株主間契約とは?スタートアップが押さえるべき条項とトラブル対策

この記事でわかること
  • 株主間契約とは?基本の仕組みと役割
  • スタートアップに株主間契約が必要な理由
  • 創業株主間契約と投資家との株主間契約の違い
  • 株主間契約に盛り込むべき主要条項
  • スタートアップが注意すべき契約条項のポイント

スタートアップを複数人で創業する際や投資家から資金調達を受ける際に重要となるのが「株主間契約」です。創業者間のトラブル防止や投資家との関係構築に欠かせない契約ですが、内容を十分に理解せずに締結してしまうと、後に深刻な問題を引き起こす可能性があります。

本記事では、株主間契約の基本的な仕組みから、創業株主間契約と投資家との契約の違い、盛り込むべき主要条項、注意すべきポイント、実際のトラブル事例と対策まで、スタートアップが知っておくべき実践的な知識を網羅的に解説します。

目次

株主間契約とは?基本の仕組みと役割

株主間契約の定義と目的

株主間契約とは、会社の株主同士が締結する契約で、株式の取り扱いや経営に関する権利義務を定めるものです。会社法で定められた基本的なルールに加えて、株主間で独自の取り決めを設けることで、将来的なトラブルを未然に防ぎ、円滑な経営を実現する役割を果たします。

スタートアップにおいては、複数の創業者が株式を保有する場合や、ベンチャーキャピタルなどの投資家から資金調達を受ける際に締結されることが一般的です。契約の当事者は株主のみで、会社自体は当事者とならないケースが多くなっています。

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定款・種類株式との違い

株主間契約は定款や種類株式とは異なる特徴を持ちます。定款は会社法に基づいて作成される会社の根本規則で、変更には株主総会の特別決議と登記が必要です。また、株主や債権者であれば誰でも閲覧できる公開情報となります。

一方、株主間契約は契約当事者間の合意のみで成立し、登記や公開の必要がありません。会社法で定められた項目以外の柔軟な取り決めが可能で、契約内容を外部に知られたくない場合にも有効です。ただし、契約の効力は当事者間にのみ及び、契約に参加していない株主や会社を法的に拘束することはできない点に注意が必要です。

株主間契約が果たす実務上の役割

株主間契約は、株主間の利害調整とリスク管理において重要な機能を担います。創業者間では、一部のメンバーが退任した際の株式の取り扱いを明確にし、残った創業者が事業を継続できる体制を整えます。投資家との関係では、経営への関与度合いや情報開示の範囲、将来のイグジット時の条件などを具体的に定めることで、双方の期待値を明確にします。

また、株主総会での議決権行使に関するルールや、重要事項の意思決定プロセスを事前に取り決めることで、デッドロック(意思決定の膠着状態)を回避し、スピーディな経営判断を可能にします。

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スタートアップに株主間契約が必要な理由

創業者間のトラブル防止

スタートアップを複数人で創業する場合、当初は強い信頼関係で結ばれていても、事業が進む中で意見の対立や価値観の相違が生じることは珍しくありません。資金調達の方針、事業戦略の方向性、経営判断のスピード感などで創業者間の考えが分かれた際、一部の創業者が会社を離れる事態も発生します。

このとき株主間契約がなければ、退任した創業者が株式を保有し続けることで、残った創業者が意思決定できない状況に陥る可能性があります。特に創業者間で株式を均等に保有している場合、一方が反対すれば重要な決議ができず、資金調達やM&Aの機会を逃すリスクが高まります。株主間契約で退任時の株式譲渡ルールを定めることで、こうした事態を回避できます。

投資家との関係の明確化

ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から資金調達を行う際、投資家は少数株主の立場となることが多く、会社法上の権利だけでは十分な保護が得られません。そのため投資家は、経営状況の定期報告や重要事項の事前承認など、株主間契約を通じて自身の権利を確保しようとします。

一方、創業者側にとっても、投資家がどの程度経営に関与するのか、どのような条件でイグジットを求めるのかを明確にすることは重要です。双方の期待と責任を株主間契約で具体的に定めることで、良好な関係を維持しながら事業成長に集中できる環境が整います。

