アジャイル開発とは?スタートアップの成長を加速する開発手法を解説

この記事でわかること
  • アジャイル開発とは?
  • アジャイル開発がスタートアップに適している理由
  • アジャイル開発とウォーターフォール開発の違い
  • スタートアップが実践すべきアジャイル開発の手法
  • アジャイル開発のメリット・デメリット

アジャイル開発は、変化に素早く対応しながらプロダクトを進化させる開発手法として、多くのスタートアップに採用されています。限られたリソースで最大の成果を生み出し、市場の反応を見ながら柔軟に軌道修正できる点が、不確実性の高い環境で戦うスタートアップにとって大きな武器となります。

本記事では、アジャイル開発の基本から具体的な手法、メリット・デメリット、そして成功させるためのポイントまで、スタートアップが知るべき情報を網羅的に解説します。これからプロダクト開発に取り組む方は、ぜひ参考にしてください。

目次

アジャイル開発とは?

アジャイル開発の基本概念

アジャイル開発とは、システムやソフトウェアの開発において、計画から設計、実装、テストといった工程を小さなサイクルで繰り返しながら進めていく開発手法です。アジャイル(Agile)は「素早い」「機敏な」という意味を持ち、その名の通り、変化に柔軟かつスピーディに対応できることが最大の特徴となっています。

従来の開発手法では、プロジェクト開始時にすべての要件を固めてから開発に着手していました。しかしアジャイル開発では、優先度の高い機能から順に開発を進め、短期間でリリースとフィードバックを繰り返すことで、プロダクトの価値を最大化していきます。

アジャイルソフトウェア開発宣言

アジャイル開発は、2001年に17名の技術者やプログラマーによって提唱された「アジャイルソフトウェア開発宣言」から始まりました。この宣言では、より良い開発を実現するための4つの価値観が定義されています。

第一に、プロセスやツールよりも個人との対話を重視します。第二に、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを優先します。第三に、契約交渉よりも顧客との協調を大切にします。そして第四に、計画に従うことよりも変化への対応を重んじます。

これらの価値観は、変化が激しく不確実性の高い現代のビジネス環境において、顧客に価値を提供し続けるための指針となっています。スタートアップにとって、市場の変化やユーザーニーズに素早く対応できるアジャイル開発の考え方は、成長を加速させる重要な要素といえるでしょう。

アジャイル開発がスタートアップに適している理由

限られたリソースで最大の成果を生み出せる

スタートアップは資金や人材、時間といったリソースが限られています。アジャイル開発では、優先度の高い機能から順に開発を進めるため、限られたリソースを最も重要な価値創造に集中させることができます。すべての機能を一度に開発する必要がないため、初期投資を抑えながら市場に参入できる点は、資金繰りが厳しいスタートアップにとって大きなメリットとなります。

また、短いサイクルで開発を繰り返すことで、無駄な機能開発を避け、本当にユーザーが求める価値に絞り込むことが可能です。

市場の変化に素早く対応できる

スタートアップが事業を展開する市場は、競合の参入や顧客ニーズの変化が激しく、不確実性が高い環境です。アジャイル開発では、開発途中での仕様変更や機能追加に柔軟に対応できるため、市場の変化を察知した際に素早く軌道修正が可能となります。

従来の開発手法では、最初に決めた計画通りに進めることが重視されるため、途中での変更が困難でした。しかしスタートアップにとっては、計画通りに進めることよりも、変化に適応して生き残ることの方が重要です。

早期のプロダクトローンチが可能

スタートアップの成功には、いかに早く市場にプロダクトを投入し、顧客の反応を得るかが重要です。アジャイル開発では、必要最小限の機能を持つMVP(実用最小限の製品)を短期間でリリースし、ユーザーのフィードバックをもとに継続的に改善していくアプローチが取れます。

早期にローンチすることで、ユーザーの実際の反応を確認しながらプロダクトを磨き上げることができ、市場での競争優位性を確立しやすくなります。

アジャイル開発とウォーターフォール開発の違い

ウォーターフォール開発の特徴

ウォーターフォール開発は、要件定義、設計、開発、テスト、運用といった各工程を段階的に完了させていく開発手法です。滝(Waterfall)のように上から下へ一方向に流れるように進めることから、この名前が付けられました。

プロジェクト開始時に全体の機能設計や計画を細部まで決定してから開発に着手するため、予算やスケジュールの管理がしやすく、開発の進捗状況を把握しやすいというメリットがあります。一方で、開発途中での仕様変更や追加対応が困難で、変更が発生した場合には追加費用や納期の延長につながる可能性があります。

