- インサイドセールス立ち上げ前に押さえるべき基礎知識
- 立ち上げの準備段階で決めるべき3つの要素
- インサイドセールスの立ち上げ実行ステップ
- スタートアップならではの立ち上げ成功ポイント
- 立ち上げ後の運用で注意すべきこと
営業活動の効率化を目指すスタートアップにとって、インサイドセールスの導入は有力な選択肢です。しかし、目的が曖昧なまま立ち上げてしまい、期待した成果が得られないケースも少なくありません。
本記事では、スタートアップがインサイドセールスを立ち上げる際に押さえるべき基礎知識から、準備段階での重要な決定事項、具体的な実行ステップまでを網羅的に解説します。限られたリソースの中で成果を出すためのポイントや、よくある失敗パターンとその回避策も紹介しますので、これからインサイドセールスの導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
インサイドセールス立ち上げ前に押さえるべき基礎知識
インサイドセールスとは何か
インサイドセールスとは、電話やメール、Web会議ツールなどを活用して非対面で営業活動を行う手法です。見込み顧客に継続的にアプローチし、購買意欲を高めた上で商談機会を創出することが主な役割となります。
従来の営業手法では、一人の担当者が初回接触から受注まですべてを担当していました。しかし、この方法では担当者の負担が大きく、多くの見込み顧客に対して十分なフォローができないという課題がありました。
インサイドセールスを導入することで、営業プロセスを分業化し、それぞれの段階で最適な対応が可能になります。結果として、営業活動全体の効率が向上し、商談数の増加や受注率の改善が期待できます。

スタートアップがインサイドセールスを導入するメリット
スタートアップにとって、インサイドセールスの導入は大きなメリットをもたらします。
まず、移動時間や交通費などのコストを大幅に削減できる点です。限られた予算で運営するスタートアップにとって、効率的な営業活動は事業成長の鍵となります。
次に、少人数でも多くの見込み顧客にアプローチできる点です。一人の担当者が一日に対応できる顧客数は、訪問営業と比較して圧倒的に多くなります。人材採用に時間がかかるスタートアップでも、既存メンバーで営業範囲を拡大できます。
さらに、データの蓄積と分析がしやすい点も重要です。すべての営業活動がデジタル上で記録されるため、何が効果的だったのか、どこに改善の余地があるのかを定量的に把握できます。
フィールドセールスとの役割分担
インサイドセールスは、マーケティング部門とフィールドセールス部門の間に位置します。マーケティングが獲得した見込み顧客に対してインサイドセールスが継続的にコミュニケーションを取り、商談可能な状態になったらフィールドセールスに引き継ぐという流れが一般的です。
この分業により、フィールドセールスは確度の高い商談に集中でき、成約率の向上が期待できます。インサイドセールスは多数の見込み顧客を効率的にフォローし、最適なタイミングで商談化を進めることができます。

立ち上げの準備段階で決めるべき3つの要素
目的と目標の明確化
インサイドセールスを立ち上げる際、最初に明確にすべきなのが導入の目的です。単に「他社が導入しているから」という理由では、効果的な運用はできません。
自社が抱える営業課題を具体的に洗い出しましょう。見込み顧客のフォローが追いついていない、商談数が不足している、営業担当者の負担が大きすぎるなど、解決したい課題を明確にします。
その上で、インサイドセールス導入によって達成したい目標を設定します。例えば、月間の商談数を現状の1.5倍にする、営業担当者一人あたりの対応可能な見込み顧客数を2倍にするなど、定量的な目標を定めることが重要です。
目的と目標が曖昧なままスタートすると、インサイドセールスがテレアポ部隊のような位置づけになってしまい、本来の価値を発揮できません。関係者全員が同じゴールを共有できる状態を作ることが、成功への第一歩となります。
役割と業務範囲の定義
インサイドセールスがどこまでの業務を担当するのか、明確に定義する必要があります。見込み顧客へのヒアリングまでなのか、商談のアポイント獲得までなのか、あるいは初回商談まで同席するのか、業務の境界線を決めておきましょう。
特に重要なのが、マーケティング部門とフィールドセールス部門との役割分担です。マーケティングからどのような条件の見込み顧客を引き継ぐのか、フィールドセールスへはどの段階で引き渡すのか、具体的な基準を設定します。
