ストック・オプション発行の流れを5つのステップで解説

この記事でわかること
- ストック・オプションの検討から発行・付与までの一連の流れ
- 制度の選定と詳細設計のポイント
- ストック・オプションの発行手続き
- 権利行使・株式売却について
著者プロフィール

O f All株式会社
シニアコンサルタント
宮下 卓也
総合リース会社にて、上場企業から個人事業主まで幅広い顧客を対象としたファイナンス営業に従事。その後、日系コンサルティング会社において、株式報酬制度の設計・導入支援、役員報酬制度の策定、ならびに指名報酬委員会の設置・運営に関するアドバイザリー業務を担当。現在は、O f All株式会社に創業メンバーとして参画。
ストック・オプションとは、株式報酬制度の一種であり、株式をあらかじめ定められた価格で購入できる権利のことです。
この権利を行使し、株価が上昇した時点で売却することで、売却時点の株価と行使価額との差額(キャピタルゲイン)を利益として得ることができます。
ストック・オプションは、インセンティブや福利厚生の一環として、上場を目指すスタートアップや上場企業において、よく導入されている制度です。
本記事ではストック・オプション発行に伴う全体の流れを5つのステップに整理し、解説します。なお、今回は未上場企業を想定した内容になっています。
ストック・オプションの基本的な情報を知りたいという方は、以下の記事をご確認下さい。
🔗ストック・オプションとは?基礎から種類・制度・選び方までわかりやすく解説
ストック・オプションとは?
ストック・オプションとは、株式報酬制度の一種であり、あらかじめ定めた価額(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利(新株予約権)を付与する制度です。付与対象者はストック・オプションの権利を行使して株式を取得し、その後売却することでキャピタルゲインを得ることができます。

ストック・オプションの種類としては、まず無償・有償に分類されたのち、無償ストック・オプションには税制適格と非適格に分かれます。また、上場企業で利用される株式報酬型ストック・オプションは税制非適格ストック・オプションの活用型となります。

各ストック・オプションの詳細を知りたい方は以下の表のリンクからご確認下さい。
ストック・オプションの種類 | フェーズ | 概要 |
---|---|---|
無償税制適格ストック・オプション | 上場企業 未上場企業 | あらかじめ定めた価額(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利(新株予約権)を付与する報酬制度。税制適格要件を満たしているため、課税のタイミングが1回のみとなる。 |
無償税制非適格ストック・オプション | 上場企業 未上場企業 | あらかじめ定めた価額(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利(新株予約権)を付与する報酬制度。税制適格要件を満たしていないため、課税は権利行使時と株式売却時の2回にわたり行われる。 |
有償ストック・オプション | 上場企業 未上場企業 | 新株予約権の発行のタイミングで付与対象者による金銭の払い込みが発生する。税務上、報酬ではなく、有価証券の売買として扱われる。 |
ストック・オプションの基本的な知識は以下の記事をご確認ください。
🔗ストック・オプションとは?基礎から種類・制度・選び方までわかりやすく解説
また、株式報酬制度について基礎から知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
🔗株式報酬制度とは?基礎から11種類の制度・選び方までわかりやすく解説
まずは「【STEP1】発行戦略の立案(目的・比率・タイミング等) 」について解説していきます。
【STEP1】発行戦略の立案(目的・比率・タイミング等)
発行の目的
ストック・オプション(以下、SO)の発行目的を明確にする必要があります。
目的が不明瞭なまま設計に進むと、「誰に」「どれだけ」「どのような条件」で付与するかの判断がぶれやすくなります。
その結果、制度全体に一貫性を欠く結果につながります。
報酬制度としてSOをどう位置付けるか、どのような狙いで導入するのかを整理することで、以降の検討も軸を持って進めることできます。
