スタートアップ向けリファラル採用の始め方 メリットから運用までを解説

採用コストの増大と人材不足に悩むスタートアップにとって、リファラル採用は課題解決の有効な手段として注目されています。

社員の人脈を活用したこの採用手法は、従来の求人広告や人材紹介会社と比較して大幅なコスト削減を実現し、転職潜在層へのアプローチも可能にします。

本記事では、リファラル採用の基本概念から導入手順、よくある失敗パターンと対策、成功事例まで、スタートアップが知るべき情報を解説します。

目次

リファラル採用とは?

リファラル採用の基本的な仕組み

リファラル採用とは、自社の社員が友人や知人を会社に紹介し、採用につなげる手法です。「referral」は英語で「紹介・推薦」を意味し、社員紹介採用とも呼ばれています。

従来の求人広告や人材紹介会社を通じた採用とは異なり、既存社員の人脈を活用して候補者にアプローチするため、転職活動をしていない潜在層にもリーチできるのが特徴です。社員が自社の魅力を直接伝えることで、企業理解の深い候補者を獲得できます。

縁故採用との違いとリファラル採用の特徴

リファラル採用は縁故採用と混同されがちですが、本質的に異なります。縁故採用は経営陣の親族や関係者の紹介で、選考過程を省略して採用することが多いのに対し、リファラル採用は通常の選考基準を満たした候補者のみを採用します。

また、リファラル採用では全社員が紹介者となり得るため、より公平性が保たれます。紹介されたからといって必ず採用されるわけではなく、適切な評価プロセスを経て採用可否を判断する点が重要です。

スタートアップにおけるリファラル採用の位置づけ

スタートアップにとってリファラル採用は、限られたリソースで優秀な人材を獲得する効果的な手段です。知名度が低く採用予算も限られるスタートアップでは、大手企業と同じ土俵で人材獲得競争をするのは困難です。

リファラル採用なら、社員の信頼関係を活用して候補者にアプローチできるため、企業規模や知名度に関係なく優秀な人材と出会えます。また、社員が自社の魅力を直接伝えることで、スタートアップの成長性や働きがいを効果的にアピールできます。

海外では採用手法の主流となっており、日本でも急速に普及が進んでいます。特にベンチャー企業を中心に導入が加速しており、今後さらに重要な採用チャネルとなることが予想されます。

スタートアップがリファラル採用を導入すべき5つの理由

採用コストを大幅に削減できる

スタートアップの限られた予算において、採用コストの削減は重要な課題です。求人広告の掲載費や人材紹介会社の成功報酬は、1人当たり数十万円から年収の30%程度と高額になりがちです。

リファラル採用では、これらの外部コストが不要となり、社員への紹介報酬のみで採用が可能です。一般的な紹介報酬は5万円から20万円程度で、従来の採用手法と比較して大幅なコスト削減を実現できます。浮いた予算を事業開発や他の重要な投資に回せるのは、スタートアップにとって大きなメリットです。

ミスマッチを防ぎ定着率を向上させる

スタートアップでは一人ひとりの影響力が大きいため、採用ミスマッチは事業に深刻な影響を与えます。リファラル採用では、自社をよく理解している社員が候補者に詳細な情報を提供するため、入社後のギャップが生じにくくなります。

実際に働いている社員から企業文化や業務の実情を聞くことで、候補者は現実的な期待値を持って入社できます。

転職潜在層にアプローチできる

求人広告や転職エージェントでは、積極的に転職活動をしている層にしかアプローチできません。しかし優秀な人材の多くは現職で活躍しており、転職市場には出てきていないのが現実です。

リファラル採用なら、「今すぐ転職は考えていないが、良い機会があれば検討したい」という転職潜在層にもアプローチできます。信頼できる知人からの紹介であれば、転職を検討していない人材も話を聞いてくれる可能性が高まります。この潜在層へのアプローチにより、他社との競争を避けて優秀な人材を獲得できます。

社員エンゲージメントの向上につながる

リファラル採用は、紹介する社員自身にとってもメリットがあります。知人に自社を紹介する過程で、改めて会社の魅力や自身の仕事について見直すきっかけとなり、エンゲージメントの向上が期待できます。