例えば、「Webサイトで資料をダウンロードした見込み顧客に3日以内に架電する」「BANTの4項目のうち3つ以上を確認できたらフィールドセールスに引き継ぐ」など、誰が見ても判断できる明確なルールを作ることが大切です。
この役割定義が曖昧だと、部門間で認識のズレが生じ、効率的な営業活動ができなくなります。
予算とリソースの整理
スタートアップがインサイドセールスを立ち上げる際、現実的な予算とリソースの把握が不可欠です。
まず人員面では、何名でスタートできるのかを確認します。立ち上げ初期は2〜3名の少人数から始めることをおすすめします。既存メンバーの配置転換で対応するのか、新規採用が必要なのかも検討しましょう。
次にツール導入費用です。MA、SFA、CRMなどのツールは業務効率化に重要ですが、初期段階ですべてを揃える必要はありません。まずは必要最小限のツールから始め、効果を確認しながら段階的に拡充していく方が現実的です。
その他、電話機やヘッドセット、デスク環境などの設備投資も必要です。これらのコストを洗い出し、確保できる予算内で優先順位をつけて準備を進めましょう。
インサイドセールスの立ち上げ実行ステップ
ターゲットとアプローチ対象の設定
インサイドセールスの実行段階では、最初にアプローチすべきターゲットを具体的に定めます。手当たり次第に架電しても効果は上がりません。
まず、自社の商材に対してニーズがある可能性の高い企業の特徴を洗い出しましょう。過去の受注実績から、業種、企業規模、抱えている課題などの共通点を分析します。この分析結果をもとに、優先的にアプローチすべきターゲット像を明確化します。
次に、具体的なアプローチ対象を決定します。Webサイトで資料をダウンロードした見込み顧客、セミナーや展示会に参加した企業、問い合わせフォームから連絡があった担当者など、接点のあった見込み顧客をリスト化します。
それぞれの見込み顧客の状態や温度感に応じて、アプローチの優先順位をつけることが重要です。問い合わせ直後の見込み顧客は購買意欲が高い可能性があるため、迅速な対応が求められます。
KPIの設定と測定方法
インサイドセールスの成果を測定するため、適切なKPIを設定します。立ち上げ初期段階では、量を重視したKPI設定が効果的です。
代表的なKPIとして、架電数、応答率、商談化数、商談化率などがあります。例えば、一人あたり一日50件の架電、応答率30%、月間20件の商談化といった具体的な数値目標を設定しましょう。
重要なのは、最終的な成果だけでなく、プロセスごとの指標も設定することです。架電数が足りなければ商談化数も増えません。どの段階に課題があるのかを特定できるよう、プロセス全体を可視化できるKPI設計が必要です。
また、見込み顧客の獲得経路ごとにKPIを分けることも有効です。セミナー参加者と資料ダウンロード者では温度感が異なるため、それぞれに適した目標値を設定することで、より正確な効果測定が可能になります。
トークスクリプトとツールの準備
実際の営業活動に必要なトークスクリプトとツールを準備します。
トークスクリプトは、架電時の会話の流れを標準化するための台本です。挨拶から始まり、担当者の特定、ヒアリング項目、商談打診までの一連の流れを整理します。ヒアリング項目としては、予算、決裁権者、ニーズ、導入時期といったBANT情報を確認できる質問を盛り込みましょう。
ただし、完璧なスクリプトを最初から作る必要はありません。まずは基本的な流れを作成し、実際の運用の中で得られた知見をもとに継続的に改善していく姿勢が大切です。
ツールについては、見込み顧客情報を管理するCRMやSFA、マーケティング活動と連携するMAなどの導入を検討します。スタートアップの場合、すべてのツールを一度に揃えるのではなく、最も必要性の高いものから段階的に導入することをおすすめします。部門間での情報共有を円滑にするため、少なくとも顧客情報を一元管理できる仕組みは早期に整えましょう。
スタートアップならではの立ち上げ成功ポイント
少人数でのスモールスタート
スタートアップがインサイドセールスを立ち上げる際、最初から大規模な体制を構築する必要はありません。むしろ、2〜3名の少人数でスタートすることが成功への近道です。
少人数でスタートするメリットは、PDCAサイクルを素早く回せることにあります。日々の架電で得られた反応や課題をすぐにチーム内で共有し、トークスクリプトやアプローチ方法を柔軟に改善できます。大人数で始めると、方針変更や軌道修正に時間がかかり、失敗のリスクも高まります。
