- 創業者間契約とは何か
- 創業者間契約が必要な理由
- 契約締結前に決めるべき重要事項
- 創業者間契約の主要な条項内容
- 契約締結のタイミングと進め方
スタートアップを複数人で共同創業する際、親しい間柄であっても創業者間契約の締結は欠かせません。創業メンバーが退職する際の株式の取り扱いを事前に定めておかないと、意思決定の停滞や資金調達の阻害、M&Aの実行困難など、深刻な経営リスクにつながる可能性があります。
本記事では、創業者間契約の基本的な内容から、契約に盛り込むべき主要条項、最適な締結タイミング、実際のトラブル事例まで、スタートアップが知っておくべきポイントを詳しく解説します。
創業者間契約とは何か
創業者間契約の基本的な定義
創業者間契約とは、複数人で会社を共同創業する際に、創業メンバー間で締結する契約のことです。この契約は主に、創業メンバーが会社を退職する場合の株式の取り扱いについて定めるもので、将来起こり得るトラブルを未然に防ぐ役割を果たします。
例えば、3人で起業してそれぞれが株式を保有している場合、そのうちの1人が退職することになった際に、残りのメンバーがその株式を買い取ることができるよう、あらかじめルールを明確にしておくのが創業者間契約です。
創業株主間契約との違い
創業者間契約は「創業株主間契約」とも呼ばれ、実質的には同じ意味で使われます。どちらも創業時の株主間で結ぶ契約を指しており、法律上の明確な使い分けはありません。本記事では「創業者間契約」という表現で統一して解説します。

スタートアップにおける位置づけ
スタートアップでは、創業メンバーが経営陣として株式を保有するケースが一般的です。株式は単なる財産権ではなく、会社の重要な意思決定を行う議決権を伴います。そのため、退職したメンバーが株式を保有し続けることで、残されたメンバーの経営判断が阻害されるリスクがあります。
創業者間契約は、こうした株式に関する潜在的なリスクをコントロールし、スタートアップの円滑な成長を支える重要な法的基盤となります。特に将来的な資金調達やM&Aを視野に入れている場合、投資家からも創業者間契約の締結を求められることが多く、スタートアップの信頼性を示す要素の一つとなっています。
創業者間契約が必要な理由
共同創業者の退職時に起こり得るリスク
複数人で起業した場合、途中で創業メンバーの誰かが退職するケースは決して珍しくありません。事業の方向性を巡る意見の対立、個人的な事情による離脱、健康上の理由など、退職の理由は様々です。しかし、創業者間契約を締結していない場合、退職したメンバーが株式を保有したまま会社を去ることになり、深刻な経営上の問題を引き起こす可能性があります。
株式は一度譲渡されると、会社側から一方的に株主としての地位を剥奪することはできません。つまり、退職者が株式を手放すことに同意しなければ、いつまでも株主として会社に関与し続けることになるのです。
株式保有と議決権による経営への影響
株主が保有する株式には議決権が伴い、持株比率が高いほど会社への影響力が大きくなります。例えば、過半数の株式を保有していれば株主総会の普通決議を単独で可決でき、3分の2以上を保有していれば定款変更などの特別決議も可決できます。
退職した創業メンバーが一定以上の株式を保有し続けると、重要な経営判断に反対されて意思決定ができなくなったり、最悪の場合は残されたメンバーの意図に反して経営をコントロールされたりするリスクがあります。
資金調達やM&Aへの障壁となる可能性
スタートアップの成長には資金調達が不可欠ですが、株主構成が不安定な状態では投資家から敬遠される可能性があります。ベンチャーキャピタルなどの投資家は、退職した創業メンバーが株式を保有している状況をリスク要因と捉えるためです。
また、M&Aによるエグジットを検討する際も、全株主の同意が必要となる場面があります。退職した創業メンバーと連絡が取れない、または協力を得られない場合、M&Aの実行自体が困難になります。創業者間契約は、こうした将来の選択肢を守るための重要な備えなのです。

契約締結前に決めるべき重要事項
創業メンバー間の株式保有割合の設計
創業者間契約を締結する前に、まず各創業メンバーの株式保有割合を慎重に決定する必要があります。株式保有割合は、各メンバーの役割、コミットメント、経験、能力などを総合的に考慮して決めるべきです。
一度決定した株式保有割合を後から変更することは容易ではありません。また、将来的な資金調達で新株を発行すると創業メンバーの持株比率は希薄化します。そのため、創業時点で将来の資金調達計画も見据えた資本政策を策定することが重要です。
