- ABMとは?
- スタートアップがABMに取り組むメリットとデメリット
- ABMの実践ステップ 少人数でも始められる進め方
- スタートアップにおけるABM成功のポイント
- ABMの実践に役立つツールと選び方
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、自社にとって価値の高い特定企業に絞ってアプローチする営業手法です。限られた人員や予算で効率的に成果を上げられるため、スタートアップにとって非常に有効な戦略といえます。
本記事では、ABMの基本概念から具体的な実践ステップ、成功のポイント、ツール選定まで、少人数でも始められる方法を詳しく解説します。
ABMとは?
ABMの定義と基本概念
ABM(Account Based Marketing/アカウントベースドマーケティング)とは、自社にとって価値の高い特定企業をターゲットとして選定し、その企業に対して最適化されたマーケティング施策を展開する手法です。従来のように広く見込み顧客を集めるのではなく、最初から狙うべき企業を絞り込み、個別のアプローチを行うことで効率的に成果を上げることを目指します。
スタートアップにとってABMは、限られた人員や予算を最も効果が見込める企業に集中投下できる点で非常に有効です。一社あたりの契約単価が高い商材や、複数の意思決定者が関与するBtoBサービスを提供する企業において、特にその効果を発揮します。
従来のマーケティング手法との違い
従来のリードベースドマーケティングでは、幅広い見込み顧客を集め、育成しながら徐々に絞り込んでいく「広く浅く」のアプローチが基本でした。一方ABMは「狭く深く」を重視し、最初からターゲット企業を特定したうえで、企業ごとにカスタマイズされた施策を展開します。
またデマンドジェネレーションがマーケティング部門主導で進められるのに対し、ABMでは営業とマーケティングが共通のゴールを持って連携することが前提となります。この一体化したアプローチにより、組織全体で効率的に成果を追求できる体制が構築されます。

スタートアップでABMが注目される背景
スタートアップでABMが注目される背景には、リソースの効率化とLTV最大化の必要性があります。少人数の組織では、すべての見込み顧客に均等にアプローチすることは現実的ではありません。そのため、本当に成果につながる企業に経営資源を集中させるABMの考え方が、スタートアップの成長戦略として適しているのです。
またSaaSをはじめとするサブスクリプションモデルの普及により、単発の受注だけでなく継続的な関係構築が重視されるようになったことも、ABMが注目される理由のひとつです。
スタートアップがABMに取り組むメリットとデメリット
限られたリソースで成果を最大化できる理由
スタートアップがABMに取り組む最大のメリットは、少ない人員と予算で高い成果を狙える点です。ターゲット企業を事前に絞り込むことで、マーケティング施策や営業活動を本当に成果につながる相手に集中できます。広告費や営業工数を分散させることなく、受注確度の高い企業へ重点的にアプローチできるため、投資対効果が向上します。
また、営業とマーケティングが共通のターゲットを持つことで、組織間の連携がスムーズになります。情報共有や施策の方向性が統一されるため、少人数でも一貫性のあるアプローチが可能です。さらに、ターゲット企業のニーズに合わせた提案を行うことで商談化率が高まり、結果として短期間での成果創出が期待できます。
加えて、ABMは既存顧客との関係深化にも有効です。アップセルやクロスセルの機会を創出しやすく、顧客生涯価値の最大化を目指せます。新規顧客獲得だけでなく既存顧客からの売上拡大も視野に入れられる点は、持続的成長を目指すスタートアップにとって重要なメリットです。
ABM導入によるリスクと注意点
一方で、ABMにはデメリットも存在します。最も大きな課題は、ターゲット選定と個別施策の設計に時間と労力がかかる点です。企業ごとに調査や戦略立案が必要となるため、初期段階では通常のマーケティング施策よりも工数がかかります。
また、複数の商材やサービスを持たない場合、同じ企業へのアプローチが限定的になり、LTV最大化の効果が十分に発揮できない可能性があります。単一商材のみを扱うスタートアップでは、ABMのメリットを活かしきれないケースもあるでしょう。
さらに、ターゲット企業を絞り込むという性質上、1社あたりの売上規模がある程度大きくなければ投資に見合う成果が得られません。小規模取引が中心のビジネスモデルでは、ABMの効果が限定的になる恐れがあります。自社の商材特性や顧客規模を見極めたうえで、ABMが本当に適した手法かを慎重に判断することが重要です。
ABMの実践ステップ 少人数でも始められる進め方
ターゲットアカウントの選定方法
ABMの第一歩は、自社にとって価値の高い企業を見極めることです。営業部門とマーケティング部門が連携し、既存の優良顧客や過去の受注実績を分析しながら、ターゲットとなる企業の条件を明確にしていきます。
