反社チェックとは?スタートアップが取引前に実施すべきスクリーニングの方法

この記事でわかること
  • 反社チェックとは?
  • スタートアップにとっての反社チェックの重要性
  • 反社チェックを実施すべき対象範囲とタイミング
  • スタートアップが実践できる反社チェックの具体的手法
  • 反社会的勢力が判明した場合の対処法

スタートアップの健全な成長において、反社チェックは欠かせない取り組みです。取引先や株主に反社会的勢力との関係がないかを事前に確認することで、企業の信頼性を守り、資金調達やIPOを円滑に進めることができます。しかし、具体的にどのように実施すればよいのか、どこまで調査すべきなのか、判断に迷う経営者も少なくありません。

本記事では、反社チェックの基本から具体的な実施方法、対処法まで、スタートアップが押さえるべきポイントを網羅的に解説します。適切な反社対応によって、企業価値を守り、持続的な成長を実現しましょう。

目次

反社チェックとは?

反社チェックとは、取引先企業や従業員、株主などが反社会的勢力に該当しないか、あるいは関係を持っていないかを事前に調査することです。コンプライアンスチェックとも呼ばれ、企業の健全な経営を維持するために欠かせない取り組みとなっています。

反社会的勢力の定義

反社会的勢力とは、法務省が2007年に公表した指針において「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義されています。具体的には、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団などが該当します。

近年では、暴力団としての実態を隠して通常の企業活動を装うケースが増えており、一見しただけでは反社会的勢力かどうかの判断が困難になっています。そのため、属性だけでなく暴力的な要求行為や不当な要求といった行為面からも総合的に判断することが重要です。

反社チェックが求められる背景

2007年の政府指針発表以降、企業による反社会的勢力の排除は社会的な要請となりました。2011年までに全47都道府県で暴力団排除条例が施行され、企業には契約時の相手方確認や契約書への暴力団排除条項の記載が努力義務として課されています。

特に近年では、取引先企業からの信頼獲得やコンプライアンス遵守の観点から、スタートアップを含むすべての企業規模において反社チェックの実施が一般化しています。資金調達や事業拡大を目指すスタートアップにとって、反社チェックは企業の信頼性を示す重要な要素となっているのです。

スタートアップにとっての反社チェックの重要性

スタートアップにとって反社チェックは、単なるコンプライアンス対応を超えた経営の根幹に関わる重要な取り組みです。急成長を目指す段階だからこそ、反社会的勢力との関係遮断は企業価値を守るための必須事項となります。

反社会的勢力への資金提供の防止

反社会的勢力と取引を行うことは、たとえ通常の商取引であっても、結果的に違法活動への資金提供につながる可能性があります。政府指針では「反社会的勢力を社会から排除していくことは、暴力団の資金源に打撃を与え、治安対策上、極めて重要な課題である」と明記されており、企業には反社会的勢力との一切の関係遮断が求められています。

スタートアップが知らずに反社会的勢力と取引してしまった場合でも、社会的には「資金提供を行った」と見なされ、企業の信頼性が大きく損なわれることになります。

資金調達への影響

スタートアップにとって特に深刻なのが、資金調達への影響です。ベンチャーキャピタルや投資家は投資判断において必ず反社チェックを実施します。もし株主や取引先に反社会的勢力との関係が疑われる相手が含まれていた場合、投資を見送られる可能性が高まります。

また、金融機関からの融資についても同様です。反社会的勢力との関係が判明すれば、既存の融資が停止されるだけでなく、新規の資金調達が困難になり、事業継続そのものが危ぶまれる事態に陥ります。

企業の社会的信用の維持

スタートアップは大企業と比較して社会的信用が確立されていない段階にあります。だからこそ、反社会的勢力との関係が発覚した際のダメージは計り知れません。取引先からの契約解除、採用活動への悪影響、メディアでの報道による風評被害など、一度失った信用を回復することは極めて困難です。

急成長を目指すスタートアップにとって、反社チェックは事業の持続可能性を確保するための基盤となる取り組みなのです。

反社チェックを実施すべき対象範囲とタイミング

反社チェックを効果的に実施するためには、適切な対象範囲の設定と実施タイミングの判断が重要です。スタートアップのリソースを考慮しながら、リスクの高い対象から優先的にチェックを行う必要があります。

チェック対象となる範囲

反社チェックの対象は、取引先企業だけではありません。自社に関わるあらゆるステークホルダーが対象となります。

取引先企業については、企業本体だけでなく、その役員や大株主、顧問弁護士や顧問税理士といった外部関係者も確認対象に含まれます。特に継続的な取引や高額取引を行う主要取引先については、重点的なチェックが必要です。

従業員や役員についても、正社員だけでなくアルバイトや契約社員も含めて確認を行います。特に役員については、就任前に本人の経歴だけでなく、家族や親族が経営する企業についても確認することが推奨されます。

株主も重要なチェック対象です。個人株主だけでなく法人株主についても、その代表者や役員、大株主まで確認する必要があります。スタートアップの場合、資金調達時に新たな株主が加わるタイミングで必ず確認を行いましょう。

