ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは?スタートアップが知るべき策定手順と活用法

この記事でわかること
  • ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは
  • スタートアップにおけるMVVの重要性
  • MVVと類似概念の違い
  • スタートアップがMVVを策定すべきタイミング
  • MVVの策定プロセス

スタートアップの成長において、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)は組織の方向性を定め、メンバーの力を結集させる重要な経営ツールです。しかし「いつ策定すべきか」「どのように浸透させるか」といった疑問を持つ経営者も多いでしょう。

本記事では、MVVの基本的な意味から、スタートアップに特化した策定タイミング、具体的なプロセス、社内への浸透方法、そして事業成長に応じた見直しのポイントまで、実践的なノウハウを解説します。資金調達や採用、組織拡大を見据えた効果的なMVV活用法をお伝えします。

目次

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは、Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー)の頭文字を取った言葉で、企業の存在意義や目指す方向性、行動指針を体系的に示すフレームワークです。経営学者ピーター・F・ドラッカーによって提唱され、多くの企業が経営の根幹として採用しています。

ミッション:企業の社会的使命

ミッションは、企業が社会に対して果たすべき使命や存在意義を表します。「なぜこの事業を行うのか」「社会にどのような価値を提供するのか」という根本的な問いへの答えです。スタートアップにおいては、創業者の想いや解決したい社会課題が反映されることが多く、事業活動のあらゆる判断基準となります。

ビジョン:目指すべき未来像

ビジョンは、ミッションを実現した際の企業の理想像や中長期的な目標を示します。「5年後、10年後にどのような状態になっていたいか」を具体的に描くことで、組織全体が同じ方向を向いて進むことが可能になります。スタートアップでは、成長フェーズに応じてビジョンを段階的に設定するケースもあります。

バリュー:日々の行動指針

バリューは、ミッションとビジョンを達成するために、組織のメンバーが共有すべき価値観や具体的な行動基準です。「顧客第一主義」「スピード重視」「失敗を恐れない挑戦」など、日常業務における意思決定や判断の拠り所となります。複数の項目を設定することが一般的で、採用基準や評価制度にも反映されます。

MVVの相互関係

MVVは独立した要素ではなく、相互に連動する関係性を持ちます。ミッションという大きな使命を達成するためにビジョンという具体的な目標を設定し、その実現に向けてバリューという行動指針で日々の活動を方向づける構造です。この一貫性があることで、組織全体に統一感が生まれ、効果的な意思決定と行動が可能になります。

スタートアップにおけるMVVの重要性

スタートアップにとってMVVは、限られたリソースの中で急成長を遂げるための重要な経営ツールです。明確なMVVを持つことで、組織の求心力が高まり、事業の方向性がぶれることなく推進できます。

組織の意思決定を加速させる

スタートアップは日々多くの意思決定を迫られますが、MVVが明確であれば判断基準が統一され、意思決定のスピードが向上します。経営者が全ての判断を下す必要がなくなり、メンバー一人ひとりが自律的に行動できるようになります。これは変化の激しい市場環境において、競合に対する大きなアドバンテージとなります。

資金調達における説得力を高める

投資家はスタートアップの事業内容だけでなく、企業の存在意義や将来性を重視します。明確なMVVを持つことで、事業の社会的価値や成長ストーリーを説得力を持って伝えることができ、資金調達の成功確率が高まります。特にシリーズA以降の調達では、MVVに基づいた一貫性のある事業展開が評価されます。

優秀な人材の獲得と定着を実現する

知名度やブランド力に劣るスタートアップにとって、MVVは採用活動における重要な武器です。共感できるミッションやビジョンがあれば、報酬や福利厚生以上の魅力として機能し、価値観の合う優秀な人材を引きつけることができます。また入社後のミスマッチを防ぎ、エンゲージメントの高い組織づくりにもつながります。

組織拡大期の文化維持に貢献する

創業初期は少人数で価値観を共有できても、組織が拡大すると文化の希薄化が起こりがちです。MVVが明文化されていれば、新しいメンバーが増えても企業文化を維持でき、組織としての一体感を保つことができます。これにより、急成長による組織の混乱を最小限に抑えられます。

