資本金とは?スタートアップが知るべき決め方と注意点を解説

この記事でわかること
  • 資本金とは何か
  • 資本金が果たす役割
  • スタートアップが資本金を決める際の5つの基準
  • 資本金額が税金に与える影響
  • 会社設立時の資本金払込手続き

会社を設立する際に必ず決定しなければならないのが資本金です。資本金は事業運営の元手となるだけでなく、取引先や金融機関からの信用力を示す重要な指標となります。しかし「資本金はいくらに設定すればよいのか」「税金への影響はどうなるのか」と悩むスタートアップ経営者も多いのではないでしょうか。

本記事では、資本金の基礎知識から適切な金額の決め方、税制面での影響、具体的な払込手続きまで、スタートアップが知っておくべき情報を網羅的に解説します。資本金を正しく理解し、自社に最適な金額を設定することで、安定した経営基盤を築きましょう。

目次

資本金とは何か

資本金とは、会社を設立する際に事業の元手となる資金のことです。創業者や出資者から払い込まれた資金が資本金となり、貸借対照表上では「純資産の部」の「株主資本」に分類されます。資本金は借入金とは異なり返済義務がないため、会社が自由に事業運営に活用できる資金として位置づけられています。

最低資本金制度の撤廃で1円から設立可能に

かつて株式会社を設立するには最低1,000万円、有限会社では300万円の資本金が必要でした。しかし2006年の新会社法施行により最低資本金制度が撤廃され、現在は資本金1円からでも会社設立が可能です。この法改正により起業のハードルが大幅に下がり、多くのスタートアップが誕生するきっかけとなりました。

ただし、実際に資本金1円で設立するケースは稀です。資本金が少なすぎると運転資金が不足するリスクがあり、取引先や金融機関からの信用も得にくくなります。

資本金として認められる出資方法

資本金は現金による出資が一般的ですが、現物出資という方法も認められています。現物出資とは、パソコンや車両、不動産、有価証券などの金銭以外の資産を資本金として出資する方法です。手元の現金が限られている場合でも、事業に必要な資産を現物出資することで資本金を増やせます。

ただし現物出資した資産は現金ではないため、日々の運転資金として使用することはできません。資金繰りの計画を立てる際は、現金での出資額を基準に考える必要があります。また、総額が500万円を超える現物出資の場合は、裁判所が選任する検査役による調査が必要となるため注意が必要です。

資本金が果たす役割

資本金は単なる設立時の手続き上の数字ではなく、会社経営において重要な役割を果たします。スタートアップにとって資本金は、事業の安定性を支える基盤であり、対外的な信用力を示す指標でもあります。

事業運営の元手として機能する

資本金の最も基本的な役割は、創業初期の運転資金として活用できることです。スタートアップは設立直後から安定した売上を確保することが難しく、黒字化するまでに数ヶ月から数年かかるケースも珍しくありません。この期間中、オフィス賃料や人件費、設備投資、仕入代金などの支払いが発生しますが、十分な資本金があればこれらの支出に対応できます。

資本金は返済義務のない自己資本であるため、借入金と異なり返済期限や利息を気にする必要がありません。事業の成長に集中できる環境を作るうえで、適切な資本金の確保は不可欠です。

会社の信用力を示す指標になる

資本金額は「会社の体力」として認識され、取引先や金融機関が与信判断を行う際の重要な指標となります。新規の取引先を開拓する際、相手企業は資本金額を確認したうえで取引の可否を判断することが一般的です。資本金が著しく少ない場合、支払能力や事業継続性に疑問を持たれ、取引を断られる可能性があります。

特にBtoB事業を展開するスタートアップや、大手企業との取引を目指す場合は、ある程度の資本金を用意しておくことで商談をスムーズに進められます。

融資獲得の可能性を高める

金融機関から融資を受ける際も、資本金額が審査の重要な要素となります。一般的に、融資可能額は資本金の同額から2倍程度が目安とされており、資本金が少ないと希望する融資額を得られない可能性があります。