具体的には、企業規模や業種、売上高といった基本情報に加え、自社製品との親和性や経営課題との適合性を評価します。LTVが高い既存顧客に類似した特徴を持つ企業や、アップセル・クロスセルの可能性がある企業を優先的に選定しましょう。スタートアップの場合は、最初から多くの企業を対象とせず、5〜10社程度の重点アカウントに絞ることで、少人数でも質の高いアプローチが可能になります。
次に、選定した企業内のキーパーソンを特定します。意思決定に関わる役職者や部門責任者を把握し、企業のWebサイトやSNS、プレスリリースなどから情報を収集しておくことが、効果的なアプローチの基盤となります。
アプローチ戦略の立案から実行まで
ターゲット企業が決まったら、企業ごとの課題やニーズに合わせたアプローチ戦略を設計します。画一的な施策ではなく、相手企業の業界特性や抱えている課題に応じて、提供するコンテンツやメッセージをカスタマイズすることが重要です。
アプローチチャネルは、メールや電話だけでなく、ウェビナーやホワイトペーパー、専用のランディングページなど、複数の接点を組み合わせて活用します。キーパーソンの行動パターンに合わせたタイミングで情報を届けることで、関心を引きやすくなります。
少人数で運用する場合は、MAツールなどを活用して効率化を図ることも有効です。メール配信の自動化や行動履歴の追跡により、手作業を減らしながら個別対応の質を保つことができます。
効果測定と改善の仕組み
施策を実行したら、必ず効果測定を行い改善につなげます。Webサイトへのアクセス数や資料ダウンロード数、商談化率、受注率といったKPIを設定し、定期的にモニタリングします。
期待した成果が得られない場合は、コンテンツの内容やチャネルの選定、配信タイミングを見直し、PDCAサイクルを回していきます。ABMは継続的な改善プロセスであり、一度の施策で完結するものではありません。営業とマーケティングが定期的に情報共有し、ターゲット企業との関係性を深めながら成果を積み上げていくことが成功の鍵となります。
スタートアップにおけるABM成功のポイント
営業とマーケティングの連携を実現する体制づくり
ABMを成功させる最大のポイントは、営業とマーケティングが一体となって取り組む体制を構築することです。多くの企業では両部門が異なる目標を持ち、情報共有が不十分なために施策にズレが生じがちです。しかしABMでは、共通のターゲットアカウントに対して連携してアプローチすることが前提となります。
まず、両部門で共通のKPIを設定し、同じゴールを目指せる環境を整えましょう。たとえば、ターゲット企業からの商談化数やアカウントごとのエンゲージメント指標を共有することで、方向性を統一できます。定期的なミーティングを設け、進捗状況や課題を共有する場を作ることも有効です。
少人数のスタートアップでは、組織の壁が低く連携しやすい利点があります。この強みを活かし、営業が得た顧客情報をマーケティングに即座にフィードバックする、マーケティングが発見した見込みの高いリードを営業にスムーズに引き継ぐといった、迅速な情報連携の仕組みを作りましょう。
データ活用とツール選定の考え方
ABMではターゲット企業の行動データや属性情報を正確に把握し、適切なタイミングでアプローチすることが重要です。そのためには、顧客データを一元管理し分析できる環境が必要となります。
スタートアップがツールを選定する際は、機能の豊富さよりも使いやすさとコストパフォーマンスを重視しましょう。高額で多機能なツールを導入しても、使いこなせなければ意味がありません。自社の課題や目的に直結する機能を持ち、少人数でも運用できるシンプルなツールから始めることをおすすめします。
また、既存の営業管理システムやメール配信ツールとの連携も考慮すべきポイントです。データが分散していると分析や共有に手間がかかるため、できるだけシステム間の連携がスムーズなツールを選びましょう。段階的に導入し、運用に慣れてから必要に応じて機能を拡張していく方法が、スタートアップには適しています。
長期的な関係構築とLTV最大化の視点
ABMは短期的な受注だけを目的とするのではなく、ターゲット企業との長期的な関係を築くことを前提としています。受注後も継続的なコミュニケーションを行い、顧客満足度を高めながら、アップセルやクロスセルの機会を創出していくことがLTV最大化につながります。
そのためには、受注後のフォロー体制も設計段階から組み込んでおく必要があります。定期的な情報提供や課題解決の支援を通じて信頼関係を深め、長期的なパートナーシップを構築する姿勢が、ABM成功の鍵となります。
ABMの実践に役立つツールと選び方
フェーズ別のツール活用法
ABMの実践では、各フェーズに応じて適切なツールを活用することで効率を高められます。フェーズは大きく「ターゲット選定・育成」「商談」「顧客維持」の3つに分けられ、それぞれで求められる機能が異なります。