また、紹介した人材が入社すれば、職場に知り合いがいることで双方の安心感や帰属意識が高まります。このように、リファラル採用は採用効果だけでなく、既存社員のモチベーション向上にも寄与する一石二鳥の施策といえます。

急成長に必要な人材を効率的に獲得

スタートアップの急成長には、短期間で多様なスキルを持つ人材を確保する必要があります。リファラル採用では、社員の多様なネットワークを活用することで、事業に必要な専門性を持つ人材に効率的にアプローチできます。

特に技術系の専門職など、一般的な求人では見つけにくい人材も、同業界で働く社員の紹介により獲得しやすくなります。

スタートアップのリファラル採用導入手順とコツ

制度設計と基本ルールの策定

リファラル採用の成功には、明確な制度設計が不可欠です。まず、紹介対象となる職種や求める人材像を具体的に定義し、紹介から採用までのプロセスを明文化します。選考基準は通常採用と同等にし、紹介されたからといって優遇されないことを明確にしましょう。

インセンティブ制度も重要な要素です。報酬額は5万円から20万円程度が相場ですが、職業安定法に抵触しないよう就業規則に明記し、業務の一環として位置づけることが必要です。金銭以外にも、ギフト券や社内表彰など、企業文化に合った報酬形態を検討できます。

また、会食費の補助制度を設けることで、社員が気軽に知人と会える環境を整備します。ただし、会食が目的化しないよう、事前申請や応募者登録を条件とするなど、適切なルール設定が重要です。

社内への制度周知と浸透活動

制度を策定しても、社員に認知されなければ機能しません。全社説明会での制度紹介に加え、社内報やチャットツールを活用した継続的な情報発信が必要です。求人情報の更新や成功事例の共有など、定期的なコミュニケーションで制度の存在を思い出してもらいましょう。

スタートアップでは社員数が少ないため、一人ひとりの理解度を直接確認することも可能です。朝礼やミーティングの場で進捗を共有し、疑問点があれば個別にフォローする姿勢が大切です。社員が「なぜリファラル採用が必要なのか」を理解し、当事者意識を持ってもらうことが制度定着のポイントとなります。

小規模からスタートして段階的に拡大

いきなり全社展開するのではなく、エンゲージメントの高い社員やマネージャー層から始めることをおすすめします。この初期メンバーでの成功体験を積み重ね、改善点を洗い出しながら徐々に対象を広げていきます。

スタートアップの機動力を活かし、実際の運用で見えてきた課題に迅速に対応することが重要です。紹介プロセスが複雑すぎる、報酬タイミングが不適切など、運用上の問題があれば柔軟に制度を調整しましょう。

効果測定とPDCAサイクルの確立

リファラル採用の効果を正しく測定するため、KPIを設定します。協力率(全社員に対する紹介経験者の割合)、一人当たり紹介数、応募から採用決定率などの指標を定期的に確認し、課題を特定します。

スタートアップでは人事担当者が限られるため、シンプルで管理しやすい指標を選ぶことが重要です。スプレッドシートでの管理から始め、必要に応じて専用ツールの導入を検討します。月次での振り返りを行い、制度改善に向けたPDCAサイクルを回すことで、自社に最適なリファラル採用の仕組みを構築できます。

データに基づく改善により、リファラル採用を持続可能で効果的な採用チャネルとして確立させることが、スタートアップの成長を支える重要な基盤となります。

リファラル採用で起こりがちな失敗パターンと対策

制度が形骸化してしまう問題

リファラル採用で最も多い失敗は、制度を導入したものの活用されずに形骸化することです。導入当初は盛り上がりを見せても、時間が経つにつれて社員の関心が薄れ、紹介数が激減するケースが大半を占めます。

この問題の根本原因は、継続的な周知活動の不足にあります。対策として、月次の全体会議での進捗共有、チャットツールでの定期的な求人情報発信、成功事例の社内報掲載など、多角的なコミュニケーション戦略が必要です。

また、社員が制度の目的を理解していない場合も形骸化につながります。単に「人を紹介してほしい」ではなく、「なぜリファラル採用が会社の成長に重要なのか」を丁寧に説明し、社員の当事者意識を醸成することが重要です。