スタートアップが成長資金を調達する手段として融資は有力な選択肢ですが、その前提として一定の自己資本を持っていることが求められます。

スタートアップが資本金を決める際の5つの基準

資本金額の設定は、事業の安定性や税負担、資金調達に大きく影響します。スタートアップが資本金を決定する際に押さえるべき5つの基準を解説します。

初期費用と運転資金を算出する

最も基本となるのが、事業開始に必要な初期費用と運転資金の算出です。一般的には、初期費用に加えて3ヶ月から6ヶ月分の運転資金を資本金として用意することが推奨されます。

初期費用にはオフィスの契約費用、設備やソフトウェアの購入費、Webサイト制作費などが含まれます。運転資金には人件費、家賃、通信費、マーケティング費用などの固定費と変動費が該当します。売上が安定するまでの期間を見据え、資金ショートを起こさない金額設定が重要です。

取引先からの評価を考慮する

ターゲットとする取引先の規模や業界慣習によって、求められる資本金水準は異なります。大手企業との取引を想定する場合や、与信審査が厳格な業界では、ある程度まとまった資本金が必要です。

総務省の調査によると、中小企業の資本金は300万円から500万円が最も多い水準となっています。同業他社の資本金額を参考にしながら、取引先から信頼される金額を設定しましょう。

許認可の要件を確認する

特定の事業を行う際は行政機関からの許認可が必要となり、その取得要件に最低資本金額が定められているケースがあります。たとえば、一般建設業では500万円以上、労働者派遣業では2,000万円以上の資本金が求められます。

事前に自社の事業に必要な許認可を確認し、要件を満たす資本金を設定することが不可欠です。

税制優遇措置を活用する

資本金1,000万円未満であれば、設立から原則2年間は消費税の免税事業者となります。また資本金1億円以下であれば中小企業として法人税の軽減税率が適用されるなど、資本金額によって税負担が変わります。

融資計画を踏まえて設定する

創業融資を受ける場合、資本金額が融資額の目安となります。日本政策金融公庫の新創業融資制度では、必要資金の10分の1以上の自己資金が条件となっています。将来の資金調達計画を踏まえた資本金設定が求められます。

資本金額が税金に与える影響

資本金額の設定は、消費税や法人税、地方税など複数の税金に影響を与えます。スタートアップにとって税負担は経営を左右する重要な要素であり、資本金を決める際は税制面への影響を十分に理解しておく必要があります。

消費税の免税期間が変わる

資本金額が消費税の納税義務に最も大きく影響します。資本金1,000万円未満で設立した法人は、原則として設立から2期目まで消費税の免税事業者となります。一方、資本金1,000万円以上で設立すると、初年度から課税事業者として消費税の納付義務が発生します。

ただし、設立初年度の前半6ヶ月間で課税売上高と給与支払額がともに1,000万円を超える場合は、2期目から課税事業者となる特例があります。また、インボイス制度に登録している場合は資本金額に関わらず課税事業者として消費税を納付する必要があります。

創業期の資金繰りを考えると、1,000万円未満に設定することで最大2年間の免税メリットを受けられるため、多くのスタートアップが1,000万円を基準に資本金を検討しています。

法人税の軽減税率が適用される

資本金1億円以下の法人は中小企業とみなされ、法人税の軽減措置が受けられます。年間所得800万円以下の部分については15パーセントの税率が適用され、800万円を超える部分は23.2パーセントとなります。資本金1億円を超えると、所得額に関わらず一律23.2パーセントの税率が適用されるため、税負担が増加します。

スタートアップの多くは資本金1億円以下で設立するため、この軽減措置の恩恵を受けられます。

地方税の均等割額に影響する

法人住民税の均等割は、資本金額と従業員数に応じて税額が決まります。東京都23区内で従業員50人以下の法人の場合、資本金1,000万円以下なら年間7万円ですが、1,000万円を超えると18万円となり、11万円の差が生じます。

資本金額の設定によって毎年の固定的な税負担が変わるため、長期的な視点での検討が必要です。

会社設立時の資本金払込手続き

会社を設立する際は、定款で定めた資本金を実際に銀行口座へ払い込む手続きが必要です。この資本金払込は法人登記申請の必須条件となっており、適切な手順で行わなければなりません。ここでは資本金払込の具体的な流れを解説します。

発起人の個人口座を用意する

会社設立前はまだ法人名義の銀行口座を開設できないため、発起人個人の銀行口座を使用します。新たに口座を開設する必要はなく、普段使用している口座で問題ありません。発起人が複数いる場合は、代表となる発起人の口座を利用します。