SOは単なる報酬制度ではなく、経営上の目的に応じて戦略的に活用されるべきものです。
実際には、「採用+定着」や「持分回復+コミットメント強化」など、複数の目的が同時に存在するケースが大半です。
以下では、代表的な目的を4つに分類し、それぞれの活用イメージを整理しました。
人材の採用・定着
SOは、将来のリターンを期待できる報酬として、採用時の魅力を高める手段となります。
また、在籍期間などの条件を設けることで、一定期間の継続勤務を促す仕組みとしても有効です。
モチベーションアップ
SOは、企業価値や業績の向上が自身の将来的なリターンに直結するため、業績目標や株価向上への当事者意識を促しやすい仕組みです。
また、SOの付与は企業からの期待や評価を明示する行為でもあり、中長期的なエンゲージメント向上にも寄与します。
成果と報酬を連動させた制度設計とすることで、継続的な貢献意欲を引き出すことが可能です。
持分比率の回復
第三者割当増資によって経営陣の持分比率が希薄化した場合、
SOの付与と将来的な権利行使を通じて、経営陣の持分回復を図ることが可能です。
経営陣の株式保有割合を維持・回復することで、経営へのコミットメントや意思決定への影響力を確保する場合があります。
コミットメントの強化
SOに業績や在籍期間などの行使条件を設定することで、経営陣や幹部の成果へのコミットメントを制度として明示することができます。
たとえば「特定年度に売上10億円を達成した場合のみ行使可能」といった業績条件を設けることで、
経営戦略と報酬制度を連動させる設計が可能です。
資本政策を踏まえた基本方針
ストック・オプション(SO)の発行にあたっては、資本政策全体との整合性が重要となります。
未上場企業においては、将来的なEXIT(IPOまたはM&A)を見据え、発行比率やタイミングを検討する必要があります。
潜在株比率
SOの発行枠は法的な上限はありませんが、実務上は発行済株式総数の10〜15%以内を上限の目安とするケースが一般的です。
上場後の大量行使による希薄化や株価下落リスクを避けるためであり、外部株主との投資契約においても10%程度を上限とする定めが置かれることが多く見られます。近年においては、15%を上限とする投資契約が設定される例も出てきています。
また、M&AでのEXITを想定している場合には、上場と異なり、既存株主の同意を前提により柔軟な枠組みを設定できることもあります。
発行タイミング
SOの発行タイミングは、企業価値が低い段階であるほど行使価額を低く設定しやすく、インセンティブ効果も高まります。
一方で、発行ごとに株価算定や登記などのコストが発生するため、複数人の入社タイミングまとめてを見計らって一括付与するなど、コスト効率とのバランスを取ることも実務上重要です。
さらに、スタートアップの企業価値の成長スピードや資本政策の変更可能性を踏まえると、
「いつ・誰に・どれくらい付与するか」という点は、SO設計の重要な判断項目となります。
付与対象者の整理
SOを付与する対象者は、企業のステージや発行目的に応じて柔軟に設計する必要があります。
主に、以下のようなレイヤーを軸に検討されます。
- 経営陣(創業者、取締役など)
- 幹部社員(事業責任者、管理職層)
- 中堅・専門人材
- 一般社員
- 社外人材(アドバイザー、外部パートナー等)
「誰に付与するか」という対象者の選定自体が、制度全体の納得感や実効性に直結します。
制度の導入初期では、成果が見えやすいコアメンバーに絞って設計することで、制度の見直しを通じた改善も行いやすくなる場合があります。
制度の形骸化を防ぐためには、「全員に一律に付与すべきかどうか」の観点も検討することが重要です。
発行目的や期待成果が曖昧なまま広く配布すると、インセンティブ効果が薄れ、社内の理解や納得も得にくくなるおそれがあります。
「誰にSOを渡すのか」「なぜその人なのか」を明確にすることが、設計・運用の精度を高めるうえで重要です。
評価ロジックに基づく配分方針
SOの目的(採用・定着/モチベーションアップ/持分回復など)を明確にしたうえで、各対象レイヤーにおけるSOの期待役割を定義し、評価軸と紐付けた配分方針を設計することが重要です。
目的を踏まえ、対象者を定めたうえで、誰にどの程度配分するかは、制度全体の納得感や運用のしやすさに直結する論点です。
評価軸は以下のような要素を組み合わせて設計されることが一般的です。