また、初期段階では成果が出るまでに時間がかかることも想定されます。少人数であれば初期投資を抑えられ、効果を検証しながら段階的に人員を増やしていくことが可能です。
成功の手応えを感じられるようになってから、次のフェーズとして人員増強を検討しましょう。この段階的なアプローチにより、確実性の高い組織拡大が実現できます。
経営層のコミットメント確保
スタートアップでインサイドセールスを成功させるには、経営層の強いコミットメントが不可欠です。
インサイドセールスは従来の営業文化を大きく変える取り組みであり、組織全体の理解と協力が必要です。現場だけで進めようとすると、他部門から必要性を疑問視されたり、リソース確保が難航したりする可能性があります。
経営層がインサイドセールス導入の意義を明確に発信し、トップダウンで推進することで、組織全体が同じ方向を向いて取り組めます。定期的なミーティングへの参加、進捗状況の把握、課題解決への積極的な関与など、経営層が現場に伴走する姿勢を示すことが重要です。
また、インサイドセールスは成果が出るまでに時間がかかります。短期的な数字だけで判断せず、中長期的な視点で取り組みを支援する経営判断が求められます。
既存メンバーの活用と育成
スタートアップでは、新規採用よりも既存メンバーの配置転換でインサイドセールスチームを構成することが現実的な選択肢となります。
既存メンバーを活用する最大のメリットは、自社の商材やサービスを深く理解している点です。特に無形商材や技術的な説明が必要な商材の場合、商品知識のあるメンバーが対応することで、見込み顧客との会話がスムーズに進みます。
営業部門やマーケティング部門から適性のあるメンバーをアサインし、インサイドセールスとしてのスキルを育成していく方法が効果的です。コミュニケーション能力が高く、情報共有を正確にできる人材が向いています。
育成面では、実際の架電内容を定期的に確認し、フィードバックを行う仕組みを作りましょう。先輩メンバーの架電に同席するシャドーイングも、早期の立ち上がりに有効な手法です。継続的な育成により、チーム全体のスキルレベルを底上げできます。
立ち上げ後の運用で注意すべきこと
他部門との連携強化
インサイドセールスの効果を最大化するには、マーケティング部門とフィールドセールス部門との密接な連携が欠かせません。
まず、定期的な情報共有の場を設けましょう。週次や月次のミーティングで、商談化の状況、見込み顧客からのフィードバック、各部門が抱える課題などを共有します。この場で認識のズレや業務プロセスの問題点を早期に発見し、改善につなげることができます。
特に重要なのが、フィールドセールスとの連携です。インサイドセールスが引き継いだ案件について、商談結果や受注の可否をフィードバックしてもらう仕組みを作りましょう。どのような見込み顧客が受注につながったのかを分析することで、商談化の基準を継続的に改善できます。
また、MAやSFAなどのツールを活用し、部門間での顧客情報をリアルタイムで共有できる環境を整えることも重要です。情報の分断を防ぎ、営業プロセス全体を横串で把握できる状態を維持しましょう。
継続的なPDCAサイクルの実施
インサイドセールスの立ち上げ後は、継続的な改善活動が成果を左右します。
日々の活動を細かくトラッキングし、数値をもとに改善策を検討する習慣をつけましょう。架電数、応答率、商談化率などのKPIを毎日確認し、目標に対する進捗を可視化します。数値が目標に届いていない場合は、どの段階に課題があるのかを特定し、具体的な改善アクションを決定します。
トークスクリプトも定期的に見直しが必要です。実際の架電で得られた顧客の反応や質問内容をもとに、より効果的な会話の流れに修正していきます。どの部分で顧客の関心が高まったのか、どの質問で離脱されたのかを分析し、スクリプトに反映させましょう。
架電内容の録音やモニタリングも有効な手段です。担当者がトークスクリプト通りに会話できているか、顧客に適切な対応ができているかを確認し、個別のフィードバックを行うことで、チーム全体のレベルアップが図れます。
モチベーション維持の仕組み作り
インサイドセールスの業務は、日々多くの架電を繰り返す地道な作業が中心となるため、担当者のモチベーション維持が課題になりやすい特徴があります。