なお、資本金の払込先金融機関と、設立後に開設する法人口座の金融機関は同じである必要はありません。

口座に資本金を払い込む

定款認証が完了した後、用意した個人口座に資本金を払い込みます。払込方法は金融機関の窓口、ATM、インターネットバンキングのいずれでも可能です。

重要なのは「払込」の事実が通帳に記録されることです。すでに口座内に十分な残高がある場合でも、一度資本金相当額を引き出してから改めて入金し、払込の履歴を残す必要があります。ATMやインターネットバンキングには1日の入金限度額が設定されている場合があるため、高額な資本金を払い込む際は窓口の利用を検討しましょう。

通帳のコピーを作成する

資本金の払込が完了したら、通帳のコピーを作成します。コピーが必要なのは、表紙、裏表紙(金融機関名・支店名・口座番号が記載されたページ)、払込内容が記載されたページの3箇所です。

インターネットバンキングを利用した場合は、振込日、口座名義人、口座番号、金融機関情報、振込金額、振込人名義が記載された画面を印刷します。

払込証明書を作成する

最後に、発起人から会社への資本金払込があったことを証明する払込証明書を作成します。払込証明書には、払込総額、株式数、1株あたりの払込金額、日付、会社所在地、会社名、代表取締役氏名を記載し、代表印を押印します。作成した払込証明書に通帳のコピーを添付し、法人登記申請時に法務局へ提出します。

増資・減資の実施方法とタイミング

資本金は会社設立後も増やしたり減らしたりすることが可能です。事業の成長段階や経営状況に応じて資本金を調整することで、財務基盤の強化や税負担の最適化を図れます。ここでは増資と減資の方法、適切なタイミングについて解説します。

増資の実施方法

増資とは資本金を増やす手続きのことで、主に3つの方法があります。

株主割当増資は、既存株主に対して持株比率に応じて新株を割り当てる方法です。株主構成を維持できるメリットがありますが、既存株主が応じない可能性もあります。

第三者割当増資は、特定の第三者に対して新株を発行する方法です。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を受ける際に用いられ、スタートアップの資金調達手段として一般的です。

公募増資は、不特定多数の投資家から広く出資を募る方法ですが、上場企業でなければ実施できません。

増資を行う際は、株主総会での決議、定款変更、法務局での変更登記が必要となり、登録免許税として増資額の0.7パーセント(最低3万円)がかかります。

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増資の適切なタイミング

増資を検討すべきタイミングは、事業拡大に伴う資金需要が高まったときや、大型取引の獲得に向けて信用力を高めたいときです。新規事業の立ち上げや設備投資、人材採用を加速させる際に、自己資本を充実させることで財務基盤を強化できます。

また、金融機関からの融資を受けやすくするため、あるいは取引先からの与信枠を拡大するために増資を実施するケースもあります。

減資の実施方法とタイミング

減資とは資本金を減らす手続きで、税負担の軽減や財務状況の改善を目的に実施されます。減資には有償減資と無償減資があり、有償減資は株主に対して資金を払い戻す方法、無償減資は単純に資本金の額面を減らす方法です。

減資を検討するタイミングは、資本金を1,000万円未満や1億円以下に調整して税制優遇を受けたい場合や、累積赤字を解消して財務体質を改善したい場合です。ただし減資は対外的な信用力低下につながる可能性があるため、慎重な判断が求められます。

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まとめ

資本金は会社経営の元手となる資金であり、事業の安定性を支えるとともに対外的な信用力を示す重要な指標です。スタートアップが資本金を決定する際は、初期費用と運転資金の算出、取引先からの評価、許認可の要件、税制優遇措置、融資計画という5つの基準を総合的に検討する必要があります。

特に資本金1,000万円未満であれば消費税の免税期間を最大2年間受けられ、1億円以下であれば法人税の軽減税率が適用されるなど、税制面でのメリットは大きく影響します。

会社設立時には適切な手順で資本金を払い込み、事業の成長段階に応じて増資や減資を検討することも可能です。自社の事業計画と資金繰りを見据えて、最適な資本金額を設定しましょう。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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