第三者割当増資とは?スタートアップが押さえるべき基礎知識と実践ガイド

この記事でわかること
  • 第三者割当増資とは?
  • 第三者割当増資の3つの主要目的
  • スタートアップにとってのメリット・デメリット
  • 第三者割当増資の実施手順と必要書類
  • 実施時に注意すべき重要ポイント

第三者割当増資は、スタートアップが成長資金を調達する際に最も活用される手法の一つです。ベンチャーキャピタルや事業会社など、特定の投資家に新株を発行することで、返済不要の資金を獲得できるだけでなく、戦略的なパートナーシップも構築できます。

しかし、株式の希薄化や資本政策への影響など、注意すべきポイントも少なくありません。

本記事では、第三者割当増資の基本的な仕組みから実施手順、株価算定方法、実務上の注意点まで、スタートアップ経営者が押さえておくべき知識を網羅的かつコンパクトに解説します。

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目次

第三者割当増資とは?

第三者割当増資の基本的な仕組み

第三者割当増資とは、株式会社が特定の第三者に対して新株を発行し、資金を調達する増資手法です。ここでいう「第三者」とは、既存株主か否かを問わず、個人でも法人でも対象となります。スタートアップにおいては、ベンチャーキャピタルや事業会社、エンジェル投資家などが引受先となるケースが一般的です。

この手法の特徴は、資金調達と同時に戦略的なパートナーシップを構築できる点にあります。単なる資金提供者ではなく、事業成長に必要な知見やネットワークを持つ相手を株主として迎え入れることで、事業の加速が期待できます。

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他の増資方法との違い

増資には大きく分けて「公募増資」「株主割当増資」「第三者割当増資」の3種類があります。

公募増資は不特定多数の投資家に株式を募集する方法で、上場企業が多額の資金調達を行う際に用いられます。

株主割当増資は既存株主の持株比率に応じて新株を割り当てる方法で、株主構成が変わらない点が特徴です。

対して第三者割当増資は、引受先を自社で選定できるため、資金だけでなく経営資源の獲得も狙える点が最大の違いです。スタートアップにとっては、成長フェーズに応じた最適な投資家を選べる柔軟性が重要なメリットとなります。また、公募増資と比較して手続きが簡便で、迅速な資金調達が可能な点も、スピードが求められるスタートアップには適しています。

第三者割当増資の3つの主要目的

事業成長のための資金調達

第三者割当増資の最も基本的な目的は、事業拡大に必要な資金の確保です。スタートアップにとって、プロダクト開発や人材採用、マーケティング投資など、成長フェーズごとに多額の資金が必要となります。銀行融資と異なり返済義務がないため、キャッシュフローに余裕がない成長初期段階でも積極的な投資が可能になります。

調達した資金の使途は企業によって様々ですが、新規事業の立ち上げや既存事業のスケール、海外展開など、将来の収益拡大につながる投資に充てられることが一般的です。また、研究開発費や設備投資といった先行投資が必要な局面でも、エクイティによる資金調達は財務の健全性を保ちながら成長を加速させる手段として有効です。

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戦略的パートナーとの関係構築

資金調達と並んで重要な目的が、事業シナジーが見込める企業や投資家との関係強化です。事業会社からの出資を受ける場合、資本関係を通じて販路拡大や技術提携、共同開発といった具体的な協業が進めやすくなります。

ベンチャーキャピタルから出資を受ける場合も、資金提供だけでなく経営支援や人材紹介、次回資金調達のサポートなど、様々な付加価値を得られます。こうした戦略的パートナーを株主として迎えることで、単独では実現困難な事業展開が可能になり、競争優位性の確立につながります。

資本政策と企業価値の向上

第三者割当増資は、中長期的な資本政策の一環としても実施されます。適切なタイミングで信頼できる投資家から資金調達を行うことで、企業の信用力が向上し、次回以降の資金調達もスムーズになります。また、著名な投資家やリード企業からの出資は、市場における企業評価を高める効果も期待できます。

さらに、段階的な資金調達を通じて事業実績を積み重ねることで、企業価値の向上と既存株主の利益最大化を両立させることが可能です。

スタートアップにとってのメリット・デメリット

第三者割当増資の主なメリット

第三者割当増資の最大のメリットは、返済義務のない資金を調達できる点です。融資と異なり月々の返済が不要なため、調達資金を全額成長投資に充てられます。キャッシュフローが不安定な創業期やピボット期においても、資金繰りを気にせず事業に集中できる環境が整います。

引受先を自社で選定できる点も重要なメリットです。単なる資金提供者ではなく、事業理解が深く、成長に必要な支援を提供できるパートナーを株主として迎えることで、経営の質が向上します。ベンチャーキャピタルであれば経営ノウハウや人材ネットワーク、事業会社であれば販路や技術といった経営資源の獲得が期待できます。

また、公開会社の場合は取締役会決議のみで実施できるため、手続きが比較的簡便です。スピード感を持って資金調達を進められる点は、機動性が求められるスタートアップにとって大きな利点といえます。さらに、資本金の増加により企業の信用力が向上し、取引先や金融機関からの評価も高まります。

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注意すべきデメリット

一方で、既存株主の持株比率が低下する「株式の希薄化」は避けられません。創業者の持株比率が下がることで、経営の自由度が制限される可能性があります。特に過半数を割り込むと重要な意思決定に他の株主の同意が必要となるため、事前に資本政策を慎重に設計する必要があります。