反社チェックを実施するタイミング

反社チェックは、リスクが顕在化する前の適切なタイミングで実施することが重要です。

新規取引開始時には、契約締結前に必ずチェックを行います。契約前に調査が完了しない可能性も考慮し、契約書には反社会的勢力と判明した場合の契約解除条項を盛り込んでおくことが重要です。

既存取引先についても、最低でも年1回は定期的なチェックが必要です。取引開始時には問題がなくても、その後に反社会的勢力との関係が生じる可能性があるためです。

役員就任時や従業員採用時も重要なタイミングです。特に役員については、就任が決定してから実際の就任前までに必ずチェックを完了させましょう。

資金調達前は最も重要なタイミングの一つです。投資家からのデューデリジェンスに備え、株主全体のチェックを事前に実施しておく必要があります。

スタートアップが実践できる反社チェックの具体的手法

反社チェックには複数の手法があり、対象のリスクレベルや自社のリソースに応じて適切な方法を選択することが重要です。スタートアップでも実践可能な段階的なアプローチを紹介します。

公知情報による自社調査

最も基本的な手法が、インターネットや新聞記事などの公知情報を活用した調査です。コストを抑えながら実施できるため、スタートアップの初期段階でも取り組みやすい方法といえます。

インターネット検索では、企業名や代表者名で検索し、ネガティブな情報がないかを確認します。ただし、情報の信憑性については慎重な判断が必要です。新聞記事データベースサービスを利用すれば、より信頼性の高い情報源から過去の記事を検索できます。

商業登記情報の確認も有効です。法人登記を調べることで、商号や所在地、役員名、事業目的の変更履歴などを把握でき、不審な点を発見できる可能性があります。

複数の情報源を組み合わせることで調査の精度が高まります。また、調査を実施した日時や検索条件、結果を記録として残すことで、適切にチェックを行った証拠となります。

反社チェックツールの活用

効率的に反社チェックを行うには、専門のツールやデータベースサービスの利用が効果的です。これらのサービスは新聞記事や独自に収集した反社会的勢力の情報をデータベース化しており、迅速かつ網羅的な調査が可能になります。

ツールを利用する際のメリットは、調査結果が自動的に記録され、エビデンスとして保管できる点です。また、定期的なチェックの自動化により、継続的なモニタリングも実現できます。

専門機関への相談・依頼

公知情報の調査で疑わしい情報が見つかった場合や、高額取引・重要取引先については、専門機関への相談や依頼を検討します。

調査会社や興信所に依頼すれば、自社では入手困難な情報も含めた詳細な調査が可能です。コストは高くなりますが、リスクの高い案件では必要な投資といえます。

警察や暴力追放運動推進センターへの照会は、反社会的勢力である可能性が高いと判断できる材料が揃っている場合の最終確認手段として活用します。

反社会的勢力が判明した場合の対処法

反社チェックの結果、反社会的勢力との関係が判明した、あるいはその可能性が高いと判断された場合には、迅速かつ慎重な対応が求められます。自社だけで対処せず、専門家の助言を得ながら進めることが重要です。

専門機関への相談

反社会的勢力との関係が疑われる場合、まずは弁護士や警察、暴力追放運動推進センターなどの専門機関に相談することが最優先です。自己判断での対応は、かえって事態を悪化させるリスクがあります。

弁護士に相談すれば、法的な観点から適切な対処方法についてアドバイスを受けられます。契約解除の進め方や、万が一訴訟に発展した場合の対応についても事前に準備できます。

警察や暴力追放運動推進センターへの相談は、従業員の安全確保の観点からも重要です。相談時には聞き取りに時間を要しますが、脅迫行為や犯罪行為が疑われる場合には捜査が行われ、企業と従業員の安全確保につながります。また、警察への情報提供は他の企業の保護にも貢献することになります。

取引の中止・関係の解消

反社会的勢力であることが判明した場合、速やかに取引を中止し、関係を解消する必要があります。ただし、対応方法は契約の段階によって異なります。

契約締結前の段階であれば、詳細な理由を伝える必要はありません。「弊社の取引審査の結果、取引ができないと判断しました」といった形で、結論のみを簡潔に伝えます。反社会的勢力であることを理由として明示すると、不当な要求を受けるリスクが高まるため避けるべきです。

契約締結後に判明した場合は、契約書に記載された反社排除条項に基づいて契約を解除します。反社排除条項が記載されていない場合でも、民法の公序良俗違反により契約を無効とできる可能性がありますが、弁護士と相談しながら慎重に進める必要があります。

従業員が該当する場合は、経歴詐称や服務規定違反を理由とした懲戒解雇の手続きを行います。この場合、入社時の誓約書に反社排除の条項が含まれていることが前提となるため、就業規則や誓約書の整備が重要です。

対応の全過程において、やり取りの記録や証拠を確実に保管しておくことで、後のトラブルに備えることができます。

反社チェック実施時の注意点とポイント

反社チェックを適切に実施するためには、いくつかの重要な注意点があります。コンプライアンスを遵守しながら、効果的なチェック体制を構築するためのポイントを押さえておきましょう。

