- パーパスとは?
- なぜスタートアップにパーパスが必要なのか
- パーパスとミッション・ビジョン・バリューの違い
- スタートアップがパーパスを策定する3つのメリット
- スタートアップのためのパーパス策定ステップ
パーパス(Purpose)とは、企業の存在意義や社会的意義を示す概念です。近年、資金調達や人材採用の場面でパーパスの重要性が高まっており、特にスタートアップにとっては成長を加速させる重要な要素となっています。
本記事では、パーパスの基本的な意味から、スタートアップがパーパスを策定するメリット、具体的な策定ステップ、そして避けるべき落とし穴まで、実践的な内容を解説します。限られたリソースの中で最大の効果を生み出すパーパス策定の方法を学び、持続可能な成長を実現しましょう。
パーパスとは?
パーパスの定義と本質的な意味
パーパス(Purpose)とは、企業の存在意義や社会的意義を意味する言葉です。単なる「目的」や「目標」ではなく、「なぜこの会社が社会に存在する必要があるのか」という根源的な問いに対する答えを示すものです。
ビジネスの文脈では、自社が何を目的として存在し、どのような価値を社会に提供するのかを明文化したものがパーパスとなります。
パーパスが重視される時代背景
パーパスが注目されるようになった背景には、企業に求められる価値観の大きな変化があります。2015年の国連サミットでSDGsが採択されて以来、企業は経済的発展だけでなく、社会的責任を果たすことが強く求められるようになりました。
また、投資家の評価基準も変化しています。ESG投資の広がりにより、財務指標だけでなく環境・社会・ガバナンスへの取り組みが重視されるようになりました。世界最大の資産運用会社ブラックロック社のCEOが2018年にパーパスの重要性を説いたことで、パーパス経営は世界的なトレンドとなっています。
さらに、若年層の就職観も変化しています。ミレニアル世代やZ世代は、給与や待遇だけでなく、企業の社会貢献度や企業文化を重視する傾向が強まっています。優秀な人材を確保し、持続可能な成長を実現するために、パーパスの策定が企業にとって不可欠な要素となっているのです。
なぜスタートアップにパーパスが必要なのか
資金調達における差別化要素
スタートアップにとって、パーパスは資金調達の重要な武器となります。投資家は財務計画やビジネスモデルだけでなく、企業の存在意義を評価するようになっています。特にESG投資やインパクト投資を重視する投資家にとって、明確なパーパスを持つスタートアップは魅力的な投資先です。
パーパスを明確に示すことで、単なる収益追求ではなく社会課題の解決を目指す姿勢を伝えられます。これにより投資家からの信頼を獲得し、長期的な支援を得やすくなるでしょう。また、クラウドファンディングなど一般からの資金調達においても、共感を呼ぶパーパスは大きな強みとなります。
限られたリソースでの人材獲得
スタートアップは大企業と比較して、給与や福利厚生の面で不利な立場にあります。しかし、明確なパーパスがあれば、待遇面のハンディキャップを補うことができます。
優秀な人材は単に報酬だけでなく、働く意義や社会への貢献を求めています。パーパスを掲げることで、志を同じくする人材を引き寄せることが可能です。また、パーパスに共感して入社したメンバーは、困難な状況でも会社に留まり、高いパフォーマンスを発揮する傾向があります。
事業の方向性を定める羅針盤
スタートアップは限られたリソースの中で、迅速な意思決定を求められます。市場の変化や競合の動きに応じて、事業戦略を柔軟に変更する必要もあるでしょう。
このような不確実性の高い環境において、パーパスは意思決定の判断軸となります。新規事業の検討や戦略転換の際に、パーパスに立ち返ることで、ブレない方向性を保つことができます。また、チーム全体がパーパスを共有していれば、現場レベルでの迅速な判断も可能になり、組織全体の機動力が高まります。
パーパスとミッション・ビジョン・バリューの違い
それぞれの概念を整理する
パーパスとミッション・ビジョン・バリュー(MVV)は混同されやすい概念ですが、それぞれ異なる役割を持っています。これらを正しく理解することで、より効果的な経営指針を構築できます。
ミッションは企業が果たすべき使命を示すもので、「何をするのか(What)」を表します。ビジョンは企業が目指す理想の姿であり、「どこを目指すのか(Where)」を示します。バリューは企業の価値観や行動指針であり、「どのように行動するのか(How)」を表現したものです。
一方、パーパスは「なぜ社会に存在するのか(Why)」という問いへの答えです。より根源的で、社会との関わりを強く意識した概念といえます。