評価項目例 | 内容 |
---|---|
職位/職責 | あらかじめ定めた価額役職等の責任の範囲に応じて、影響力やリーダーシップの期待度を考慮し、付与量を調整します。 特に管理職や重要な意思決定を担う役職には、相対的に多めのSOが付与され、責任の度合いが評価基準となります。 |
業績貢献度 | 個人が企業の業績に対してどれだけ貢献したかを評価し、その貢献度に応じたSOを付与します。 特に、売上目標の達成度やプロジェクトの成功度など、具体的な業績指標に基づいて評価されます。 |
在籍年数 | 企業に長く貢献してきた従業員に対しては、一定のインセンティブを与えるために在籍年数も考慮します。 一般的に、在籍年数が長いほど多くのSOを付与し、長期的な貢献に報いる形で評価します。 |
スキル/専門性 | 高度な専門スキルや企業にとって戦略的に重要なスキルを持つ人材、あるいは希少価値のある人材には、他の従業員と差別化した付与量を設定します。この項目は特に競争が激しい業界や高度な技術が求められる職種で重視されます。 |
こうした評価軸は、可能な範囲で明文化し、組織内の納得感を高めることが制度運用上も有効です。
とくに複数回にわたってSOを発行する場合、評価基準のブレを防ぐ観点からも配分ロジックの事前設計が重要になります。
ここまで見てきたとおり、SOの設計・発行にあたっては、発行目的や資本政策との整合性を踏まえたうえで、 対象者や配分方針を含む発行戦略全体を計画的に整理しておくことが重要です。発行目的が曖昧なまま制度設計に進むと、社内外への説明が困難になり、制度運用にも支障をきたす可能性があります。また、対象者への配分が属人的になれば、インセンティブ効果や制度への納得感を損なうリスクがある点にも、十分な配慮が必要です。
次に、発行戦略を踏まえたうえで、どのような制度を選択すべきかについて解説していきます。
【STEP2】制度の選定(税制適格/非適格/有償)
ストック・オプション制度の選定では、各制度の特徴を比較し、目的や状況に応じて最適な制度を選定することが重要です。
一般的には、まず無償税制適格SOの活用可否を検討し、適格要件を満たさない場合や制度上の制約が目的にそぐわない場合に、 無償税制非適格SOや有償SOの活用を検討するという流れが多く見られます。
制度ごとに、税務上の取扱い、会計処理、法的要件が大きく異なるため、企業の成長フェーズや発行目的に応じて、制度選定を戦略的に進めることが求められます。
以下は、主要な3つのSO制度の比較表です。

それぞれの制度の詳細な仕組みや留意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
🔗無償ストック・オプションとは?基礎知識からわかりやすく解説
🔗有償ストック・オプションとは?基礎知識からわかりやすく解説
このように、ストック・オプション制度はそれぞれに特徴と制約があるため、 発行目的や対象者、企業のフェーズを踏まえた制度選定が不可欠です。
次に、選定した制度に基づき、実際の設計項目(行使条件やべスティング等)をどのように設計していくかを解説していきます。
【STEP3】詳細設計(行使条件・べスティング等)
制度の種類を選定した後は、ストック・オプションの設計項目を具体的に検討していきます。
行使価額や行使期間のような基本項目に加え、業績条件やべスティング(権利確定)などの条件設計も、制度の目的達成に直結する重要な要素です。
ここでは、設計上の主要な論点について整理し、実務での判断のポイントを解説します。
権利行使価額
行使価額とは、ストック・オプションを行使して株式を取得する際に、対象者が支払う1株あたりの価格を指します。
将来の株式売却価額との差額がキャピタルゲインとなるため、行使価額の設計はインセンティブ効果を左右する重要な項目です。
特に未上場企業では、企業価値がまだ上昇していない早期フェーズで発行することで、行使価額を低く抑えることができ、対象者に大きなリターン期待値を提示しやすくなります。
無償税制適格SOの場合には、セーフハーバールールの制定により、税務上の株価を基準に行使価額を設定することが可能になりました。
ただし、会計上の評価額よりも行使価額を低く設定した場合には、株式報酬費用の計上が必要となるため、費用インパクトや計上タイミングを踏まえた検討が求められます。
セーフハーバールールとは?