成果を可視化し、正当に評価する仕組みを作りましょう。個人やチームの達成状況をダッシュボードで共有したり、目標達成時にインセンティブを設定したりすることで、モチベーションを高められます。短期的な目標と中長期的な目標を組み合わせ、達成感を感じられる機会を増やすことが大切です。
また、担当者同士で成功事例を共有する場を設けることも効果的です。どのようなアプローチで商談化できたのか、顧客からどのような反応があったのかを共有することで、チーム全体のスキル向上とモチベーション維持につながります。
定期的に架電数を競うコンテストを開催するなど、楽しみながら活動量を増やせる工夫も取り入れましょう。チーム全体で盛り上げることで、単調になりがちな業務に変化をつけることができます。
よくある失敗パターンと回避策
目的が曖昧なまま立ち上げてしまう
インサイドセールス導入の失敗で最も多いのが、目的を明確にしないままスタートしてしまうケースです。
他社の成功事例を見て「自社でも導入すべきだ」と考え、具体的な課題解決のビジョンがないまま立ち上げると、インサイドセールスがテレアポ部隊のような位置づけになってしまいます。ただアポイント数を追うだけの活動では、本来の価値である見込み顧客との関係構築や最適なタイミングでのアプローチができません。
回避策として、立ち上げ前に必ず自社の営業課題を具体的に洗い出しましょう。見込み顧客のフォローが追いついていない、商談までのリードタイムが長すぎる、営業担当者の訪問効率が悪いなど、解決したい課題を明確にします。その上で、インサイドセールスがどのような役割を果たすべきかを定義し、関係者全員で共有することが重要です。
目的が明確であれば、日々の活動に迷いが生じず、担当者のモチベーション維持にもつながります。
ターゲット設定を誤る
適切なターゲット設定ができていないことも、よくある失敗パターンです。
ニーズの少ない市場にアプローチしたり、自社商材とのミスマッチがある企業を対象にしたりすると、どれだけ架電数を増やしても成果は上がりません。過去の成功事例だけを参考にターゲットを決めてしまい、実際にはニーズが少なかったというケースも見られます。
回避策として、まず既存の受注実績を詳しく分析しましょう。受注に至った企業の業種、規模、抱えていた課題、導入のきっかけなどを洗い出し、共通点を見つけます。この分析結果をもとに、ニーズが高い可能性のあるターゲット像を具体的に描きます。
また、立ち上げ初期は小規模なテストを実施し、想定したターゲットが本当に適切かを検証することも重要です。反応が悪ければ、ターゲット設定を見直し、より効果的なアプローチ先を見つけていきましょう。
部門間の役割分担が不明確
マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの役割分担が曖昧なまま運用を始めると、部門間で認識のズレが生じ、効率的な営業活動ができなくなります。
よくあるのが、インサイドセールスとフィールドセールスの間での「案件の質」に関する認識の違いです。インサイドセールスが商談化の基準を満たしていると判断して引き継いだ案件を、フィールドセールスが「受注見込みが薄い」と感じるケースが頻発します。この状態が続くと、部門間の関係が悪化し、組織全体の生産性が低下します。
回避策として、各部門の業務範囲と引き継ぎ基準を明確に定義しましょう。例えば、「BANTの4項目のうち3つ以上を確認できた時点でフィールドセールスに引き継ぐ」といった具体的なルールを設定します。
また、定期的なミーティングで実際の案件について振り返り、基準が適切かを検証することも大切です。引き継ぎ後の受注率を分析し、必要に応じて基準を調整していく柔軟な姿勢が求められます。
まとめ
インサイドセールスの立ち上げは、目的の明確化と周到な準備が成功の鍵を握ります。スタートアップでは限られたリソースの中で成果を出す必要があるため、少人数でのスモールスタートから始め、PDCAサイクルを素早く回すことが重要です。ターゲット設定、KPI設計、トークスクリプト作成といった実行ステップを着実に進め、経営層のコミットメントを確保しながら組織全体で取り組む体制を構築しましょう。立ち上げ後も、他部門との連携強化や継続的な改善活動を怠らず、担当者のモチベーション維持にも配慮することが大切です。目的を見失わず、部門間の役割分担を明確にすることで、よくある失敗を回避できます。本記事で紹介した実践ロードマップを参考に、自社に最適なインサイドセールス組織を構築してください。
本記事が参考になれば幸いです。