パーパスとミッションの関係性
パーパスとミッションは特に混同されやすい概念です。両者の最も大きな違いは、視点の置き方にあります。
ミッションは企業が主語となり、「私たちは何を成し遂げるのか」という企業視点での使命を表します。対してパーパスは、「社会にとって私たちはなぜ必要なのか」という社会視点での存在意義を示すものです。
具体的には、ミッションはパーパスを実現するための具体的な行動や目標を指しています。パーパスが変わることは稀ですが、ミッションは事業環境の変化や成長フェーズに応じて更新される場合があります。スタートアップにおいては、パーパスを軸としてミッションを設定することで、一貫性のある企業活動が可能になるでしょう。
MVVとパーパスの優先順位
これらの概念には階層構造があります。最上位にパーパスがあり、それを実現するためにMVVが存在するという関係です。
パーパスは企業の存在意義として不変の軸となり、その下にミッション(使命)、ビジョン(理想像)、バリュー(行動指針)が位置づけられます。パーパスが明確であれば、MVVの策定もスムーズに進むでしょう。スタートアップが限られた時間でこれらを整理する際は、まずパーパスを固めることで、他の要素も自然と定まっていきます。
スタートアップがパーパスを策定する3つのメリット
ステークホルダーからの信頼と共感を獲得
パーパスを明確に掲げることで、顧客や投資家、取引先などステークホルダーからの信頼を得やすくなります。社会的意義を持つ企業として認知されることで、企業価値の向上につながるでしょう。
特にスタートアップにとって重要なのは、初期段階での認知度向上です。パーパスが共感を呼べば、SNSでのシェアや口コミによる拡散が期待できます。また、メディアに取り上げられる機会も増え、ブランディング効果が生まれます。結果として、マーケティングコストを抑えながら認知拡大が可能になります。
さらに、パーパスに共感した顧客は単なる購入者ではなく、企業を応援するファンとなります。このようなロイヤルカスタマーの存在は、スタートアップの持続的成長に不可欠な要素です。

チームの一体感とエンゲージメント向上
パーパスは従業員にとって、働く意義を明確にするものです。自分の仕事が社会にどのように貢献しているのかを実感できれば、モチベーションが高まります。
スタートアップでは、長時間労働や不安定な環境など、厳しい状況に直面することも少なくありません。しかし、強いパーパスがあれば、チームメンバーは困難を乗り越える原動力を得られます。報酬や待遇以上に、働く意義そのものが従業員を支えるのです。
また、パーパスを共有することで、多様なバックグラウンドを持つメンバーが同じ方向を向いて働けます。組織としての一体感が生まれ、部門を超えた協力体制も構築しやすくなるでしょう。結果として、離職率の低下や生産性の向上といった効果も期待できます。
迅速な意思決定と戦略の一貫性
スタートアップは変化の激しい環境で、素早い意思決定が求められます。パーパスは、その判断基準となる明確な軸を提供します。
新規事業への参入や提携先の選定、プロダクト開発の方向性など、重要な決断を迫られる場面は多々あります。その際、パーパスに照らし合わせることで、迷いなく判断できるようになります。経営陣だけでなく、現場のメンバーもパーパスを理解していれば、日々の業務における小さな判断もスピーディーに行えます。
また、戦略の一貫性を保つことで、ブランドイメージも強化されます。一貫したメッセージを発信し続けることで、市場での存在感を高められるでしょう。
スタートアップのためのパーパス策定ステップ
ステップ1:創業の原点と社会課題を見つめ直す
パーパス策定の第一歩は、なぜ事業を始めたのかという創業の原点に立ち返ることです。創業者が解決したいと考えた課題や、実現したい未来について深く掘り下げましょう。
具体的には、自社が取り組む社会課題を明確にします。その課題は本当に解決すべきものなのか、自社の強みを活かして貢献できるのかを検証することが重要です。市場調査やユーザーヒアリングを通じて、社会が求めているものと自社の提供価値が一致しているか確認しましょう。
また、チームメンバーを巻き込んだ議論も効果的です。創業メンバーだけでなく、多様な視点を持つメンバーと対話することで、より深い気づきが得られます。この段階では、完璧さを求めず、率直な意見交換を重視してください。

ステップ2:パーパスステートメントを言語化する
次に、明確になったパーパスを簡潔な言葉で表現します。パーパスステートメントは、誰が読んでも理解できるシンプルさが求められます。