無償税制適格ストック・オプションにおいて、純資産価額方式等の算定方法にて行使価額を設定できるルールです。
- 未公開企業において、純資産価額等の算定が認められる財産評価基本通達の例による特例方式を選択可能です。
- 時価評価額(資金調達時のバリュエーション)が高い場合でも、純資産額等以上の金額で行使価額を設定すれば、税制適格要件を満たします。
- 優先株式を発行している場合、純資産額等から優先分配分を控除可能です。

出典:🔗国税庁_ストックオプションに対する課税(Q&A)に基づき弊社作成
発行価額(有償ストック・オプションのみ)
発行価額とは、オプション1個あたりの価値を指し、有償ストック・オプションにのみ発生する項目です。発行時には、対象者が【発行価額 × 割当個数】に相当する金額を会社に払い込む必要があります。
オプション価値の算定には様々なパラメータ(株価、ボラティリティ、満期、配当など)が含まれ、一般的にはブラック=ショールズ・モデルなどを用いて公正価値を算定されます。
業績条件などを考慮しない場合でも、発行価額は株価の40〜60%程度が目安となるケースが多く、 さらに業績条件などを設けることで、オプション価値をさらに抑えることが可能です。
有償ストック・オプションは、税制適格要件に縛られることなく、譲渡所得として扱われるため、課税面でのメリットがあります。その特性から、社外協力者や大口株主である代表者などに付与されるケースが多いですが、発行時点で金銭の払い込みが必要となるため、対象者にとって一定の資金負担が発生します。
この資金負担を軽減するためには、業績条件や株価条件を付す設計が一般的ですが、条件未達の場合は行使ができなくなるため、「払込負担」と「条件達成の確度」のバランス設計が重要な検討ポイントとなります。
有償ストック・オプションの発行価額については下記の記事をご確認ください。
🔗有償ストック・オプションとは?基礎知識からわかりやすく解説
行使期間
行使期間とは、新株予約権を行使して株式を取得できる期間を指します。
会社法上、期間の長さや上限について明確な制限はありませんが、ストック・オプションの制度設計や税務要件、会計処理に影響を及ぼすため、慎重な設計が求められる項目です。
特に、会計上の株式報酬費用の計上期間(按分期間)にも関係するため注意が必要です。
多くの場合、費用は付与日から行使可能となる日(=行使期間の始期)までの期間で按分されますが、 勤務条件などの設計内容によっては、按分期間が変動する場合があります。このため、行使期間の設計にあたっては会計処理との整合性にも留意が必要です。
無償税制適格SOの場合
税制上の適格要件を満たすために、付与決議の日※後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過する日までの期間※の中で行使期間を設定する必要があります。
※設立の日以後の期間が5年未満の非上場会社の場合、付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後15年を経過する日まで。詳しくは🔗税制適格要件の一覧をご確認ください。
※付与決議の日とは、ストック・オプションの割当てに関する決議の日をいいます。
行使条件
行使条件とは、対象者がストック・オプションを行使する際に、満たすべき条件のことを指します。
SOの付与目的に応じて、複数の条件を組み合わせて設計することが一般的です。
主な設計要素は以下の通りです。
①勤務条件(在籍要件)
一定のリテンション(退職防止)効果を目的として、所定の時点まで在籍していることを要件とする設計です。
一般的には、権利行使時点での役職員在籍が条件とされます。一方で、業務委託契約や顧問契約など、雇用以外の継続的な関係性を対象とするケースも見られます。SO発行の目的や、対象者との関係性の深さに応じて、「いつまでの在籍を求めるか」「どういった関係を在籍とみなすか」などの設計方針を丁寧に検討することが重要です。
②EXIT条件(IPO/M&A)
IPOやM&Aなど、企業のEXITをストック・オプションの行使条件とする設計です。
たとえば「上場日から行使可能」や「特定の市場(例:グロース市場)での上場時のみ行使可能」といった条件設定が可能です。
中でも留意すべきは、TOKYO PRO Market(TPM)を最初の上場先とする場合です。TPMは制度上は上場市場ではあるものの、流動性が低く売却制限も厳しいため、SOのキャピタルゲイン実現が難しい点が課題です。
