- ティール組織とは何か
- ティール組織に至る5つの発展段階
- ティール組織を構成する3つの要素
- ティール組織のメリットとデメリット
- スタートアップがティール組織を導入する際のポイント
変化の激しい現代のビジネス環境において、従来型のトップダウン組織では市場の変化に追いつけないケースが増えています。そこで注目されているのが「ティール組織」という次世代型の組織モデルです。
階層構造や細かな管理を必要とせず、メンバー一人ひとりが自律的に意思決定し行動することで、柔軟かつスピーディな成長を実現します。
本記事では、スタートアップが知っておくべきティール組織の基本概念から、メリット・デメリット、具体的な導入方法、実践事例まで網羅的に解説します。限られたリソースで最大の成果を目指すスタートアップにとって、ティール組織の考え方は組織づくりの新たな選択肢となるでしょう。
ティール組織とは何か
ティール組織の定義と背景
ティール組織とは、フレデリック・ラルー氏が著書『Reinventing Organizations』の中で提唱した、次世代型の組織モデルです。ラルー氏は約2年半にわたる世界中の組織調査を通じて、従来のピラミッド型組織とは一線を画す革新的な組織形態を発見し、これを「ティール(青緑色)」という色で表現しました。
ティール組織の最大の特徴は、トップダウンの指示命令系統や細かなマネジメントが存在しないにもかかわらず、組織全体が共通の目的に向かって自律的に成長し続ける点にあります。権力者や上下関係という概念がなく、メンバー一人ひとりが意思決定権を持ち、状況に応じて独自に判断し行動することで、市場変化への柔軟な対応を可能にします。
スタートアップにおける意義
スタートアップにとってティール組織は、限られたリソースで最大の成果を出すための有効な選択肢となり得ます。階層的な管理構造を持たないため、意思決定のスピードが格段に速く、変化の激しい市場環境において競合優位性を確保できます。
また、メンバーの主体性と創造性を最大限に引き出せる点も、イノベーションを必要とするスタートアップには大きなメリットです。従来型の組織では上司の承認を待つ時間が発生しますが、ティール組織では各メンバーが自律的に判断・実行するため、試行錯誤のサイクルを高速で回すことができます。
ただし、ティール組織には決まった「型」や実現手法が存在しないことを理解しておく必要があります。あくまで進化型の意識レベルに達した組織に共通して見られる特徴を分類したものであり、表面的な手法を真似れば必ずティール組織になれるわけではありません。
ティール組織に至る5つの発展段階
ラルー氏は組織の進化を5つの段階に分類し、それぞれを色で表現しています。自社の組織がどの段階にあるかを理解することで、次のステップへの道筋が見えてきます。
レッド組織(衝動型)
レッド組織は、強力なリーダーによる独裁的なマネジメントが行われる最も原始的な組織形態です。リーダーは絶対的な指揮命令権を持ち、メンバーはその指示に従うことで安心を得ます。目の前の利益や生き残りを最優先とする短期的な判断が特徴で、「オオカミの群れ」に例えられます。個人の力に依存するため、長期的な成長や成果の再現性には課題があります。
アンバー組織(順応型)
アンバー組織は、明確なヒエラルキーと役割分担が確立された「軍隊」のような組織です。レッド組織よりも長期的な視点を持ちますが、上下関係は絶対的であり、階層ごとに役割が固定されています。ルールと規律によって秩序が保たれ、安定した運営が可能である一方、環境変化への適応力に欠け、新しいアイデアが生まれにくいという弱点があります。
オレンジ組織(達成型)
オレンジ組織は、現代企業の大多数が採用する成果主義の組織モデルです。階層構造は存在しますが、数値目標の達成によって昇進が可能となる流動性があります。効率性と生産性を重視し、「機械」のように合理的に動く点が特徴です。競争意識によってイノベーションが促進される反面、成果至上主義により過重労働や燃え尽き症候群といった労働問題を引き起こすリスクもあります。
グリーン組織(多元型)
グリーン組織は、階層構造を残しつつもボトムアップ型の意思決定を重視し、メンバーの多様性や個性を尊重する「家族」のような組織です。オレンジ組織よりも個人の主体性を大切にしますが、合意形成に時間がかかる傾向があります。また、最終的な決定権はマネジメント側にあるため、ティール組織ほどの自律性は確立されていません。
ティール組織(進化型)
ティール組織は、リーダーや階層が存在せず、メンバー全員が対等な関係で自律的に行動する、最も進化した組織形態です。「1つの生命体」として捉えられ、共通の目的に向かって各自が独自に意思決定し、柔軟かつ迅速に変化に対応します。
ティール組織を構成する3つの要素
ティール組織には、共通して見られる3つの重要な要素があります。これらは相互に関連し合いながら、組織全体の自律的な成長を支える基盤となっています。
セルフマネジメント(自主経営)
