株式報酬

株式報酬に係る開示規制の見直し 臨時報告書特例の適用要件の変更について

この記事でわかること

  • 有価証券の募集又は売出し時の通常の開示手続き
  • 報酬として株式や新株予約権を付与する際の特例
  • 2025年の改正のポイントと今後の展望

著者プロフィール

福地 悠太

O f All株式会社

代表取締役

福地 悠太

主に上場企業に対するストック・オプションの設計・導入支援、エクイティ・ファイナンスに関するアドバイザリー業務、M&Aアドバイザリー業務等に従事。証券株式会社を経て、再びコンサルティング業に戻り、株式報酬制度の設計・導入支援、役員報酬制度の設計、指名報酬委員会の設置・運用に係る助言業務等を行う。

 

役員や従業員に株式等を報酬として付与する際には、関連法令を十分に理解し、当該法令に則った手続きを行う必要があります。

 

本稿では、特に理解がしにくい金融商品取引法施行令並びに企業内容等の開示に関する内閣府令に基づく株式報酬付与時の開示規制について、2025年の法改正なども踏まえて解説します。

 

株式報酬制度について、網羅的に知りたいという方は以下の記事をご確認下さい。
🔗株式報酬制度とは?基礎から11種類の制度・選び方まで理解しやすく解説

 

有価証券の募集又は売出し時の通常の開示手続き

企業が自社の株式や新株予約権を新規に発行する際や自己株式等の処分をしようとする場合、当該株式等の割当先の募集や売出にあたり、下表の基準に基づき開示(財務局への書類提出)が必要になります。


【非開示会社(有価証券報告書の提出をしていない会社)】

区分発行(売出)価額の総額
1千万円以下
発行(売出)価額の総額
1千万円超から1億円未満
発行(売出)価額の総額
1億円以上
・募集不要有価証券通知書有価証券届出書
・売出不要有価証券通知書有価証券届出書



【開示会社(有価証券報告書の提出をしている会社)】

区分発行(売出)価額の総額
1千万円以下
発行(売出)価額の総額
1千万円超から1億円未満
発行(売出)価額の総額
1億円以上
・募集不要有価証券通知書有価証券届出書
・売出不要不要有価証券通知書


※1 関東財務局「🔗企業内容等開示制度」に基づき作成

※2 発行(売出し)価額の総額とは、株式の場合はその株式の価額に株数を乗じた総額、新株予約権の場合は新株予約権の価額と権利行使価額の合算額に個数を乗じた総額となります。

役員や従業員に株式や新株予約権(ストック・オプション)を付与する場合も「募集」に該当するため、通常であれば一定の金額以上の発行価額総額になる場合、有価証券通知書または有価証券届出書の提出が必要になります。


しかしながら、特に有価証券届出書は作成負担が大きく、提出にあたって財務局への事前相談が必要になるなど、報酬付与の手続きとしては企業にとって手間と時間がかかりすぎる点が課題として挙げられていました。

報酬として株式や新株予約権を付与する際の特例

そこで、金融商品取引法施行令及び企業内容等の開示に関する内閣府令では、企業の役職員等に報酬として株式や新株予約権を付与する際の募集については、一定の要件を満たす場合に開示規制を緩和する特例を設けています。

これは一般に臨報特例などと呼ばれるもので、募集する株式または新株予約権が法令に定める要件を満たすものであれば、有価証券届出書に代わって臨時報告書の提出をすることとされています。

臨時報告書は、有価証券届出書と比較するとボリュームが少なく作成の負担が軽いとともに、提出にあたっての事前相談を要しません。そのため、大きな負担なく迅速に報酬を付与することが可能になります。

この特例の適用を受けるための要件は、募集する有価証券が株式と新株予約権である場合それぞれで個別に定められており、以下のとおりです。

【株式の場合】

  • 募集を行う企業が上場企業(発行する株券が金融商品取引所に上場しているまたは店頭売買有価証券に該当する)であること
  • 割当予定先(募集の相手方)が発行会社または子会社(財務諸表等規則8条3項に規定する会社)の役員または使用人であること
  • 交付される株式について、事業年度の上半期に交付される場合は当該事業年度の半期報告書提出日まで、下半期に交付される場合は当該事業年度の有価証券報告書提出日まで譲渡が禁止されていること


【新株予約権の場合】

  • 割当予定先(募集の相手方)が発行会社またはその子会社(財務諸表等規則8条3項に規定する会社)の役員または使用人であること
  • 募集する新株予約権に譲渡を制限する定めが付されていること

2025年の改正のポイントと今後の展望

上記の臨報特例の要件は、2025年2月に改正された内容となります。今般の改正では、従前「発行会社またはその完全子会社または孫会社の役員または使用人」という形で定められていた割当予定先に関する要件が、「発行会社または子会社(財務諸表等規則8条3項に規定する会社)の役員または使用人」と変更されました。

これは、企業の資本構成やグループ構成・組織戦略などが多様化する中で、必ずしも100%連結子会社ばかりではない昨今の情勢を踏まえ、グループ全体へのインセンティブ制度導入を行いやすくするための改正です。

また、報酬として株式を支給する場合、従前は「株式の交付日が属する事業年度終了後3ヶ月が経過する日まで譲渡が禁止されていること」という譲渡制限期間の要件であったところ、「事業年度の上半期に交付される場合は当該事業年度の半期報告書提出日まで、下半期に交付される場合は当該事業年度の有価証券報告書提出日まで譲渡が禁止されていること」に変更されています。

これは、「事業年度終了後3ヶ月が経過する日まで」となると、役員任期を超えてしまうことも想定されてしまうため、任期満了等に伴う退任取締役が対象に含まれることも想定した改正となっています。

このように年々株式報酬の導入がよりしやすくなるよう法令の改正が行われており、直近では株式の場合の開示緩和要件についてさらなる見直しが議論されています。

本稿執筆時点(2025年9月)ではまだ議論の段階ではありますが、非上場企業の在り方や戦略が多様化する中で、非上場時点でも新株予約権ではなく株式を報酬として付与したいといったニーズの高まりを背景に、「募集を行う企業が上場企業(発行する株券が金融商品取引所に上場しているまたは店頭売買有価証券に該当する)であること」を求めない方向で調整が進められているとの報道が出ています。

実現すれば、スタートアップベンチャーなど非上場企業の成長を加速させるインセンティブ制度の選択肢がより充実することになるため、今後の動向に注視していく必要があります。



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本記事の内容が株式報酬制度を検討している皆さまの参考になれば幸いです。

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