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将来の資金調達とイグジットへの備え

スタートアップは成長段階に応じて複数回の資金調達を実施します。その都度、新たな投資家が参加し、株主構成が複雑化していきます。初期段階で適切な株主間契約を締結しておくことで、次回以降の資金調達時における交渉の基準が明確になり、手続きをスムーズに進められます。

また、IPOやM&Aといったイグジット時には、全株主の協力が不可欠です。株主間契約で共同売却の義務や優先分配のルールを定めておくことで、イグジットの実現可能性が高まり、投資家にとっても魅力的な投資先となります。

創業株主間契約と投資家との株主間契約の違い

創業株主間契約の特徴と目的

創業株主間契約は、スタートアップを共同で立ち上げた創業者同士が締結する契約です。主な目的は、創業メンバーの一部が会社を離れた際の株式の取り扱いを明確にすることにあります。創業時は対等な関係であっても、事業の方向性や経営判断で意見が分かれ、関係が悪化するケースは少なくありません。

この契約で最も重要なのが、退任した創業者の株式を残る創業者が買い取る権利です。買取価格は出資額や簿価純資産など、企業価値の上昇を限定的にしか反映しない設定が一般的です。また、ベスティング条項を設けて、一定期間在籍した創業者のみが株式を保有できる仕組みを導入することもあります。これにより、短期間で退任した創業者が大きな株式比率を維持し続ける事態を防ぎます。

投資家との株主間契約の特徴と目的

投資家との株主間契約は、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から資金調達を実施する際に締結されます。この契約の主眼は、投資家の権利保護と経営へのガバナンス確保です。投資家は少数株主として大きなリスクを取るため、会社法上の権利を補完する形で、株主間契約により様々な保護策を設定します。

具体的には、重要事項に対する事前承認権や拒否権、取締役の指名権、定期的な経営情報の開示義務などが盛り込まれます。また、M&Aの際の強制売却権や優先分配権、ダウンラウンド時の希薄化防止条項など、投資回収に関する条項も重要な要素です。投資家は複数のラウンドで参加することもあり、既存投資家との権利関係の調整も必要になります。

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契約の当事者と適用場面の違い

創業株主間契約の当事者は創業者のみであり、株式保有割合や経営への関与度が比較的均等な関係で締結されます。締結時期は会社設立直後または創業メンバーへの株式譲渡時が適切です。一方、投資家との株主間契約は、創業者・既存株主・新規投資家が当事者となり、投資実行と同時に締結されるのが一般的です。

また、創業株主間契約は内部の関係整理が中心ですが、投資家との契約は外部からの監視と保護が主目的となります。そのため、条項の内容や交渉のポイントが大きく異なり、それぞれの局面で適切な契約設計が求められます。

株主間契約に盛り込むべき主要条項

退任時の株式譲渡に関する条項

創業株主間契約で最も重要なのが、退任時の株式譲渡請求権です。この条項により、会社を離れる創業者の保有株式を、残る創業者や会社が買い取ることができます。退任の定義は、役員を辞任した時点とするか、従業員の地位も失った時点とするかを明確にする必要があります。

譲渡価格の設定も重要で、出資額、簿価純資産額、直近の資金調達時の株価など、複数の選択肢があります。無償や出資額での譲渡は税務リスクを伴う可能性があるため注意が必要です。また、ベスティング条項を設けることで、一定期間在籍した創業者には株式保有を認める仕組みも検討できます。譲渡手続きへの協力義務も明記し、退任者が手続きを妨げないよう規定します。

事前承認・拒否権に関する条項

投資家との株主間契約では、重要事項について投資家の事前承認を必要とする条項が設けられます。対象となるのは、多額の資産売却、新株発行、定款変更、M&A、重要な契約締結などです。投資家にとっては経営監視の手段ですが、範囲が広すぎると会社の機動的な意思決定を阻害するため、適切なバランスが求められます。

事前承認よりも緩やかな措置として、事前通知義務を設定する場合もあります。また、特に重要な事項については拒否権を付与し、投資家の同意なしには実行できない仕組みとすることもあります。情報開示義務として、月次の財務情報や事業計画の提供、重大なリスク事象の報告なども規定されます。