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開発プロセスの違い

アジャイル開発とウォーターフォール開発の最も大きな違いは、開発の進め方にあります。ウォーターフォール開発では、一度の大きなサイクルで全体を開発するのに対し、アジャイル開発では1週間から4週間程度の短いサイクル(イテレーション)を繰り返しながら、機能ごとに計画、設計、実装、テストを行います。

ウォーターフォール開発は前の工程が完了しないと次の工程に進めないため、リリースまでに時間がかかります。一方、アジャイル開発は優先度の高い機能から順にリリースできるため、早期に市場投入が可能です。

スタートアップにとっての選択基準

スタートアップがどちらの開発手法を選ぶかは、プロジェクトの性質によって判断すべきです。仕様が明確で変更の可能性が低いシステムや、厳格な規制対応が必要なプロジェクトではウォーターフォール開発が適しています。

しかし、市場のニーズが不確実で、ユーザーの反応を見ながら改善を重ねたい場合には、アジャイル開発が有効です。実際には、両手法の良い部分を組み合わせたハイブリッド開発を採用するケースも増えています。

スタートアップが実践すべきアジャイル開発の手法

スクラム

スクラムは、アジャイル開発の中で最も広く使われている手法で、チームで効率的に開発を進めるためのフレームワークです。ラグビーのスクラムが語源となっており、チームが一丸となって開発を進めることを重視しています。

スクラムでは、1週間から4週間の短い期間(スプリント)で開発サイクルを回し、各スプリントで計画立案、実装、テスト、レビューを行います。プロダクトの方向性を決める「プロダクトオーナー」、進捗管理を主導する「スクラムマスター」、実際の開発を担う「開発者」という明確な役割分担があり、少人数のスタートアップでも実践しやすい手法です。

カンバン

カンバンは、ボード上でプロジェクトの進捗を視覚的に管理する手法です。「未着手」「進行中」「完了」といった列を用意し、各タスクをカードや付箋で表現して移動させることで、チーム全体の作業状況を一目で把握できます。

スタートアップのような小規模チームでは、メンバー全員が現在の状況を共有することが重要です。カンバンボードを使うことで、誰が何に取り組んでいるか、どこにボトルネックがあるかが明確になり、コミュニケーションの活性化にもつながります。物理的なホワイトボードでも、デジタルツールでも実践可能です。

エクストリーム・プログラミング(XP)

エクストリーム・プログラミングは、開発途中の仕様変更や機能追加に柔軟に対応することを重視した、プログラマー中心の開発手法です。最初の設計は必要最小限に留め、頻繁にテストを行いながら顧客からのフィードバックを即座に反映していきます。

この手法では、「コミュニケーション」「シンプル」「フィードバック」「勇気」という4つの価値をチーム内で共有することが特徴です。特に技術面を重視するスタートアップや、頻繁に仕様が変わる可能性のあるプロダクト開発に適しています。

アジャイル開発のメリット・デメリット

アジャイル開発のメリット

アジャイル開発の最大のメリットは、仕様変更や機能追加に柔軟に対応できることです。短いサイクルで開発を進めるため、各イテレーションで成果物が生まれ、それをもとにすぐに機能追加や優先順位の変更が可能となります。スタートアップにとって、ユーザーの反応を見ながら素早く軌道修正できる点は大きな強みです。

開発スピードが速い点も重要なメリットです。包括的なドキュメント作成よりも、実際に動くプロダクトを作ることに重点を置くため、従来の開発手法と比較して全体的な開発期間を短縮できます。また、仕様変更時の手戻りも少なく、効率的に開発を進められます。

顧客やユーザーのニーズを素早く反映できる点も見逃せません。開発チームに顧客も参画し、テスト時に実際の機能や使用感を都度確認できるため、要求との相違を早期に発見し修正対応が可能です。結果として、ユーザーにとって価値の高いプロダクトを作り上げることができます。

アジャイル開発のデメリット

アジャイル開発では、イテレーションごとに詳細なスケジュールを定めていくため、プロジェクト全体のスケジュールをコントロールするのが難しい場合があります。スタートアップでは資金調達や事業計画との兼ね合いもあるため、全体の見通しが立てにくい点は注意が必要です。

また、顧客のニーズを重視するあまり、開発の方向性が定まらず迷走してしまうリスクも存在します。次々と機能追加や変更を行った結果、当初の目的から大きく外れてしまうケースもあります。