MVVと類似概念の違い

MVVと混同されやすい概念として、企業理念、経営理念、パーパス、行動指針があります。これらは企業によって定義や使い方が異なるため、それぞれの違いを理解することが重要です。

企業理念・経営理念との関係性

企業理念は、企業が社会において果たすべき存在意義を示すもので、一般的にはMVVにおけるミッションに相当します。経営者や時代が変わっても不変の価値観として位置づけられることが多く、企業の根幹となる考え方です。

一方、経営理念は企業の経営方針や目標を示すもので、ビジョンに近い概念といえます。経営環境の変化や事業方針の転換に応じて見直されることがあり、企業理念よりも柔軟性を持ちます。ただし企業によって両者の使い分けは異なり、明確な定義の違いは存在しません。

パーパスとミッションの違い

パーパスは企業の社会における存在意義や大義を示す概念で、ミッションと非常に近い意味を持ちます。両者はほぼ同義として扱われることもありますが、パーパスは「Why(なぜ存在するのか)」という問いへの答えであるのに対し、ミッションは「What(何をするのか)」という企業の主観的な行動意志を含む点で違いがあります。

近年はESG投資の広がりとともにパーパス経営が注目されており、社会課題解決への貢献という側面がより強調される傾向にあります。

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行動指針とバリューの関係

行動指針は、従業員が日々の業務で従うべき具体的な行動ルールを示すもので、MVVにおけるバリューに対応します。バリューが価値観や考え方を表すのに対し、行動指針はより実務レベルの具体的な行動様式を定めている場合もあります。

スタートアップでは、バリューと行動指針を明確に区別せず、一体として扱うケースも多く見られます。重要なのは言葉の形式ではなく、組織全体で価値観を共有し実践できているかという点です。

スタートアップがMVVを策定すべきタイミング

スタートアップがMVVを策定する最適なタイミングは、事業フェーズや組織の状況によって異なります。早すぎても遅すぎても効果を発揮しにくいため、適切な時期を見極めることが重要です。

創業期における考え方

創業時からMVVを明確にすることは理想的ですが、必ずしも最初から完璧なMVVを策定する必要はありません。創業期は市場の反応を見ながらプロダクトや事業モデルを調整する段階であり、この時点で詳細なMVVを固めると、柔軟な方向転換の妨げになる可能性があります。

ただし創業者自身が「なぜこの事業をやるのか」という想いは明確にしておくべきです。この原点となる想いが、後のMVV策定の基盤となります。

PMF達成後が本格的な策定時期

MVVを本格的に策定すべきタイミングは、PMF(Product Market Fit)を達成し、事業が軌道に乗り始めた段階です。市場ニーズや顧客の課題が明確になり、事業の方向性が定まってきたこの時期であれば、実態に即した説得力のあるMVVを策定できます。

組織規模としては、従業員数が30名前後に達し、経営者・マネージャー・メンバーという3層構造が生まれる頃が目安となります。この段階では組織マネジメントの必要性が高まり、共通の価値観や行動指針が求められるようになります。

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組織拡大期や転換期での見直し

MVVは一度策定すれば終わりではなく、以下のようなタイミングで見直しや再定義を検討すべきです。シリーズB以降の大型調達後は、事業規模の拡大や新規事業の展開に伴い、より包括的なMVVへの進化が必要になります。

事業のピボットや大きな方向転換を行う際も、新しい事業内容に即したMVVへの更新が求められます。また従業員数が50名、100名といった節目を超える時期には、組織文化の維持と浸透のために既存のMVVを見直し、より明確化することが効果的です。

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MVVの策定プロセス

MVVの策定には体系的なプロセスが必要です。経営陣だけでなくメンバーを巻き込みながら進めることで、組織に根付くMVVを作ることができます。

ステップ1:創業の想いと事業の整理

MVV策定の出発点は、創業者や経営陣が持つ事業への想いや原体験の言語化です。なぜこの事業を始めたのか、どのような社会課題を解決したいのか、創業時の想いを振り返り整理します。

同時に、自社の事業内容や提供価値、強み・弱み、市場でのポジショニングを客観的に分析します。経営陣でのディスカッションやキーパーソンへのヒアリングを通じて、事業の本質的な価値を明確にしていきます。