人材の同質化とダイバーシティの欠如

社員の友人・知人を中心とした採用では、似たような価値観やバックグラウンドを持つ人材が集まりがちです。これにより組織の多様性が失われ、イノベーションの創出や新しい視点の獲得が困難になるリスクがあります。

スタートアップでは特に、急速な事業変化に対応するため多様な人材が必要です。対策として、求める人材像を部署やスキル別に明確化し、足りない要素を持つ人材の紹介を積極的に促します。また、リファラル採用のみに依存せず、他の採用手法と組み合わせることで、バランスの取れた組織づくりを心がけましょう。

定期的に組織の構成を分析し、年齢・経歴・専門性などの偏りがないかチェックすることも重要です。

不採用時の人間関係悪化

リファラル採用では、紹介した社員と候補者の関係性に配慮が必要です。選考の結果不採用となった場合、双方の関係が気まずくなったり、紹介者が会社に不信感を抱いたりする可能性があります。

この問題を防ぐため、制度導入時に「紹介=採用確約ではない」ことを明確に伝え、通常の選考基準で評価することを周知します。また、カジュアル面談や社内見学など、選考前の接点を設けることで、双方の期待値調整を行うことが効果的です。

不採用が決定した際は、紹介者と候補者の両方に丁寧なフィードバックを提供し、紹介してくれたことへの感謝を必ず伝えます。この対応により、次回以降も安心して紹介してもらえる関係を維持できます。

短期的な成果を期待しすぎる

リファラル採用は中長期的な取り組みであり、導入直後から大量の採用を期待するのは現実的ではありません。特にスタートアップでは即戦力が必要な場面も多く、結果を急ぎがちですが、性急な期待は制度の失敗につながります。

対策として、リファラル採用は既存の採用手法を補完する位置づけとし、他の手法と併用することが重要です。また、協力率や紹介数などのプロセス指標を重視し、採用数だけでなく制度の浸透度合いを評価軸に含めることで、長期的な視点での改善が可能になります。

スタートアップのリファラル採用成功事例

事例① オフィス見学制度で候補者理解を促進したクラウドサービス企業

あるクラウド会計サービスを提供するスタートアップは、事業立ち上げ初期の知名度が低い時期にリファラル採用を積極活用し、多くの採用を実現しました。同社の特徴的な取り組みは、候補者との会食に補助を出すのではなく、オフィスに招いて社内で食事をしてもらう制度の導入です。

この仕組みにより、候補者は実際の職場環境や働く社員の雰囲気を直接体感でき、より深い企業理解につながります。また、複数の社員と自然に交流できるため、紹介者一人の視点だけでなく、多角的な情報収集が可能になります。結果として、入社後のミスマッチを大幅に減らし、高い定着率を実現しています。

スタートアップにとって参考になるのは、限られた予算でも工夫次第で効果的な仕組みを構築できるという点です。会食費よりもコストを抑えながら、より深いエンゲージメントを生み出すこの取り組みは、多くのスタートアップが応用できる手法といえます。

事例② 短期間で制度を浸透させたマーケティング支援企業

あるマーケティング支援を行うスタートアップは、DX人材の大量獲得を目標に掲げ、リファラル採用を本格導入しました。全社員とともに取り組み、開始1カ月で40名の紹介が発生するという驚異的なスタートを切りました。

成功の背景には、明確な目標設定と全社的なコミットメントがあります。DX人材という具体的なターゲットを設定し、そのニーズを全社員に明確に伝えることで、効果的な紹介活動を促進しました。また、転職市場で見つからない潜在層へのアプローチという明確な目的意識が、社員の積極的な参加を促しています。

この事例からスタートアップが学ぶべきは、目標の明確化と全社的な取り組みの重要性です。小規模な組織だからこそ、全員が同じ方向を向いて取り組むことで、短期間での成果創出が可能になります。

事例③ 専門人材獲得に成功したテック系スタートアップ

あるテクノロジー系スタートアップは、エンジニア不足という課題を抱える中で、リファラル採用により専門性の高い技術者を効率的に獲得しました。同社では、技術レベルや使用言語を明確に定義し、現場エンジニアが直接同業界の知人にアプローチする仕組みを構築しました。