さらに、TPM上場後にSOが行使されると株主数が増加することで、株主総会の運営コストが増大したり、将来的にTPMから上場廃止する場合の手続き・コストが煩雑化するといった実務的な影響もあります。
そのため、TPM上場を行使条件に含めるかどうかは、インセンティブ設計および資本政策上の観点から慎重な検討が必要です。
③業績条件
一定の業績達成をストック・オプションの行使条件とすることが可能です。有償ストック・オプションで採用されるケースが多いものの、制度設計の目的に応じて無償SOにおいても設けることが可能です。スタートアップにおいては、売上高を業績指標として用いるケースが一般的ですが、企業の成長ステージやビジネスモデルに応じて、以下のような指標を検討することができます。
- 営業利益
- 当期純利益
- EBITDA、等
また、業績の達成度合いに応じて、行使可能なストック・オプションの割合を段階的に設計することも可能です(例:売上10億円達成で50%、15億円達成で100%行使可能、など)。
取得事由
新株予約権の設計において、一定の事由が生じた際に会社がその権利を取得できる旨を定めることができ、これを取得条項付新株予約権といいます。
この条項は、会社側がリスクに備え、制度の健全性を保つための設計要素として重要です。以下のような事由が取得対象として設定される場合があります。
- 法令違反や就業規則違反
- 懲戒処分相当の不祥事
- 退職(退職時点で未行使のSOを会社が取得する設計)、等
従来は、退職を理由に未行使のストック・オプションを全て取得する設計が主流でしたが、近年ではリテンション目的との整合性や 退職後の貢献の可能性を考慮し、退職後も保有を認める設計にする企業も増えつつあります。いずれの設計とするかは、SO発行の目的やフェーズ、対象者の属性(社内外含む)に応じて判断することが重要です。
べスティング
べスティング条項とは、一定の期間経過に伴いストック・オプションの行使が徐々に可能になる条項のことです。
べスティングとは、ストック・オプションの権利が時間の経過とともに段階的に行使可能になる仕組みです。この設計は、対象者のリテンション(継続貢献)を促す目的で導入されることが一般的です。
べスティングを設けない場合、SO付与後にすぐ全株行使され、その後に退職されてしまうといったリスクが生じるため、上場直後の離職や、短期的な成果のみを狙った行使を抑制したい場面では、有効な仕組みとなります。
べスティングの設計にあたっては、以下の3点が主な設計論点となります
起算日 :入社日/割当日/上場日 など、どの時点からカウントするか
終点と期間設定 :何年後までに100%確定させるか
行使可能割合 :どの程度の割合のSOをどのタイミングで権利確定させるか
ストック・オプションの詳細設計は、インセンティブ制度としての機能性と、会社側のコントロール性を両立させるための重要なステップです。
行使価額や行使期間、業績条件、べスティング、取得事由など、各項目は単独で決まるものではなく、発行目的や対象者の特性に応じて一体的に設計していくことが求められます。
また、制度の設計が複雑になるほど、社内外への説明や運用のハードルも上がるため、設計の意図を明確にしつつ、シンプルさと実効性のバランスを意識することも大切です。
次のSTEPでは、実際の発行・契約・登記といった実務面について解説していきます。
【STEP4】発行手続(決議・契約・登記)
ストック・オプションの設計が完了したら、次は実際の発行手続きに移ります。
SOの発行には、会社法等に基づく手続き(取締役会決議・契約書作成・登記など)が必要となり、未上場企業であっても、形式不備や手続き漏れは後の資本政策やIPO準備に影響するリスクがあるため注意が必要です。
ここでは、取締役会設置会社の未上場企業、総数引受方式による無償ストック・オプションの発行を想定し、概要のみをポイントにして解説していきます。
ストック・オプション発行手続の流れ(未上場企業・総数引受方式を前提)
① 募集事項の決定(株主総会特別決議)
株主総会の特別決議にて、新株予約権の募集事項を決定します。取締役会への委任も可能です。
種類株式発行会社の場合、定款に別段の定めがある場合を除き、原則として種類株主総会の承認も必要です。
② 総数引受契約の承認(取締役会決議)
総数引受契約の締結について、取締役会で決議を行います。
③ 引受契約の締結
会社と各対象者との間で、新株予約権の総数引受契約を締結します。