ステップ2:ステークホルダーの分析

自社を取り巻くステークホルダーの視点を理解することで、より効果的なMVVを策定できます。顧客が自社に何を求めているのか、どのような価値を提供できているのかをリサーチします。

また競合他社のMVVも調査し、自社ならではの独自性を明確にします。投資家や求職者といったステークホルダーの期待も考慮することで、共感を得やすいMVVへとつながります。

ステップ3:メンバーとの共創

MVVは経営陣だけで決めるのではなく、現場メンバーの意見を取り入れることが重要です。ワークショップ形式でメンバーが議論に参加することで、多様な視点が反映されるとともに、当事者意識を持ってMVVを受け入れる土壌が育ちます。

仕事のやりがいや現場の声を反映させることで、実態に即した実践的なMVVになります。特にバリューの策定では、現場の行動実態を踏まえた具体的な価値観の設定が効果的です。

ステップ4:言語化と草案作成

これまでのプロセスで出たキーワードやフレーズを整理し、シンプルで分かりやすい言葉に落とし込みます。専門用語や難解な表現を避け、誰もが理解できる表現を心がけます。

複数の草案を作成し、社内でフィードバックを募ることで、より洗練されたMVVへとブラッシュアップできます。この過程で一貫性や覚えやすさも検証します。

MVVを策定する際の注意点

MVVを策定する際には、いくつかの注意点を押さえることで、形骸化を防ぎ実効性の高いものにできます。スタートアップ特有の課題も理解しておく必要があります。

MVVの一貫性を保つ

ミッション・ビジョン・バリューは独立した要素ではなく、一貫したストーリーで結ばれている必要があります。ミッションが示す社会的使命を達成するためにどのような未来を目指すのか(ビジョン)、そのためにどのような価値観を持ち行動すべきか(バリュー)という論理的なつながりを意識します。

各要素が矛盾していると、組織に混乱を招き、意思決定の基準として機能しません。策定段階で各要素の整合性を確認し、全体として納得できる構造になっているかを検証しましょう。

シンプルで覚えやすい表現にする

MVVは日常的に参照されるべきものであり、誰もが理解し記憶できることが重要です。複雑な構造や長文は浸透しづらく、形だけのものになってしまいます。

ミッションやビジョンは一文で表現し、バリューも簡潔なフレーズにまとめる工夫が求められます。横文字や専門用語の多用は避け、直感的に意味が理解できる言葉を選びましょう。社内外に伝えやすい表現であることが、浸透と実践の鍵となります。

理想と現実のバランスを考える

MVVは理想を掲げるものですが、現実からかけ離れた内容では実践できません。特にスタートアップでは、現在のリソースや事業規模を踏まえた実現可能性も考慮する必要があります。

高すぎる理想は従業員のモチベーションを下げる可能性があり、一方で低すぎる目標は組織の成長を妨げます。挑戦的でありながらも、段階的に達成可能なビジョンを設定することが大切です。

時代性と独自性のバランス

時代や社会の要請に沿ったMVVは共感を得やすい反面、他社と似通った内容になりがちです。SDGsやダイバーシティといった普遍的な価値観を取り入れつつ、自社ならではの独自性を表現することが重要です。

競合他社が掲げるような当たり障りのない内容では差別化が図れません。自社の強みや信念を深く掘り下げ、唯一無二の価値観を言語化することで、採用や資金調達においても武器となります。

MVVの社内浸透方法

MVVは策定するだけでは意味がなく、組織全体に浸透させ日々の行動に落とし込むことで初めて価値を発揮します。スタートアップの特性に合わせた効果的な浸透施策を実践しましょう。

経営者自らが体現し発信する

MVV浸透の最も重要なポイントは、経営者やリーダー層が率先してMVVを体現することです。トップの言動がMVVと矛盾していれば、いくら発信しても形骸化してしまいます。

経営判断や日々のコミュニケーションの中で、MVVに基づいた意思決定を行い、その理由を明確に伝えることが効果的です。全社会議やタウンホールミーティングで定期的にMVVに触れ、その重要性を継続的に語ることで、組織への浸透が進みます。