セルフマネジメントとは、メンバー一人ひとりが上司の指示を待つことなく、自ら意思決定し行動する仕組みです。従来の組織では上司が部下を管理しますが、ティール組織では各メンバーが自己管理を行い、必要に応じて独自の判断を下します。極端な例では、給与額を社員同士で決定している組織も存在します。
ただし、完全に独断で決めるわけではありません。多くのティール組織では「アドバイスプロセス」という仕組みを採用しています。意思決定を行う際、該当分野の専門家や関係者に説明し、アドバイスを求めます。助言を受けた側はそれを真摯に受け止めた上で、最終的な判断は自分自身で行います。この仕組みによって、独善的な決定を防ぎながらも、迅速な意思決定とスピーディな施策実行が可能となります。
ホールネス(全体性)
ホールネスとは、メンバーが職場で「ありのままの自分」でいられる状態を指します。従来の組織では、プライベートな感情や個性を抑え、仕事用の仮面をつけて振る舞うことが暗黙の了解とされてきました。しかしティール組織では、個人の感性や感情、価値観といったあらゆるパーソナリティを押し殺すことなく、自然体で表現できる環境が整っています。
メンバー同士がお互いの多様性を認め合い、自分の意見を自由に表現できることで、創造的なアイデアが生まれやすくなります。また、心理的安全性が確保されることで、失敗を恐れずチャレンジする文化が醸成され、組織全体のイノベーション力が高まります。
エボリューショナリーパーパス(進化する目的)
エボリューショナリーパーパスとは、組織の存在目的そのものを指します。ティール組織では「なぜこの組織が存在するのか」「社会にどんな価値を提供するのか」をメンバー全員が理解し、常に探求し続けます。
重要なのは、この目的が固定的ではなく、社会の変化に応じて進化し続ける点です。市場ニーズや環境変化を感じ取りながら、組織の存在意義を柔軟にアップデートしていきます。時には事業内容そのものを大胆に変更することもあります。メンバーは単なる利益追求ではなく、社会的価値の創造という明確な目的を持つことで、高いモチベーションと当事者意識を維持できます。

ティール組織のメリットとデメリット
ティール組織は多くの可能性を秘めた組織モデルですが、万能ではありません。導入を検討する際は、メリットとデメリットの両面を理解することが重要です。
ティール組織のメリット
最大のメリットは、意思決定のスピードが格段に速くなる点です。従来の組織では上司や経営層の承認を待つ必要がありますが、ティール組織では各メンバーが現場で即座に判断・実行できるため、市場変化への対応力が飛躍的に向上します。スタートアップにとって、このスピード感は競合優位性の源泉となります。
メンバーの主体性と創造性が最大限に引き出される点も見逃せません。自分自身で意思決定を行うことで当事者意識が高まり、思わぬ視点からのアイデアや革新的なソリューションが生まれやすくなります。また、ありのままの自分でいられる環境は、心理的安全性を高め、組織へのエンゲージメント向上にもつながります。
さらに、管理職やマネジメント層が不要となるため、組織がフラットになり、コミュニケーションコストの削減も期待できます。少数精鋭で動くスタートアップにとって、限られたリソースを事業成長に集中投下できることは大きな魅力です。
ティール組織のデメリット
一方で、導入には高いハードルが存在します。最も大きな課題は、メンバー全員が高い自律性と責任感を持つ必要がある点です。指示待ちの姿勢や依存的な思考パターンを持つメンバーがいる場合、組織が機能不全に陥るリスクがあります。
また、既存の企業文化や組織構造からの移行は容易ではありません。特に従来型のヒエラルキー組織で長く働いてきたメンバーにとって、意識改革には相当な時間と労力を要します。過渡期には混乱や不安が生じ、一時的に生産性が低下する可能性もあります。
さらに、ティール組織には決まった「型」や実現手法が存在しないため、自社に適した形を模索しながら進める必要があります。成功事例を表面的に真似るだけでは機能せず、試行錯誤のプロセスが不可欠です。
急速な事業拡大のフェーズでは、意思決定の分散により方向性のブレが生じるリスクもあります。組織の目的や価値観の共有が不十分な状態で規模を拡大すると、かえって混乱を招く可能性があることも認識しておくべきでしょう。
スタートアップがティール組織を導入する際のポイント
スタートアップがティール組織を目指す際は、段階的かつ現実的なアプローチが求められます。ここでは実践的な導入ポイントを紹介します。
組織の存在目的を明確化し共有する
ティール組織の基盤となるのは、メンバー全員が理解し共感できる組織の存在目的です。単なる売上目標ではなく、「なぜこの事業を行うのか」「社会にどんな価値を提供するのか」という本質的な問いに向き合い、言語化することから始めましょう。
創業期のスタートアップであれば、創業者の想いを起点に対話を重ねながら組織の存在目的を練り上げていくプロセスが有効です。また、この目的は固定的なものではなく、事業の成長や市場環境の変化に応じて進化させ続けるものであることをメンバーに伝えておくことも重要です。明文化した目的は、日常的にメンバー間で確認し合い、意思決定の判断軸として活用しましょう。
小さな範囲から始める