④ 割当日
割当日とは、会社が対象者に対して、一定の条件下で株式を購入できる権利を付与する日のことです。SOを付与された方は、割当日から新株予約権者になることができます。
企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」の中においても、付与日=割当日としており、対象勤務期間などの始期となる重要な日となります。
⑤ 新株予約権原簿の整備
新株予約権原簿とは、発行した新株予約権に関する情報を記載する台帳を指します。新株予約権を発行した日以後、遅滞なく新株予約権原簿を作成することが求められています。
新株予約権原簿の記載する内容は「①新株予約権の保有者(氏名又は名称及び住所)」「②新株予約権の内容及び数」「③新株予約権を取得した日」となります。また、株主及び債権者は新株予約権原簿の閲覧又は謄写請求をする権利を有しています。これにより、新株予約権に関する情報の透明性が確保されています。
⑥ 登記対応(割当日から2週間以内)
新株予約権の発行に関する登記を実施します。登記事項には、名称・数・目的株式・行使価額・条件などが含まれます。
⑦ 付与調書の提出(税制適格SOの場合)
税制適格ストック・オプションを付与した場合は、翌年1月末までに所轄税務署へ「特定新株予約権等に関する調書」の提出が必要です。
引受方式
募集新株予約権の発行方式には、「申込割当方式」と「総数引受方式」があります。
申込割当て方式では、「➀対象者への募集事項の通知」「➁対象者からの引受の申込み」「➂割当決議及び割当通知」などが必要となります。
総数引受方式の場合、申込手続きは不要であり、総数引受契約書の締結をします。ただし、引受人が複数の場合でも、総数引受契約全体が一体の契約とみなされるため、一人でも契約を拒否した場合には、他の引受人も手続きを完了できません。
手続き上は、総数引受方式が簡便ですが、対象人数が多くSOを引き受けをしない 人がいそうな場合には申込割当方式が適しています。 どちらの方式が最適かは割当人数などによっても異なるため、発行回号毎に検討が必要です。
株式分割
ストック・オプションを発行する際に、発行済み株式数が少なすぎると、細かい割合で渡すことができず、適切な発行が難しくなります。そのため、SO発行前に株式分割を検討する場合があります。株式分割を実施する場合、通常は基準日の2週間前までに公告をする必要があり(手続きによって省略可能)、一定の時間がかかります。
株式分割と同様の効果が得られる方法として、株式無償割当てがあります。株式無償割当てでは公告が必要ないため、最短1日で手続きを完了させることが可能です。
付与対象者への説明会
SOは単に発行するだけではなく、その仕組みや発行の目的について対象者に十分理解してもらうことで、制度の効果を最大限に引き出すことが可能です。そのため、制度全体の理解を促すための説明会を実施し、SOの意義や設計について説明します。加えて、個別面談を通じて、対象者に対するSOの割当理由や期待する役割、今後のキャリアへの影響などを直接伝えることが重要です。説明会および面談を通じて、SO制度がもたらすインセンティブ効果を最大化し、企業と対象者の双方にとってより有効な報酬制度にすることができます。
【STEP5】権利行使と売却
ストック・オプションの発行後、対象者が実際に権利行使をして株式を取得・売却するフェーズでは、 制度設計時とは異なる実務対応やリスク管理が求められます。
ここでは、権利行使から株式売却までの一連の流れと、実務上の留意点を整理します。
権利行使の流れと実務上のポイント
ストック・オプションの権利行使は、対象者が条件を満たしたうえで、実際に株式を取得するフェーズです。権利行使は、制度としての「成果を受け取る」段階であると同時に、企業側にとっては新たな株主の増加や、株式の発行・登記といった手続きが発生する実務上のポイントでもあります。
権利行使における一般的な流れは以下の通りです。
①対象者が行使条件(勤務・べスティング・業績条件など)を満たす
②対象者が会社に対して行使請求書を提出
③行使価額相当額を会社指定の口座に振込
④会社にて払込の受領・株式の発行手続
⑤株主名簿への記載および登記反映
税制適格SOを行使する際、上場企業の場合は、証券会社でのストック・オプション専用口座の開設が必要となります。また、大口株主でないことの誓約書や、行使状況に関する書面の提出も求められます。