採用・オンボーディングで徹底する

新しく入社するメンバーへのMVV共有は、浸透の重要な機会です。採用選考の段階からMVVを伝え、価値観の合う人材を採用することで、入社後のミスマッチを防げます。

入社時のオンボーディングでは、MVVが定められた背景や経緯を丁寧に説明し、事業とMVVの関係性を理解してもらいます。創業者や経営陣から直接想いを語る機会を設けることで、より深い理解と共感が生まれます。

評価制度や表彰制度に組み込む

MVVを人事評価の項目に組み込むことで、日常的にMVVを意識する仕組みを作れます。目標設定や評価面談でMVVに沿った行動を確認し、それを評価することで、実践が促進されます。

またMVVを体現したメンバーを表彰する制度も効果的です。具体的なエピソードとともに称賛することで、他のメンバーへの浸透にもつながり、MVVが組織文化として根付いていきます。

日常的な接点を増やす

社内のコミュニケーションツールやオフィスの壁、デスクトップの壁紙など、日常的に目に触れる場所にMVVを掲載します。繰り返し接触することで、自然と記憶に残り意識されるようになります。

会議の冒頭でMVVを確認したり、プロジェクトの振り返りでMVVとの関連を議論したりすることも有効です。MVVを特別なものではなく、日常業務の一部として扱うことで、実践的な行動指針として機能します。

MVVの見直しと進化

MVVは一度策定すれば永続的に使えるものではなく、事業の成長や環境の変化に応じて見直しと進化が必要です。適切なタイミングで柔軟に対応することが重要です。

ピボット・事業転換時の対応

スタートアップがピボットや大きな事業転換を行う際には、MVVの見直しが不可欠です。事業内容が変われば、提供する価値や解決する社会課題も変化するため、既存のMVVがそぐわなくなる可能性があります。

ただしミッションの根幹となる創業の想いや社会に対する使命感は、事業が変わっても継承できる部分があります。完全に作り直すのではなく、変わらない本質的な価値観を残しつつ、新しい事業内容に合わせて表現を進化させることが効果的です。

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組織拡大に伴う再定義

従業員数が増えて組織が拡大すると、創業期のMVVでは抽象度が高すぎたり、新しいメンバーに伝わりにくくなったりします。50名、100名といった節目では、より具体的で分かりやすい表現への見直しを検討しましょう。

またビジョンについては、達成が近づいた段階で次のフェーズを見据えた新しい目標を設定することも必要です。組織の成長に合わせてMVVをアップデートすることで、常に挑戦的で魅力的な指針として機能します。

定期的な検証のタイミング

MVVの有効性を定期的に検証することも重要です。年次の経営計画策定時や中期経営計画の見直しのタイミングで、現在のMVVが事業実態や組織の状況に合っているかを確認します。

従業員サーベイを実施し、MVVの理解度や共感度を測定することも有効です。浸透度が低い場合は、表現の分かりやすさや伝え方を見直す必要があります。

変えるべき部分と守るべき部分

MVVを見直す際には、変えるべき部分と守るべき部分を明確に区別することが大切です。ミッションの根幹となる企業の存在意義や社会的使命は、容易に変えるべきではありません。

一方でビジョンは成長段階に応じて段階的に更新し、バリューは組織文化の変化や時代の要請に合わせて追加・修正することが可能です。本質を守りながら柔軟に進化させることで、MVVは組織の成長とともに深化していきます。

まとめ

MVVは、スタートアップの成長を支える経営の根幹です。ミッション・ビジョン・バリューを明確にすることで、意思決定の迅速化、資金調達の成功、優秀な人材の獲得、組織文化の維持が実現できます。

策定のタイミングはPMF達成後が目安ですが、創業期から創業者の想いを言語化しておくことが重要です。策定時には一貫性とシンプルさを意識し、経営陣だけでなくメンバーを巻き込みながら進めましょう。

策定後は経営者自らが体現し、採用や評価制度に組み込むことで社内に浸透させます。そして事業の成長やピボットに応じて、柔軟に見直しと進化を続けることが大切です。MVVを単なるスローガンに終わらせず、日々の行動指針として活用することで、スタートアップの持続的な成長を実現できます。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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