いきなり組織全体をティール化するのではなく、特定のチームやプロジェクト単位で試験的に導入することをお勧めします。例えば、新規プロダクト開発チームや少人数のプロジェクトチームなど、比較的メンバー数が少なく、実験的な取り組みがしやすい単位から始めることで、リスクを抑えながらノウハウを蓄積できます。
小規模での実践を通じて得られた学びや課題を組織内で共有し、改善を重ねながら徐々に適用範囲を広げていくアプローチが現実的です。完璧を目指すのではなく、トライアンドエラーを繰り返しながら自社に合った形を見つけていく姿勢が大切です。
情報の透明性を確保する
セルフマネジメントを機能させるには、メンバーが適切な意思決定を行うための情報にアクセスできる環境が不可欠です。財務状況、事業戦略、顧客データ、各プロジェクトの進捗など、従来は経営層やマネージャーのみが把握していた情報をオープンにする仕組みを整えましょう。
情報共有ツールの活用や定期的な全社ミーティングの開催など、透明性を担保する具体的な施策を実施することが重要です。ただし、単に情報を公開するだけでなく、メンバーがその情報を正しく理解し活用できるよう、必要に応じてサポートや教育の機会も提供しましょう。
心理的安全性を醸成する
ホールネスを実現するには、メンバーが失敗を恐れず意見を述べられる心理的安全性の確保が前提となります。多様な意見を尊重し、建設的なフィードバック文化を育むことで、メンバーは安心して自律的な行動を取れるようになります。定期的な1on1や振り返りの場を設け、メンバーの不安や懸念に耳を傾ける姿勢を示すことも効果的です。

ティール組織の国内外実践事例
ティール組織の概念は理論的に理解できても、実際にどのように機能するのかイメージしにくいものです。ここでは国内外の実践事例を通じて、具体的な取り組みを見ていきましょう。
海外スタートアップの事例
あるオランダの在宅医療サービス企業では、従来の管理型経営から大胆な組織改革を実施しました。効率重視の運営により顧客との信頼関係が薄れ、本来の目的である「最適な看護の提供」から遠ざかってしまったことが改革のきっかけです。
この企業はマネージャー職を完全に撤廃し、看護師チームそれぞれが自主的に意思決定し責任を負う体制に移行しました。結果として顧客満足度が向上しただけでなく、他社で働く看護師からも「この会社で働きたい」という声が集まり、優秀な人材の獲得にもつながったといいます。自律的な組織運営が、サービス品質と従業員エンゲージメントの両面で成果を生んだ好例です。
フランスの食品加工企業では、従業員に固定的な肩書を設けない運営を実践しています。目標設定やミッションの決定は同僚同士の対話によって行われ、全員が意思決定権と責任を持ちます。上司による管理がなくても、メンバーの自発的な行動によって組織の秩序が保たれており、ティール組織の理想形を体現している事例といえます。
国内スタートアップの事例
日本国内でも、ティール組織の要素を取り入れたスタートアップが増えています。あるIT企業では、プロジェクトごとにメンバーが自律的にチームを編成し、意思決定を行う仕組みを導入しました。経営陣は方向性を示すものの、具体的な進め方や優先順位の決定は各チームに委ねられています。
この企業では「アドバイスプロセス」を独自にアレンジし、重要な意思決定を行う際は社内のSlackチャンネルで提案内容を共有し、関係者からフィードバックを募る文化が根付いています。最終判断は提案者自身が行いますが、多様な視点からの助言を得ることで、より質の高い意思決定が可能になっているといいます。
また別の国内スタートアップでは、給与テーブルや評価基準を完全にオープンにし、昇給の判断基準を全社員が理解できる状態を作っています。年に一度、メンバー同士で360度フィードバックを行い、その結果をもとに本人が自己評価を提出する仕組みです。最終的な給与決定には経営陣が関与しますが、プロセスの透明性を高めることで、メンバーの納得感と自律性を両立させています。

事例から学ぶべきポイント
これらの事例に共通するのは、完璧なティール組織を目指すのではなく、自社の文化や事業特性に合わせて柔軟にアレンジしている点です。一足飛びに理想形を実現するのではなく、できる範囲から実験し、改善を重ねながら組織を進化させていく姿勢が成功の鍵となっています。
まとめ
ティール組織は、メンバーの自律性と創造性を最大限に引き出す次世代型の組織モデルです。階層構造に依存せず、一人ひとりが意思決定権を持つことで、変化への迅速な対応と継続的なイノベーションが可能になります。
スタートアップにとって、ティール組織の考え方は限られたリソースで成果を最大化するための有効な選択肢となり得ます。ただし、決まった実現手法は存在せず、自社の文化や事業特性に合わせた独自のアプローチが必要です。まずは小さなチームやプロジェクト単位で試験的に導入し、試行錯誤を重ねながら自社に適した形を見つけていくことをお勧めします。
完璧なティール組織を目指すのではなく、組織の存在目的を明確にし、情報の透明性と心理的安全性を確保しながら、段階的に進化させていく姿勢が成功への近道となるでしょう。
本記事が参考になれば幸いです。