一方、税制非適格SOは、ストック・オプション専用口座の開設は不要であり、既に証券口座を持っている場合には、その一般口座または特定口座に入庫することが可能です。ただし、行使時点で給与所得として課税されるため、そのタイミングで納税が発生する点には注意が必要です。
また、有償SOの場合においても、原則的に一般口座または特定口座に入庫することが可能です。
なお、発行会社側としても、株式の発行タイミング・登記・名簿管理など、権利行使に伴う社内運用体制の整備や外部との調整が必要になるため、制度設計時点から実務負荷を見越した準備が求められます。
株式の売却(売却に向けた注意点)
権利行使後、取得した株式は原則として自由に売却することが可能ですが、 IPO直後の一定期間などは「ロックアップ」や「インサイダー取引規制」等の制約を受けることがあり、慎重な対応が求められます。
ロックアップ対応の注意点
IPOを目指す企業においては、新株予約権(SO)の行使後に取得した株式の売却に制限がかかるケースがあります。これは「ロックアップ」と呼ばれ、主に以下の2種類があります。
①制度ロックアップ(取引所規則による売却制限)
制度ロックアップは、上場準備企業が直前期首以降に実施した第三者割当(株式・SO)に対して、取引所の規則により、一定期間の継続保有を求められる制度です。
- 上場申請時点で、対象者から継続保有に関する確約書の提出が必要となります。
- ストック・オプションの割当についても、割当日から上場日の前日または行使日まで(早い方)の保有が求められるケースが一般的です。
②任意ロックアップ(主幹事証券による設定)
任意ロックアップは、IPO時の株式流通を安定させるために、主幹事証券会社が経営陣や大株主、従業員等の関係者に対して自主的に設定する売却制限です。 売却制限の期間は、上場日から90日〜180日間程度とされるのが一般的です。
インサイダー規制
新株予約権の行使自体は、金融商品取引法上のインサイダー取引規制の対象外とされています。ただし、権利行使後の株式売却の際には、売却行為自体がインサイダー取引の対象となり得るため、未公表の重要事実の有無を確認したうえで、慎重に対応する必要があります。
これらの制限により、思い通りのタイミングで株式を売却できない場合、 特に税制非適格SOのように権利行使時点で課税が発生しているケースでは、納税資金が不足するリスクが生じる点に留意が必要です。
譲渡所得課税とは?
譲渡所得課税は、株式の売却時に適用される税金です。株式報酬制度において、付与された株式を売却する際に発生します。課税対象額は、売却価額から取得価額(給与所得課税が生じている場合は課税時の時価)を引いた譲渡益に対してかかります。税率は、原則として一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の分離課税となります。譲渡損失が発生した場合、他の株式等の譲渡益と損益通算できる点も特徴です。
株式売却時の確定申告の要否について
- 税制適格SOの場合
株式を特定口座に入庫することができないため、原則として確定申告が必要になります。
- 税制非適格SOの場合
特定口座(源泉徴収あり)に入庫している場合は、確定申告は原則不要です。
- 有償SOの場合
特定口座(源泉徴収あり)に入庫している場合は、確定申告は原則不要です。
無償税制適格ストック・オプションの課税額とタイミング
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🔗無償ストック・オプションとは?基礎知識からわかりやすく解説
無償税制非適格ストック・オプションの課税額とタイミング
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🔗無償ストック・オプションとは?基礎知識からわかりやすく解説
有償ストック・オプションの課税額とタイミング
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🔗有償ストック・オプションとは?基礎知識からわかりやすく解説
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ここまで、ストック・オプションの流れについて、5つのステップに整理し、解説してきました。
本記事の内容がストック・オプションを検討している皆さまの参考になれば幸いです。
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