持株比率と意思決定権の関係
株式保有割合によって行使できる権限が大きく変わるため、意思決定の観点から重要な分岐点を理解しておく必要があります。
3分の2超を保有していれば、定款変更や事業譲渡などの特別決議を単独で可決できます。2分の1超であれば、取締役の選任など普通決議を単独で可決可能です。逆に3分の1超を保有していれば、特別決議を単独で否決する権限を持ちます。
創業メンバーが対等な関係であっても、完全な均等配分(例:50対50)は避けるべきです。意見が対立した際にデッドロック状態に陥り、何も決められなくなるリスクがあるためです。対等な関係でも51対49とするなど、わずかな差をつけることが一般的です。
ベンチャーキャピタルからの視点
スタートアップが将来的に資金調達を予定している場合、投資家の視点も考慮する必要があります。多くのベンチャーキャピタルは、代表者が一定以上の株式を保有し、迅速な意思決定ができる体制を好みます。
創業メンバー全員が平等に株式を保有する形は公平に見えますが、投資家からは意思決定の遅延リスクがあると判断される可能性があります。ただし、共同創業者が同等の株式を保有して成功している事例もあるため、投資家の意見を参考にしつつ、最終的には創業メンバー全員が納得できる形で決定することが大切です。
創業者間契約の主要な条項内容
退任時の株式譲渡義務に関する規定
創業者間契約の中核となるのが、退任時の株式譲渡に関する条項です。この条項では、創業メンバーが会社の取締役または従業員の地位を失った場合に、保有株式を譲渡する義務を定めます。
譲渡対象となる株式数については、保有株式の全部とするのが一般的です。ただし、リバースベスティングという仕組みを採用するケースもあります。これは在籍期間に応じて保有できる株式の割合を確定させる制度で、一定期間貢献したメンバーには株式の一部を保有する権利を認めるものです。
また、株式の譲渡先についても明確にしておく必要があります。原則として代表者が買い取る、代表者が退任する場合は残された創業メンバーが買い取る、あるいは代表者が指定する第三者に譲渡できるといった条件を定めます。
株式の買取価格の算定方法
退任時の株式買取価格を巡るトラブルは非常に多いため、価格または算定方法を事前に明確にしておくことが重要です。
最も一般的なのは、株式取得時の価格とする方法です。ただし、会社が成長して企業価値が上昇している場合、時価よりも低額での譲渡となるため、譲渡を受ける側に贈与税が課税される可能性がある点に注意が必要です。
その他、簿価純資産方式による算定額、買取時の時価、直近の資金調達時の価格などを基準とする方法もあります。それぞれメリットとデメリットがあり、買取価格が高額になりすぎると残されたメンバーが資金を用意できないリスクもあるため、慎重に検討する必要があります。
相続時や死亡時の取り扱い
創業メンバーが死亡した場合、その保有株式は相続人が取得することになります。しかし、事業について知識のない相続人が株主となると、経営上の問題が生じる可能性があります。
そのため、創業者間契約では相続人に対しても株式譲渡請求ができる旨を規定しておくことが望ましいです。これにより、相続発生時にも円滑に株式を整理できます。
ドラッグアロングライトとその効果
ドラッグアロングライトとは、M&A実行時に多数株主が少数株主に対して株式売却を強制できる権利です。この条項により、一部の株主が反対してもM&Aを円滑に進めることができ、スタートアップのエグジット戦略の選択肢を広げることができます。
契約締結のタイミングと進め方
最適な締結時期と遅延によるリスク
創業者間契約を締結する最適なタイミングは、創業メンバーに株式を譲渡する時点です。創業間もない時期に「誰かが辞めた時のルール」を決めることに抵抗を感じるかもしれませんが、関係が良好な時期だからこそスムーズに合意できるのです。
関係が悪化してから契約を結ぼうとしても、退職を検討しているメンバーにとって株式を手放す契約に同意するメリットはありません。そのため、締結自体が困難になります。また、資金調達を受けてベンチャーキャピタルが株主になった後では、投資家の同意も必要となり、手続きがさらに複雑化します。
創業時は事業計画の策定など他にも多くのタスクがありますが、創業者間契約の締結を後回しにすることは避けるべきです。将来のリスクを軽減するための重要な投資と捉え、優先的に取り組むことをおすすめします。