資本金の増加に伴う税負担の増加にも注意が必要です。資本金が1,000万円を超えると消費税の免税事業者ではなくなり、1億円を超えると法人税の軽減税率が適用されなくなるなど、税制上の優遇措置が受けられなくなるケースがあります。

また、株主が増えることで、株主総会の運営や情報開示といった管理コストも増加します。投資家との定期的なコミュニケーションや報告業務が発生するため、経営陣の時間的負担も考慮すべきポイントです。

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第三者割当増資の実施手順と必要書類

実施の基本的な流れ

第三者割当増資は、原則として以下の6つのステップで進行します。まず募集事項の決定から始まり、最終的な登記完了までおおむね2週間から1カ月程度を要します。

公開会社の場合、取締役会で募集株式数、払込金額、払込期日、増加する資本金額などの募集事項を決定します。非公開会社の場合は株主総会の特別決議が必要となり、株主の過半数が出席し、その3分の2以上の賛成を得なければなりません。

募集事項が決定したら、既存株主に対して払込期日の2週間前までに通知または公告を行います。これは株主が異議を申し立てる機会を確保するための重要な手続きです。次に引受希望者に対しても、会社の商号や募集事項、払込取扱場所などを通知します。

引受希望者から申し込みを受けた後、取締役会で割当先と株式数を決定し、申込者に通知します。その後、引受人が払込期日までに全額を払い込むことで正式に株主となります。最後に、払込期日から2週間以内に法務局で増資に係る変更登記を行う必要があります。

総数引受契約による簡略化

実務上、スタートアップの資金調達では「総数引受契約」を活用するケースが多く見られます。これは発行する株式すべてを特定の引受人が引き受ける契約で、この方法を用いると株主への通知や引受申込、割当決定といった手続きを省略できます。

総数引受契約を締結する場合、募集事項の決定と引受人による払込、そして登記変更という3つのステップで完了するため、最短で数日での資金調達も可能です。ベンチャーキャピタルや事業会社からの出資では、この方法が標準的に用いられています。

準備すべき主な書類

実施にあたっては、取締役会議事録または株主総会議事録、総数引受契約書、払込証明書、株主名簿、資本金額の計上証明書などが必要です。登記申請時には、これらに加えて登記申請書や登記免許税の納付書も用意します。専門家のサポートを受けながら、漏れなく準備を進めることが重要です。

実施時に注意すべき重要ポイント

有利発行に関する規制

第三者割当増資を実施する際、最も注意すべきなのが「有利発行」に関する規制です。有利発行とは、時価よりも著しく低い価格で株式を発行することを指し、既存株主の利益を損なう恐れがあるため、会社法で厳格なルールが定められています。

有利発行に該当する場合、公開会社・非公開会社を問わず株主総会の特別決議が必要となり、取締役はその必要性について株主に説明しなければなりません。特別決議を経ずに有利発行を行った場合、取締役は公正な払込金額との差額について会社に対して損害賠償責任を負うことになります。

未上場のスタートアップでも、客観的な株価算定を行い、適正な価格での発行を心がけることが重要です。

資本政策の事前設計

第三者割当増資により既存株主の持株比率が低下するため、長期的な資本政策を事前に設計しておく必要があります。特に創業者の持株比率が過半数を下回ると、重要事項の決定に他の株主の同意が必要となり、経営の機動性が損なわれる可能性があります。

さらに3分の2を下回ると、定款変更や事業譲渡といった特別決議事項について拒否権を持てなくなります。IPOを目指す場合、創業者やその親族の持株比率が一定水準以上であることが望ましいとされるため、将来の上場計画も踏まえた株式配分が求められます。

複数回の資金調達を想定し、各ラウンドでの希薄化を計算しながら、最終的なゴールに向けた持株比率を維持できるよう計画することが不可欠です。

税務上の留意点と手続き期限

資本金が1,000万円を超えると消費税の免税事業者ではなくなり、1億円を超えると法人税の軽減税率や中小企業向け税制優遇が受けられなくなります。増資後の資本金額が税負担に与える影響を事前にシミュレーションし、必要に応じて資本準備金への計上比率を調整することも検討すべきです。

また、払込期日から2週間以内に変更登記を完了しなければ、過料の制裁を受ける可能性があります。登記を怠ると休眠会社とみなされ、最悪の場合は強制解散のリスクもあるため、期限管理を徹底する必要があります。

まとめ

第三者割当増資は、スタートアップが事業成長に必要な資金を調達しながら、戦略的なパートナーを獲得できる有効な手法です。返済義務がなく、引受先を選定できる点は大きなメリットですが、株式の希薄化や資本政策への影響を十分に理解した上で実施する必要があります。

実施にあたっては、適切な株価算定、有利発行規制への対応、長期的な資本政策の設計が不可欠です。特に創業者の持株比率の維持と、税務上の影響については慎重な検討が求められます。複数のアプローチを組み合わせた客観的な株価評価を行い、必要に応じて専門家のサポートを受けながら進めることで、企業価値の向上と持続的な成長を実現できるでしょう。適切なタイミングで適切な相手から資金調達を行うことが、スタートアップの成功への重要な一歩となります。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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