イグジットに関する条項

M&AやIPOを見据えた条項も重要です。ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)は、一定割合以上の株主が賛成した場合、他の株主も同条件での株式売却に応じる義務を負うものです。これによりM&Aをスムーズに進められますが、創業者にとっては不本意な売却を強いられるリスクもあります。

タグ・アロング・ライト(共同売却請求権)は、大株主が株式を売却する際に、少数株主も同条件で売却できる権利です。みなし清算条項では、M&A時に会社を清算したとみなして優先株式の分配ルールを適用します。先買権は、株主が株式を譲渡しようとする際、他の株主が優先的に買い取れる権利で、望まない第三者の参入を防ぐ効果があります。

スタートアップが注意すべき契約条項のポイント

強制売却権の発動条件を慎重に検討する

ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)は、投資家がイグジットの機会を確保するために求める条項ですが、創業者にとっては諸刃の剣となります。過半数の株主が賛成すれば発動できる設定では、創業者がIPOを目指していても、投資家主導でM&Aが強制される可能性があります。

発動要件として、賛成する株主の保有割合を3分の2以上にする、創業者の同意を必須とする、最低売却価格を設定するなどの条件を交渉することが重要です。また、発動できる期間を一定年数経過後に限定したり、IPO準備が進んでいる場合は適用除外とするなど、創業者の意向を反映できる余地を残すことも検討すべきです。

事前承認事項の範囲を適切に設定する

投資家が要求する事前承認事項は、経営の透明性確保には有効ですが、範囲が広すぎると日常的な経営判断まで投資家の承認待ちとなり、事業のスピード感が失われます。一定金額以上の取引、新規事業への進出、重要な人材の採用など、本当に重要な事項に絞り込むことが望ましいです。

金額基準を設ける場合は、会社の成長に応じて段階的に引き上げられる仕組みや、緊急時には事後報告で足りる例外規定を設けることも有効です。また、投資家が複数いる場合、全員の承認が必要なのか、過半数で足りるのかも明確にしておくべきです。承認の回答期限を設定し、期限内に回答がない場合は承認とみなす条項も、意思決定の遅延を防ぐために検討できます。

希薄化防止条項の影響を理解する

アンチ・ディリューション条項は、ダウンラウンド時に既存投資家の株式価値の目減りを防ぐ仕組みですが、創業者や他の株主の持株比率が大きく希薄化するリスクがあります。フルラチェット方式では、新しい低い株価で既存投資家に追加株式を付与するため、創業者への影響が極めて大きくなります。

加重平均方式であれば影響は限定的ですが、それでも一定の希薄化は避けられません。条項を受け入れる場合は、発動条件として一定割合以上の株価下落に限定する、発動回数に上限を設けるなどの制限を交渉することが重要です。また、ストックオプションプールへの影響も確認し、従業員へのインセンティブ設計に支障が出ないよう注意が必要です。

株主間契約のトラブル事例と対策

創業者の突然の退任によるトラブル

創業メンバーの一人が健康上の理由や家庭の事情で突然会社を離れることになったものの、株主間契約を締結していなかったため、退任後も大きな株式比率を保有し続けるケースがあります。残った創業者は過半数の議決権を確保できず、新たな資金調達やM&Aの交渉で投資家から懸念を示され、成長機会を逃す事態に陥ります。

このトラブルを防ぐには、創業直後に株主間契約を締結し、退任時の株式譲渡義務を明確にしておくことが不可欠です。退任の定義を広く設定し、役員退任だけでなく従業員の地位も失った場合を含めることで、実質的に会社を離れた創業者の株式を適切に処理できます。また、譲渡価格を出資額や簿価純資産額に設定することで、残る創業者の資金負担を軽減できます。

デッドロックによる意思決定の停滞

共同創業者間で株式を50対50で保有していたところ、資金調達の方針で対立が生じ、双方が譲らず株主総会の決議ができない状態に陥るケースです。重要な契約締結や新規事業への投資が進まず、事業機会を逃すだけでなく、既存の取引先や従業員からの信頼も失います。