特に効果的だったのは、技術勉強会の様子を動画で共有し、候補者に技術的な環境や成長機会を具体的に伝える取り組みです。これにより、技術者が重視する「学習環境」や「技術的挑戦」について、リアルな情報を提供できました。

結果として、一般的な求人では出会えない現役エンジニアからの応募が増加し、技術レベルの高い人材の獲得に成功しています。専門職の採用では、その分野に精通した社員による直接的なアプローチが特に有効であることを示す事例です。

成功事例から学ぶスタートアップ向けのポイント

これらの成功事例に共通するのは、制度の工夫、継続的な取り組み、明確な目標設定です。スタートアップでは限られたリソースの中で最大の効果を上げる必要があるため、自社の特性に合わせた独自の仕組みづくりが重要です。

また、短期的な成果を求めるのではなく、中長期的な視点で制度を育てていく姿勢が成功につながります。小規模な組織の機動力を活かし、試行錯誤しながら最適な運用方法を見つけることが、リファラル採用成功の鍵となります。

リファラル採用にかかる費用と予算の考え方

主要コスト項目と予算配分

リファラル採用では、従来の採用手法と比較して大幅なコスト削減が可能ですが、いくつかの費用項目を理解しておく必要があります。主な費用は、紹介者への報酬、会食費補助、運用ツール費用の3つに分類されます。

紹介者への報酬は最も大きな費用項目で、一般的に1人当たり5万円から20万円程度が相場です。スタートアップでは予算に応じて柔軟に設定でき、職種や採用難易度によって金額を調整することも可能です。会食費補助は月1万円から3万円程度、運用ツールは月額数万円から十数万円程度を想定しておきましょう。

年間で10名の採用を目標とする場合、報酬を10万円に設定すれば年間100万円、その他費用を含めても150万円程度で済みます。人材紹介会社を利用した場合の数百万円と比較すると、大幅なコスト削減効果が期待できます。

従来採用手法との費用対効果比較

求人広告の掲載費は月額20万円前後が一般的で、採用に至らなくても費用が発生し続けます。人材紹介会社の場合、年収の30%程度の成功報酬が必要で、年収500万円の人材なら150万円の費用がかかります。

一方、リファラル採用は成功報酬制のため、採用に至らなければ大きな費用は発生しません。10万円の紹介報酬を設定した場合、同じ年収500万円の人材を人材紹介の約15分の1のコストで採用できる計算になります。

さらに、リファラル採用では採用率が高く、ミスマッチによる早期離職も少ないため、採用の質的な面でも優れたコストパフォーマンスを実現できます。スタートアップにとって、限られた予算で最大の効果を得られる非常に効率的な投資といえるでしょう。

インセンティブ設計のポイント

紹介報酬の設計では、職業安定法への配慮が必要です。高額すぎる報酬は有料職業紹介とみなされる可能性があるため、相場内での設定が重要です。また、就業規則に紹介活動を業務の一環として明記し、賃金の一部として位置づけることで法的リスクを回避できます。

報酬の支払いタイミングも重要な要素です。採用決定時、入社時、試用期間終了時など、複数のタイミングが考えられますが、スタートアップでは入社後3ヶ月程度での支払いが一般的です。これにより、短期離職のリスクを軽減できます。

金銭以外のインセンティブも効果的です。ギフト券、社内表彰、特別休暇などは、企業文化に合わせて選択できます。特にスタートアップでは、金銭的なインセンティブよりも、会社への貢献が認められることの方が動機づけになる場合もあります。

まとめ

リファラル採用は、限られたリソースで優秀な人材を獲得したいスタートアップにとって、非常に有効な採用手法です。採用コストの大幅削減、ミスマッチの防止、転職潜在層へのアプローチなど、従来の採用手法では実現困難なメリットを享受できます。

ただし、制度の成功には適切な設計と継続的な運用が不可欠です。明確なルール策定、社員への継続的な周知、効果測定に基づく改善など、地道な取り組みが制度定着の鍵となります。また、短期的な成果を求めるのではなく、中長期的な視点で制度を育てていく姿勢が重要です。

自社の特性に合わせた独自の仕組みを構築することで、リファラル採用を持続可能で効果的な採用チャネルとして確立できるでしょう。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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