IPO

上場維持基準の見直しで変わるIPO・M&Aの選択肢に対しての準備

この記事でわかること

  • 上場維持基準の見直しの概要
  • Exit戦略を柔軟に選択するために不可欠な要素
  • M&A・IPOいずれにも対応するSO制度設計

著者プロフィール

宮下 卓也

O f All株式会社

シニアコンサルタント

宮下 卓也

総合リース会社にて、上場企業から個人事業主まで幅広い顧客を対象としたファイナンス営業に従事。その後、日系コンサルティング会社において、株式報酬制度の設計・導入支援、役員報酬制度の策定、ならびに指名報酬委員会の設置・運営に関するアドバイザリー業務を担当。現在は、O f All株式会社に創業メンバーとして参画。

2025年、東京証券取引所はグロース市場の「上場維持基準」の見直し方針を発表しました。

 

上場から5年後に時価総額が100億円に満たない企業は、スタンダード市場への移行を促すという内容で、単に上場審査を通過するだけでなく、上場後も維持基準を継続的に満たせるかが問われています。

 

※参考:🔗日本取引所グループ「グロース市場における今後の対応について」

 

本記事では、IPO・M&AといったExit戦略を取り巻く制度と実務の変化を踏まえ、今後の選択肢と準備の視点を整理します。

 

上場を取り巻く制度変化

2025年に公表された東京証券取引所の方針では、グロース市場における「上場維持基準」の見直しとして、上場から5年後に時価総額100億円未満の企業は、スタンダード市場への移行を促す案が示されました。

従来の基準は「上場から10年後に時価総額40億円以上」でしたが、より短期間かつ高水準の成長が求められる内容へと実質的に引き上げられた形です。

本見直しは2030年以降に上場5年目を迎える企業から適用される予定で、2025年3月時点では、グロース上場企業の約7割が時価総額100億未満であるとされています。

IPO準備企業にとっても、いまや「上場審査に通るか」だけでなく、「上場後も基準を維持できるか」が問われるフェーズに入ったといえるでしょう。

上場市場ごとの維持基準とハードル

IPO後の成長性や持続可能性が問われる時代において、「どの市場を目指すのか」は単なる上場審査の問題ではなく、上場後も安定的に上場維持できるかどうかという視点が不可欠です。

以下が、主な市場区分ごとの上場維持基準です。

市場上場維持基準(主な内容)
東証プライム流通株式時価総額250億円以上、流通比率35%以上、他
東証スタンダード流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上、他
東証グロース(見直し案)上場5年後に時価総額100億円以上(2030年適用開始予定)、他
名証ネクスト市場時価総額2億円以上、他
TPM(TOKYO PRO Market)株主数・流通株式・時価総額・利益の額などの形式基準なし


特に東証グロースでは、今後「時価総額100億円以上」を満たせない企業はスタンダード市場への移行を促されるため、どの市場での上場を維持したいかを前提に、資本政策や成長戦略を設計することが求められます。

一方で、名証ネクストやTPMといった、比較的要件が緩やかな市場もあり、自社の事業フェーズやExit戦略に応じて適切な市場を選ぶという視点も重要になります。

上場以外の選択肢:M&A Exit

近年では、事業売却や株式譲渡によるM&A Exitも、IPOに並ぶ選択肢として注目を集めています。
特にスタートアップにとっては、上場後のIR対応・開示義務・ガバナンス体制といった負担を回避できる点に加え、創業者や投資家の資金回収という観点からも、より柔軟で現実的な手段とされています。

たとえば、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成した企業であっても、早期に大手企業の傘下に入り、事業シナジーや成長リソースを活用する方が、結果的に企業価値の最大化に繋がるケースは少なくありません。

このように、Exit手段としてのM&Aは、企業の成長フェーズや戦略に応じた合理的な選択肢として、選ばれる場面が増えつつあります。

Exit戦略を柔軟に選択するために不可欠な要素

IPOとM&Aは、相反する選択肢ではなく、両立し得る出口戦略です。

いずれを選ぶにせよ、企業側に一定の構えが整っていなければ、どちらの選択肢も現実性を欠きます。特に「ガバナンス体制」と「ストックオプション設計」は、Exitを左右する重要な設計要素です。

ガバナンス体制

IPOとM&A、いずれのExitを選択する場合でも、一定水準のガバナンス体制を備えていることは、実務上の前提として求められる場面が増えています。

IPOにおいては、グロース市場であっても社外取締役の選任、取締役会の運営体制、内部統制の構築などが実質的に必須とされており、コーポレート・ガバナンス・コード(CGC)への対応も審査項目として重視されます。

M&Aにおいても、こうしたガバナンス体制の成熟度は、買収側が実施するデューデリジェンスの中心的な評価ポイントです。意思決定プロセスの明確性や権限の所在、コンプライアンス体制の有無は、ディールの可否や条件に直接影響を与えます。

特にファンドや上場企業が買い手となる場合、実質的に上場企業と同等レベルのガバナンスが期待されることも多く、整備の有無がバリュエーションやクロージング条件に直結します。

Exitの選択肢を柔軟に保つためには、単なる形式要件の充足を超えて、買収・投資の対象として適正と評価されるガバナンス体制を構築・維持しておくことが不可欠です。

ストック・オプション設計

近年では、M&AによるExitを見据えたストック・オプション制度の設計・活用が増加しています。

従来はIPOを前提とした設計が一般的でしたが、税制改正やExit手段の多様化により、M&Aにも対応可能なSO設計の重要性が高まっています。

特に令和6年度税制改正では、税制適格ストック・オプションに関する保管管理要件の緩和が行われたことで、未上場企業でも柔軟かつ実務的な設計が可能になりました。これにより、M&Aを視野に入れつつ、税制適格のメリットを享受できるストック・オプション制度の導入が現実的な選択肢となっています。

M&Aを見据えたストック・オプション制度の設計ポイントについては、以下の記事も併せてご確認ください。
🔗M&Aを想定したストック・オプション設計とは?税制改正を踏まえた最新実務 

M&A・IPOいずれにも対応するSO制度設計の考え方

ストック・オプション制度の設計において、将来のExit手段を特定せず、M&A・IPOいずれにも対応可能なスキームを構築しておくことが重要です。

M&Aを視野に入れた場合でも、税制適格ストック・オプションの導入や、ベスティング・行使条件の柔軟な設定により、制度趣旨を損なわずに、インセンティブが適切に機能する制度を実現することが可能です。
以下のような論点は、設計段階から検討しておくことが必要です。

  • 権利行使トリガーの設計
  • 少数株主リスクを防ぐ売却強制条項(ドラッグアロング)
  • 税制適格SOの行使と行使価額上限(年1,200万円〜3,600万円)のシミュレーション、等


将来的にどのExit手段を選択する場合でも制度が機能するよう、インセンティブとして確実に機能する柔軟なSO設計が求められます。

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