雛形活用時の注意点と個別対応の必要性
インターネット上では創業者間契約の雛形やテンプレートが公開されており、これらを参考にすることは有効です。しかし、雛形をそのまま使用することには注意が必要です。
創業者間契約に盛り込むべき内容は、創業メンバーの関係性、各メンバーの役割、コミットメント期間、事業の特性などによって異なります。雛形は一般的な内容が記載されているに過ぎないため、自社の状況に合わせてカスタマイズする必要があります。
特に株式譲渡価格の算定方法、リバースベスティングの採用有無、譲渡義務が発生する「退任」の定義などは、創業メンバー間で十分に話し合い、全員が納得した内容を契約書に反映させることが重要です。形式的に締結するのではなく、実質的に機能する契約とすることを心がけましょう。
専門家への相談の重要性
創業者間契約は法的な効力を持つ重要な書類であり、不備があると将来トラブルの原因となります。特に税務面では、株式譲渡価格の設定によって贈与税や譲渡所得税が発生する可能性があり、専門的な知識が必要です。
可能であれば、スタートアップ支援の経験がある弁護士や税理士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、法的リスクを最小限に抑えつつ、実効性のある契約を締結できます。
創業者間契約がない場合のトラブル事例
株式の買取ができなくなるケース
創業者間契約を締結していない場合に最も多いトラブルが、退職した創業メンバーと連絡が取れなくなり、株式を買い取れなくなるケースです。
例えば、方向性の違いから創業メンバーの1人が退職し、その後関係が悪化して音信不通になったとします。この場合、退職したメンバーは株式を保有したまま会社から離れることになります。会社法では全株主の同意が必要な決議事項があるため、連絡が取れない株主がいると重要な手続きが一切進められなくなる可能性があります。
また、100%子会社化によるM&Aを検討する際も、全株主から株式を取得する必要があります。退職した創業メンバーと連絡が取れなければ、M&Aの実行自体が不可能となり、エグジットの機会を逃すことになります。
買取価格の高騰による資金難
退職した創業メンバーが株式の譲渡に同意した場合でも、買取価格を巡ってトラブルが発生するケースは非常に多く見られます。
スタートアップが順調に成長すると、短期間で企業価値が急激に上昇します。例えば、資本金500万円で起業した会社が数年後に純資産価額1億円に成長していた場合、33%の株式を保有する創業メンバーが退職すると、純資産価額ベースで計算すれば3,300万円での買取を要求される可能性があります。
創業時に取得価格での買取を口頭で約束していたとしても、契約書がなければ法的拘束力はありません。退職する創業メンバーが企業価値の上昇分を反映した価格を求めることは不合理とは言えず、残されたメンバーが高額な買取資金を用意できずに困窮するケースが実際に発生しています。
意思決定の停滞と事業への悪影響
株式保有割合によっては、退職した創業メンバーが会社の意思決定を阻害するケースもあります。
2人で50%ずつ株式を保有して起業し、1人が退職したものの株式を保有し続けている場合、株主総会の普通決議すら単独で可決できなくなります。取締役の選任、配当の決定、計算書類の承認など、会社運営の基本的な事項が決められず、事業が停滞してしまいます。
さらに深刻なケースでは、退職した創業メンバーが議決権を行使して、残されたメンバーの意図に反する経営判断を強制することもあります。こうした事態を避けるためにも、創業者間契約による事前のリスク管理が不可欠なのです。
まとめ
創業者間契約は、複数人で共同創業するスタートアップにとって必須の法的基盤です。親しい間柄であっても、将来的な意見の対立や退職によって株式を巡るトラブルが発生するリスクは常に存在します。
契約では退任時の株式譲渡義務、買取価格の算定方法、相続時の取り扱いなどを明確に定めることが重要です。また、締結時期は創業メンバーに株式を譲渡するタイミングが最適であり、関係が悪化してからでは合意が困難になります。
雛形を活用する際も、自社の状況に合わせたカスタマイズが必要です。可能であれば弁護士や税理士などの専門家に相談し、法的リスクを最小限に抑えた契約を締結しましょう。創業者間契約は、スタートアップの円滑な成長と将来の選択肢を守るための重要な投資なのです。
本記事が参考になれば幸いです。