対策としては、創業時から完全な均等配分を避け、51対49など意思決定権を明確にする株式配分が推奨されます。それでも均等配分とする場合は、デッドロック条項を設けて解決手続きを定めます。具体的には、合意できない場合に一方が他方の株式を買い取る権利、第三者の調停を受ける義務、最終的には会社を解散する手続きなどを規定します。

投資家との認識の相違によるトラブル

投資契約締結時に株主間契約の内容を十分に理解せず、形式的に締結した結果、投資家が想定以上に経営に介入してきたり、早期のM&Aを強く要求してくるケースがあります。創業者はIPOを目指していたにもかかわらず、強制売却権が発動され、不本意なタイミングでの株式売却を迫られる事態も発生します。

このトラブルを防ぐには、契約締結前に各条項の意味と影響を十分に理解し、不明点は専門家に相談することが重要です。特に事前承認事項の範囲、強制売却権の発動条件、イグジット戦略については、投資家と認識をすり合わせ、双方が納得できる内容に調整します。インターネット上の雛形をそのまま使用せず、自社の状況に合わせた契約書を作成することが不可欠です。

株主間契約の締結タイミングと進め方

創業株主間契約の適切な締結時期

創業株主間契約は、共同創業者間の関係が良好な創業直後に締結するのが理想的です。会社設立と同時、または創業メンバーに株式を譲渡する際に締結することで、将来のトラブルを未然に防げます。創業時は互いの信頼関係が強く、退任時のことを考えるのは気が引けるかもしれませんが、まさにその時期だからこそ冷静で公平な契約を結べます。

関係が悪化してから契約を結ぼうとしても、すでに利害が対立しているため合意形成が困難になります。また、資金調達を検討し始めた段階で投資家から創業株主間契約の締結を求められることも多いため、その前に準備しておくことで交渉をスムーズに進められます。事業が軌道に乗り、企業価値が上昇してからでは、退任時の株式譲渡価格の設定でも合意が難しくなります。

投資家との株主間契約の締結プロセス

投資家との株主間契約は、資金調達のプロセスの中で締結されます。まずタームシート(投資条件概要書)で投資金額、株価、主要な権利義務の大枠を合意します。その後、デューデリジェンスを通じて法務・財務・ビジネス面のリスクを洗い出し、必要に応じて契約条件を調整します。

並行して弁護士などの専門家の支援を受けながら株主間契約のドラフトを作成し、投資家側と交渉を重ねます。事前承認事項の範囲、強制売却権の発動条件、情報開示の頻度など、細部まで詰めていく必要があります。既に他の投資家がいる場合は、既存の株主間契約との整合性を確認し、必要に応じて既存契約の修正や統合も検討します。最終合意後、投資実行と同時に株主間契約を締結するのが一般的な流れです。

契約締結時の重要な注意点

株主間契約の締結にあたっては、インターネット上の雛形をそのまま使用するのではなく、自社の状況や株主構成、事業戦略に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。雛形は一般的な条項を網羅していますが、個別の事情を反映していないため、そのまま使用すると後でトラブルになる可能性があります。

特に創業者と投資家の間では、イグジット戦略や経営への関与度合いについて、締結前に十分な対話を行い、認識のずれをなくすことが重要です。各条項の意味と影響を双方が正確に理解し、疑問点は曖昧なままにせず明確にします。また、将来の資金調達を見据えて、次回ラウンドの投資家が参加しやすい契約設計とすることも考慮すべきです。企業法務に精通した弁護士に相談し、リーガルチェックを受けることで、法的リスクを最小限に抑えられます。

まとめ

株主間契約は、スタートアップの成長を支える重要な基盤となる契約です。創業者間では退任時の株式譲渡ルールを定めることでトラブルを防止し、投資家との間では経営への関与度合いやイグジット条件を明確にすることで良好な関係を構築できます。

契約締結で重要なのは、適切なタイミングで、自社の状況に合わせた内容とすることです。創業株主間契約は関係が良好な創業直後に、投資家との契約は資金調達プロセスの中で締結します。インターネットの雛形をそのまま使用せず、特に強制売却権や事前承認事項の範囲、希薄化防止条項については慎重に検討する必要があります。

契約内容は法的な専門知識を要するため、企業法務に精通した弁護士に相談し、リーガルチェックを受けることを強く推奨します。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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