ターゲット選定・育成フェーズでは、ABMツールとMAツールの組み合わせが有効です。ABMツールは企業データベースを活用してターゲット企業を効率的に選定し、属性情報を統合管理します。MAツールはメール配信やWebサイト上の行動追跡を自動化し、見込み度合いに応じたアプローチを実現します。ターゲット企業の従業員の行動を可視化することで、最適なタイミングでの接触が可能になります。
商談フェーズでは、SFAツールが営業活動の進捗管理や案件のステータス把握に役立ちます。商談内容やアクション履歴を記録し、チーム全体で情報共有することで、効率的な営業推進が実現します。
顧客維持フェーズでは、CRMツールが顧客情報の一元管理と関係深化を支援します。利用状況やサポート履歴を把握し、解約リスクの早期発見やアップセル・クロスセルの機会創出につなげられます。
スタートアップに適したツール選定基準
スタートアップがツールを選定する際は、いくつかの重要な基準があります。まず、使いやすさを最優先しましょう。複雑な操作が必要なツールは、少人数の組織では使いこなせず形骸化するリスクがあります。直感的に操作できるシンプルな設計のツールを選ぶことが成功の第一歩です。
次に、コストパフォーマンスも重要な判断基準となります。初期費用や月額料金だけでなく、運用にかかる工数や学習コストも含めて総合的に評価しましょう。無料プランやトライアル期間を活用し、実際に使ってから導入を決めることをおすすめします。
既存システムとの連携性も見逃せないポイントです。すでに使用している営業管理ツールやメール配信システムとスムーズに連携できるかを確認しましょう。データが分散していると管理が煩雑になり、ABMの効果が半減してしまいます。
最後に、サポート体制の充実度も確認が必要です。導入後のトレーニングや問題発生時の対応が手厚いベンダーを選ぶことで、少人数でも安心して運用できます。すべての機能を一度に導入するのではなく、自社の課題解決に直結する領域から段階的に導入し、必要に応じて拡張していくアプローチが、スタートアップには最適です。
限られたリソースでABMを成功させるために
小さく始めて段階的に拡大する
スタートアップがABMを成功させるためには、最初から完璧を目指すのではなく、小規模から始めて徐々に拡大していくアプローチが重要です。まずは5〜10社程度の重点アカウントに絞り、集中的にアプローチすることで、少人数でも質の高い施策を実行できます。
初期段階では、すべてのツールを一度に導入する必要はありません。既存の営業管理方法やメール配信ツールを活用しながら、ABMの基本プロセスを確立することを優先しましょう。成果が見えてきた段階で、必要な機能を持つツールを段階的に導入していくことで、コストを抑えながら効果的な運用が可能になります。
また、すべてのターゲット企業に同じレベルのリソースを投下するのではなく、優先度に応じて段階的なアプローチを取ることも有効です。最も成果が見込める企業には手厚く対応し、次点の企業には効率化された施策を適用するなど、メリハリをつけることで限られたリソースを最大限に活用できます。
継続的な改善と組織全体のコミットメント
ABMは一度の施策で完結するものではなく、継続的な改善を重ねながら成果を積み上げていくプロセスです。定期的に効果測定を行い、うまくいった施策は横展開し、成果が出なかった部分は改善していくPDCAサイクルを回すことが不可欠です。
効果測定では、商談化率や受注率といった最終的な成果指標だけでなく、Webサイトへのアクセス数やメール開封率、資料ダウンロード数などの中間指標も設定しましょう。小さな成功を可視化することで、チームのモチベーション維持にもつながります。
また、ABMの成功には組織全体のコミットメントが必要です。経営層がABMの重要性を理解し、営業とマーケティングが共通の目標に向かって取り組める環境を整えることが重要となります。スタートアップの強みである意思決定のスピードと組織の柔軟性を活かし、迅速に方針を調整しながら進めていきましょう。
さらに、ABMは短期的な成果だけでなく、中長期的な顧客関係の構築を前提としています。すぐに結果が出なくても焦らず、ターゲット企業との信頼関係を丁寧に築いていく姿勢が大切です。少人数だからこそできる細やかな対応と、継続的なコミュニケーションを通じて、顧客との強固な関係を構築していくことが、ABM成功の鍵となります。
自社の商材特性やターゲット企業の規模を見極め、本当にABMが適した手法かを判断したうえで、段階的かつ戦略的に取り組んでいくことで、限られたリソースでも大きな成果を生み出すことができるでしょう。
まとめ
ABMは、限られたリソースで最大の成果を目指すスタートアップにとって、効率的な営業・マーケティング戦略です。特定のターゲット企業に集中してアプローチすることで、少ない人員でも高い投資対効果を実現できます。成功のポイントは、営業とマーケティングの連携、適切なデータ活用、そして段階的な取り組みです。最初から完璧を目指すのではなく、小規模から始めて継続的に改善を重ねることで、持続的な成果につながります。自社の商材特性やターゲット企業の規模を見極めたうえで、戦略的にABMを実践し、長期的な顧客関係の構築とLTV最大化を目指しましょう。
本記事が参考になれば幸いです。