作成のポイントは、抽象的すぎず具体的すぎない表現を見つけることです。企業の個性が伝わり、かつ長期的に変わらない普遍性を持つ文言を目指しましょう。一文で表現できることが理想的ですが、補足説明が必要な場合は短い段落で補完します。
複数の案を作成し、チーム内で投票や議論を重ねることをおすすめします。また、外部の視点を取り入れるために、顧客や支援者にフィードバックを求めるのも有効です。言葉の響きや印象、記憶に残りやすさなども考慮して最終案を決定しましょう。
ステップ3:組織への浸透と実践
パーパスステートメントが完成したら、組織全体に浸透させる取り組みが必要です。単に発表するだけでは、形骸化してしまう恐れがあります。
まず、経営陣自らがパーパスを語り、行動で示すことが重要です。全社ミーティングや1on1の場で、日々の業務とパーパスのつながりを説明しましょう。また、採用活動や新入社員研修でパーパスを伝えることで、早期から理解を深められます。
さらに、パーパスに基づいた具体的なアクションを起こすことが欠かせません。プロダクト開発や事業戦略の決定時に、パーパスとの整合性を確認する習慣をつけましょう。定期的に振り返りの機会を設け、パーパスが実践されているかを評価することも大切です。
パーパス策定で避けるべき3つの落とし穴
落とし穴1:理想を追いすぎて実現不可能なパーパスになる
パーパスは大きな理想を語るものですが、現実離れした内容では意味がありません。自社の事業領域や強みとかけ離れたパーパスを掲げても、実践できなければ信頼を失います。
例えば、創業間もないスタートアップが「世界中のすべての社会課題を解決する」といった壮大すぎるパーパスを設定しても、具体的なアクションにつなげることは困難です。パーパスは野心的であるべきですが、自社のリソースや事業領域で実現可能な範囲を見極める必要があります。
策定時には、現在の事業だけでなく将来の拡張性も考慮しましょう。ただし、あまりに漠然としたものではなく、自社ならではの特性が反映されたパーパスを目指すことが重要です。実現可能性と理想のバランスを取ることで、チームが本気で取り組めるパーパスが完成します。
落とし穴2:パーパスウォッシュに陥る
パーパスウォッシュとは、立派なパーパスを掲げながら実際の企業活動が伴っていない状態を指します。これは企業の信頼を大きく損なう深刻な問題です。
よくあるパターンは、対外的にパーパスを発信しても、社内では利益最優先の意思決定が続いているケースです。また、パーパスと矛盾する事業展開や、社会的責任を軽視した行動は、ステークホルダーからの批判を招きます。特にSNSで情報が拡散されやすい現代では、パーパスと実態の乖離は瞬く間に知れ渡ります。
パーパスウォッシュを避けるには、策定段階から実行計画を具体化することが必要です。パーパスに基づいた行動指針を明確にし、定期的な評価と改善のサイクルを回しましょう。経営判断の際には、必ずパーパスとの整合性を確認する習慣をつけることが大切です。
落とし穴3:一度決めたら変えられないと考える
パーパスは企業の根幹となる概念ですが、絶対に変更してはいけないわけではありません。事業の成長や市場環境の変化に応じて、見直しが必要になる場合もあります。
スタートアップは事業のピボットを経験することも珍しくありません。その際、当初のパーパスが現状に合わなくなることがあります。無理に古いパーパスに固執すると、かえって組織の成長を妨げる可能性があります。
ただし、頻繁な変更は避けるべきです。パーパスの見直しは、事業の根本的な方向転換や、社会課題への理解が深まった際など、明確な理由がある場合に限定しましょう。変更する際は、ステークホルダーに丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

まとめ
パーパスは企業の存在意義を示すものであり、スタートアップにとって資金調達、人材採用、迅速な意思決定において重要な役割を果たします。ミッション・ビジョン・バリューとは異なり、「なぜ社会に存在するのか」という根源的な問いへの答えとなるものです。
パーパス策定では、創業の原点と社会課題を見つめ直し、シンプルな言葉で表現することが重要です。ただし、理想を追いすぎて実現不可能な内容にならないよう注意し、パーパスウォッシュに陥らないために実践を伴わせる必要があります。
明確なパーパスがあれば、チームの一体感が生まれ、ステークホルダーからの共感も得られます。スタートアップの持続的成長を実現するために、自社ならではのパーパスを策定し、組織全体に浸透させていきましょう。
本記事が参考になれば幸いです。