個人情報保護法への配慮

反社チェックを行う過程では個人情報を取り扱うため、個人情報保護法に基づいた適切な対応が必要です。反社チェックの目的を明確にし、必要最小限の情報のみを収集・利用することが重要です。

特に注意が必要なのは、厚生労働省の指針で収集が禁止されている個人情報です。人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地などの社会的差別の原因となる事項、思想及び信条、労働組合への加入状況については、反社チェックの目的であっても収集してはいけません。

収集した個人情報は適切に管理し、情報漏洩を防ぐための体制整備も欠かせません。万が一、個人情報の取り扱いに問題があった場合、企業の信用失墜につながる恐れがあります。

調査証跡の確実な保管

反社チェックを実施した際には、調査日時、調査方法、検索条件、調査結果といった証跡を必ず残しておく必要があります。これらの記録は、適切にチェックを行ったことの証明となり、万が一トラブルが発生した際の重要な証拠となります。

特に契約解除や解雇を行う場合、反社会的勢力であると判断した根拠の妥当性を示す必要があります。インターネットで調査した場合は、閲覧した記事が後に削除される可能性もあるため、URLだけでなく画面のスクリーンショットも保存しておくことが推奨されます。

反社チェックツールを利用すれば、調査結果が自動的に記録され、証跡管理の負担を軽減できます。

定期的なチェックの実施

反社チェックは取引開始時の一度だけで終わらせず、定期的に実施することが重要です。取引開始時には問題がなくても、その後に状況が変化し、反社会的勢力との関係が生じる可能性があるためです。

理想的には取引の継続や契約更新のタイミングで都度チェックを行うべきですが、難しい場合でも最低年1回は定期的な確認を実施しましょう。定期チェックを習慣化することで、リスクの早期発見と迅速な対応が可能になります。

資金調達・IPO準備時における反社対応の重要性

スタートアップにとって資金調達やIPOは事業成長の重要な節目ですが、この段階での反社対応の不備は致命的な結果をもたらす可能性があります。投資家や証券取引所は反社チェック体制を厳格に審査するため、早期からの準備が不可欠です。

投資家からの審査対応

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家は、投資判断において必ず反社チェックを実施します。デューデリジェンスの過程で、株主や取引先、役員に反社会的勢力との関係が疑われる相手が含まれていないかが詳細に調査されます。

もし問題が発覚した場合、投資を見送られるだけでなく、既に決定していた投資案件が白紙に戻される可能性もあります。さらに、投資家コミュニティでの評判が損なわれ、今後の資金調達活動全体に悪影響を及ぼすリスクがあります。

資金調達を計画する段階で、自社の株主構成や主要取引先について事前に反社チェックを完了させておくことが重要です。投資家からの質問に即座に対応できる体制を整えることで、スムーズな資金調達につながります。

IPO審査における反社対応

IPOを目指すスタートアップにとって、反社対応は上場審査の重要な審査項目です。東京証券取引所の上場審査では「反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること」が実質審査基準の一つとされています。

上場申請時には、役員、役員に準ずる重要な従業員、重要な子会社の役員、株主上位50名、主な仕入先・販売先の上位10社について、反社会的勢力との関係がないことを示す確認書の提出が求められます。また、主幹事証券会社による独自の調査報告書も必要となります。

万が一、IPO審査の過程で反社会的勢力との関係が発覚した場合、審査はその時点で終了し、上場が認められません。さらに深刻なのは、不承認の理由が反社との関与であることは明示されないため、問題の解消も困難になることです。

早期からの体制構築

反社対応は企業規模が拡大する前に体制を整備することが効果的です。特にIPO準備段階では、N-3期の監査法人によるショートレビューでも反社チェック体制について確認されるケースが増えています。

株主に反社会的勢力との関係が疑われる人物がいる場合、早急に株式を買い取り関係を解消する必要がありますが、所有株数によっては多額の費用と時間を要します。IPO直前に問題が発覚すると、上場スケジュール全体に影響が出るため、できる限り早期に現状把握と体制構築を進めることが重要です。

まとめ

反社チェックは、スタートアップにとって企業の信頼性と持続的成長を支える重要な取り組みです。取引先企業、従業員、役員、株主といった幅広い対象に対して、新規取引時や定期的なタイミングでチェックを実施することが求められます。

公知情報の検索から専門機関への相談まで、リスクレベルに応じた適切な手法を選択し、調査証跡を確実に保管することが重要です。万が一反社会的勢力との関係が判明した場合は、弁護士や警察などの専門機関に相談しながら、慎重に対応を進める必要があります。

特に資金調達やIPO準備を控えるスタートアップにとって、反社対応の不備は致命的な影響をもたらす可能性があります。企業規模が拡大する前に体制を整備し、早期から継続的な反社チェックを実践することで、企業価値を守り、投資家や取引先からの信頼を獲得することができます。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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