コミュニケーションコストがかかる点もデメリットです。イテレーションごとにステークホルダーからフィードバックを得る必要があり、頻繁な情報共有のための時間を確保しなければなりません。少人数で運営するスタートアップでは、この時間的負担が大きくなる可能性があります。

スタートアップがアジャイル開発を成功させるポイント

明確なプロダクトビジョンを持つ

アジャイル開発は柔軟性が高い反面、方向性を見失いやすいという特徴があります。スタートアップが成功するためには、最初に明確なプロダクトビジョンを定め、チーム全体で共有することが不可欠です。

ビジョンが明確であれば、イテレーションごとの優先順位付けや仕様変更の判断において、常に「このプロダクトが目指すべき価値は何か」という軸で意思決定ができます。ユーザーからの要望や市場の変化に対応しながらも、本質的な価値提供からブレない開発を実現できます。

チーム内のコミュニケーションを活性化する

アジャイル開発では、チームメンバー間の密なコミュニケーションが成功のポイントとなります。スタートアップの規模であれば、毎日短時間のミーティングを実施し、各メンバーの進捗状況や課題を共有することが効果的です。

対面でのコミュニケーションが難しい場合でも、チャットツールやオンラインミーティングを活用して、常に情報の透明性を保つことが重要です。問題が発生した際に迅速に共有し、チーム全体で解決策を考える文化を醸成することで、開発スピードと品質の両立が可能となります。

適切なツールを活用する

アジャイル開発を効率的に進めるためには、プロジェクト管理ツールの活用が欠かせません。タスクの進捗状況や優先順位を可視化できるツールを導入することで、チーム全体の状況把握が容易になります。

限られたリソースで運営するスタートアップにとって、無料で使えるツールや小規模チーム向けのプランを提供しているサービスを選ぶことが現実的です。ツール選びの際は、機能の豊富さよりも、チームメンバー全員が使いこなせるシンプルさを重視しましょう。定期的な振り返りの機会を設け、ツールの使い方や開発プロセス自体を改善し続ける姿勢も、アジャイル開発の成功には重要な要素となります。

アジャイル開発の導入ステップ

ステップ1:取り組むテーマと優先順位の決定

アジャイル開発を始める際は、まず開発すべきテーマや機能を洗い出し、優先順位を明確にします。スタートアップでは、すべての機能を一度に開発するリソースはないため、事業への貢献度やユーザーにとっての価値を基準に優先順位を付けることが重要です。

最も優先度の高いテーマから着手することで、限られた資金や時間を最大限に活用できます。この段階で、各テーマがどのようにビジネス目標に貢献するかを明確にしておくと、後の意思決定がスムーズになります。

ステップ2:開発チームの結成と役割分担

次に、プロジェクトに携わるメンバーを集め、それぞれの役割と責任を明確にします。スタートアップの小規模チームでは、一人が複数の役割を兼務することも珍しくありませんが、少なくとも「プロダクトの方向性を決定する役割」「進捗管理をする役割」「実際に開発する役割」を意識的に分担することが大切です。

役割が明確になることで、各メンバーが自身の責任範囲を理解し、主体的に行動できるようになります。また、チーム内のコミュニケーションルールや使用するツールについても、この段階で合意形成しておきましょう。

ステップ3:全体スケジュールの作成とイテレーション開始

プロジェクト全体を短いスパン(1週間から4週間程度)で実施できる範囲に切り分け、リスト化します。各イテレーションでは、計画、設計、実装、テスト、リリースというサイクルを回し、必ず何らかの成果物を生み出すことを目指します。

最初のイテレーションを完了したら、チーム全体で振り返りを実施し、良かった点や改善すべき点を共有します。この振り返りから得られた学びを次のイテレーションに活かすことで、開発プロセス自体を継続的に改善できます。スタートアップでは、この柔軟な改善サイクルこそが成長の原動力となります。

まとめ

アジャイル開発は、短いサイクルで開発とフィードバックを繰り返しながら、変化に柔軟に対応できる開発手法です。スタートアップにとっては、限られたリソースで最大の価値を生み出し、市場の変化に素早く適応できる点が大きなメリットとなります。スクラムやカンバンといった具体的な手法を活用しながら、明確なプロダクトビジョンを持ち、チーム内のコミュニケーションを活性化させることが成功の鍵です。全体のスケジュール管理が難しい、方向性が迷走しやすいといったデメリットもありますが、適切なツールの活用と定期的な振り返りによって克服できます。まずは小さく始めて、自社に最適な開発プロセスを見つけていきましょう。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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