676%
有償SO312.8%
株式報酬型SO958.5%
信託関連383.4%



「東証プライム」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)

続いて、役職別にどのような株式報酬制度が導入されているかを見ていきます。
2024年「東証プライム」における役職ごとの各制度の導入比率(信託関連除く)は下記の通りとなりました。

「社内役員」「社外役員」「従業員」「社外協力者」、すべての役職で最も多く導入されている株式報酬制度は「RS」となりました。




社内役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS62572.9%
RSU192.2%
PS667.7%
PSU202.3%
無償SO333.9%
有償SO252.9%
株式報酬型SO698.1%


社外役員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS3166%
RSU36.4%
PS510.6%
PSU36.4%
無償SO36.4%
有償SO12.1%
株式報酬型SO36.4%


従業員

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS55969.6%
RSU232.9%
PS637.8%
PSU151.9%
無償SO648%
有償SO222.7%
株式報酬型SO577.1%


社外協力者

制度の種類件数(推定値)導入比率
RS360%
RSU
PS
PSU
無償SO
有償SO240%
株式報酬型SO


「東証プライムにおける特定企業の事例

続いて、「東証プライム」における特定企業の事例を紹介します。今回取り上げるのは「中外製薬株式会社のPS」「オリンパス株式会社のRSU・PSU」「株式会社TOKYO BASEの有償ストック・オプション」の3つとなります。

中外製薬株式会社のPSの導入事例

🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240328/140120240328561632


中外製薬株式会社は、医薬品の研究開発・製造・販売を行う東証プライム市場上場の製薬企業(証券コード:4519)です。

2024年3月28日、同社は譲渡制限付株式報酬として自己株式の処分を取締役会で決議しました。処分する株式は当社普通株式100,200株(発行済株式総数の0.01%)、処分価額は1株につき5,927円、処分総額は593,885,400円です。

この事例の特徴は、対象者の範囲が広く設定されている点です。処分先は取締役3名(38,800株)、執行役員11名(22,000株)、従業員105名(35,500株)、子会社取締役4名(1,200株)、子会社従業員9名(2,700株)の計132名となっており、グループ全体での株主価値共有を目指しています。

同社の譲渡制限付株式報酬制度は2017年に導入され、特徴的な2種類の株式報酬で構成されています。「勤務継続型譲渡制限付株式」は一定期間継続して役職員を務めることを条件とし、「業績連動型譲渡制限付株式」は継続在籍条件に加えて中長期的な業績目標達成を条件としています。

最大の特徴は、業績連動型譲渡制限付株式における業績指標の設計です。比較対象企業群における3年間(2024年1月から2026年12月)のTotal Shareholders Return (TSR)の当社順位に応じて解除率が0%~100%の範囲で設定される仕組みとなっています。TSRは「(評価期間中の株価上昇額+評価期間中の配当額)÷当初株価」で計算され、株主視点での企業価値向上を直接的に反映する設計となっています。

中外製薬の事例は、幅広い対象者への付与と業績連動型・勤務継続型の2種類の設計を組み合わせることで、グループ全体での株主価値共有と中長期的な企業価値向上へのインセンティブ付与を実現する譲渡制限付株式報酬の実践例として注目に値します。特に、TSRという株主還元指標と競合他社との比較による業績連動型の設計は、株主視点に立った報酬制度として優れた特徴を持っています。





オリンパス株式会社のRSU・PSUの導入事例




🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20240513/140120240513592012

オリンパス株式会社は、医療機器・科学機器などを製造・販売する東証プライム市場上場企業(証券コード:7733)です。

2024年5月13日、同社は事後交付型譲渡制限付株式報酬(RSU)制度および業績連動型株式報酬(PSU)制度に基づく自己株式の処分を決定しました。処分する株式は当社普通株式189,070株(発行済株式総数の0.02%)、処分価額は1株につき2,289円、処分総額は432,781,230円です。

この事例の最大の特徴は、事後交付型と業績連動型という2種類の株式報酬を組み合わせていることです。処分先は、4種類のRSU(FY2022-RSU、Transformational FY22-RSU、FY2023-RSU、FY2024-RSU)および1種類のPSU(FY2022-PSU)の割当対象者となっており、非業務執行取締役、執行役、執行役員、当社グループの従業員と幅広い対象者に報酬を付与しています。

オリンパスの株式報酬制度は2018年より段階的に拡充されてきました。2018年に取締役と執行役員に対するPSU制度を導入し、2019年の指名委員会等設置会社への移行後も執行役や執行役員に対して継続しています。2021年からはRSU制度を導入し、2022年には執行役員に、2023年からはグループの上級管理職にも同様の制度を適用しています。

RSU制度の特徴は、権利算定期間において当社グループに在籍することを条件として予め定めた数の株式を取得する権利を付与し、設定した時期に株式を支給する仕組みです。FY2022-RSUは権利算定期間3年で一括支給型、FY2023-RSUとFY2024-RSUは権利算定期間3年で1/3ずつ毎年支給する分割型となっています。
特筆すべきは「Transformational FY22-RSU」という特別付与型のRSUです。これは新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化し、2019-2021年度を評価期間とするPSUの支給率が0%となった中でも、執行役が将来の成長につながる成果を出したと評価し、株主との利害共有を強化する目的で2021年に決定された特別報酬です。

PSU制度は3年間の業績評価期間で予め基準株数を設定し、業績指標の達成度に応じて調整した株式数を交付する制度です。FY2022-PSUでは営業利益率、相対TSR(株主総利回り)、ESGを業績評価指標としており、業績評価期間終了後に支給率を決定しています。



株式会社TOKYO BASEの有償ストック・オプションの導入事例



🔗https://kabutan.jp/disclosures/pdf/20241126/140120241125528841

株式会社TOKYO BASEは、「STUDIOUS」「UNITED TOKYO」などのアパレルブランドを展開する東証プライム上場企業(証券コード:3415)です。

2024年7月8日、同社は取締役会決議により、取締役向けの有償ストック・オプション(第10回新株予約権)および従業員向けの税制適格ストック・オプション(第11回新株予約権)の発行を決議しました。発行数は取締役向け9,000個(900,000株)、従業員向け2,500個(250,000株)、合計で発行済株式総数の2.67%に相当します。

この事例の特徴は、取締役と従業員で異なるインセンティブ設計を採用している点です。取締役向けは投資型の有償発行(1個あたり100円)となっており、株価が行使価格の30%を下回った場合に残存する全ての新株予約権の行使義務が発生する仕組みです。一方、従業員向けは中期経営計画(FY24-28)目標である営業利益3,000百万円達成時のみ行使可能な業績連動型となっています。

同社の新株予約権制度は、中期経営計画達成に向けたコミットメントを高めることを主目的としています。取締役には株価変動リスクを株主と共有させ、従業員には業績目標達成を条件とすることで、既存株主の利益に貢献する設計となっています。


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