デューデリジェンスとは?スタートアップが知るべき基礎知識と準備のポイント

この記事でわかること
  • デューデリジェンスとは?
  • スタートアップがデューデリジェンスを受ける理由
  • デューデリジェンスの主な種類と調査内容
  • デューデリジェンスの実施フローと準備のポイント
  • デューデリジェンスで指摘されやすい問題と対策

M&Aや資金調達を進める際、避けて通れないのがデューデリジェンスです。買い手側が実施するこの詳細な調査は、スタートアップにとって大きなハードルとなることも少なくありません。

財務状況や法務リスク、事業の実態まで徹底的に精査されるため、準備不足では取引条件の悪化や破談のリスクもあります。

本記事では、デューデリジェンスの基礎知識から実施フロー、指摘されやすい問題とその対策まで、スタートアップが知るべきポイントを解説します。

目次

デューデリジェンスとは?

デューデリジェンスの定義と目的

デューデリジェンス(Due Diligence、DD)とは、M&Aや投資を実行する前に、買い手側が売り手企業の実態を詳細に調査・分析するプロセスです。日本語では「買収監査」や「適正評価手続き」とも呼ばれます。

この調査の目的は大きく分けて二つあります。一つは、対象企業の真の価値を正確に評価すること。もう一つは、財務リスクや法的リスク、運用リスクなど潜在的な問題を事前に特定することです。買い手側は売り手が提示する情報だけでは判断できない部分を専門家とともに調査し、投資判断の材料とします。

デューデリジェンスで重大な問題が発覚した場合、買収価格の減額交渉や契約条件の見直しが行われます。場合によっては取引自体が中止されることもあるため、M&Aの成否を左右する極めて重要なステップといえるでしょう。

スタートアップにおける実施タイミング

デューデリジェンスは通常、基本合意契約の締結後から最終契約の締結前までの間に実施されます。この段階では双方がM&Aに前向きな姿勢を示しており、秘密保持契約も締結されているため、より踏み込んだ情報開示が可能になります。

調査期間は企業の規模や調査範囲によって異なりますが、スタートアップの場合は1週間から1ヶ月程度が一般的です。ただし、資料の準備状況や調査項目の複雑さによって期間は変動します。買い手側は限られた時間内で効率的に調査を進める必要があるため、売り手側の迅速な対応が求められます。

この期間中、売り手側には膨大な資料提出や質問対応が求められますが、誠実に協力することで買い手との信頼関係を構築でき、円滑な取引につながります。

スタートアップがデューデリジェンスを受ける理由

買い手側の視点を理解する

スタートアップがデューデリジェンスを受ける最大の理由は、買い手側が投資判断に必要な確実な情報を求めているためです。買い手は多額の資金を投じて企業を買収するため、売り手が提示する資料だけでは不十分と考えます。特にスタートアップの場合、急成長の過程で会計処理や契約関係が整備されていないケースも多く、買い手側は慎重に実態を確認したいと考えるのです。

また、M&Aでは対象企業の債務や法的リスクもそのまま引き継ぐことになります。簿外債務や未払い残業代、知的財産権の瑕疵など、後から発覚すれば買い手に大きな損害を与える問題が潜んでいないか、専門家を交えて徹底的に調査します。デューデリジェンスは買い手が安心して取引を進めるための不可欠なプロセスなのです。

資金調達やイグジット戦略との関係

デューデリジェンスはM&Aだけでなく、大型の資金調達においても実施されることがあります。特にシリーズBラウンド以降のベンチャーキャピタルからの出資や、PEファンドによる投資では、投資家側が詳細な調査を求めるケースが増えています。

投資家は出資後のリスクを最小限に抑えたいと考えるため、財務状況や事業の実現可能性、法務面の健全性を確認します。また、将来的なIPOやM&Aによるエグジットを見据えた場合、早い段階から企業体制を整備しておくことが重要です。デューデリジェンスに耐えられる管理体制を構築することは、スタートアップの成長戦略そのものといえるでしょう。

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企業価値を高める機会として捉える

デューデリジェンスは単なる調査ではなく、自社の課題を発見し改善する絶好の機会です。外部の専門家による客観的な視点で指摘を受けることで、経営陣が気づかなかった問題点が明らかになります。これらの課題に事前に対処することで、企業価値の向上につながります。

また、デューデリジェンスに誠実に対応する姿勢は、買い手側との信頼関係構築にも直結します。隠し事をせず透明性を持って情報開示することで、交渉がスムーズに進み、より良い条件での取引成立が期待できるのです。

デューデリジェンスの主な種類と調査内容

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスは、対象企業の財務状況を詳細に分析する最も基本的な調査です。公認会計士が財務諸表を精査し、売上高や利益の推移、資産や負債の構成、キャッシュフローの状況などを確認します。

スタートアップで特に注目されるのは、簿外債務の有無です。貸借対照表に計上されていない債務や将来発生する可能性のある偶発債務が隠れていないか、慎重にチェックされます。また、売上の計上基準が適切か、実態と乖離した会計処理がないかも重要な調査項目です。事業計画の妥当性や収益性の持続可能性も評価され、買収価格の算定根拠となります。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスでは、弁護士が企業の法的リスクを調査します。具体的には、株式関係や定款の内容、取締役会議事録の整備状況、主要な契約書の有効性などを確認します。

スタートアップにとって重要なのは、知的財産権の管理状況です。特許権や商標権が適切に登録されているか、従業員との間で知的財産の帰属が明確になっているかがチェックされます。また、取引先との契約書に不利な条項が含まれていないか、未解決の訴訟リスクがないかも精査されます。許認可が必要な事業の場合は、その取得状況や更新手続きの適切性も調査対象です。

ビジネスデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスは、事業の実態や市場での競争力を評価する調査です。事業モデルの持続可能性、市場環境や競合分析、主要顧客との関係性、技術力やノウハウの優位性などが対象となります。

スタートアップの場合、創業者やキーパーソンへの依存度が高いケースが多いため、経営陣の能力や事業への関与度も重要な評価ポイントです。また、買収後にシナジー効果が本当に見込めるのか、成長戦略に実現可能性があるかも詳しく分析されます。

ITデューデリジェンスとその重要性

ITデューデリジェンスは、情報システムやセキュリティ体制を評価する調査です。スタートアップではITが事業の根幹を成すケースが多く、近年その重要性が増しています。

システムの安定性、セキュリティ対策の適切性、個人情報の管理体制、ライセンス契約の適法性などが確認されます。特にSaaS企業やテック系スタートアップでは、システム統合の難易度やコストが買収判断に大きく影響するため、詳細な技術調査が実施されます。

デューデリジェンスの実施フローと準備のポイント

デューデリジェンスの基本的な流れ

デューデリジェンスは段階的に進められます。まず買い手側が調査チームを組成し、弁護士や公認会計士などの専門家を選定します。同時に秘密保持契約を締結し、調査の方針や範囲、スケジュールを決定します。

次に、買い手側から売り手側に対して資料請求リスト(IRL)が提出されます。このリストには財務諸表、契約書、従業員データなど、調査に必要な資料が網羅的に記載されています。売り手側はこれらの資料を期日までに準備し、データルームと呼ばれる専用の共有スペースにアップロードします。

資料の分析と並行して、買い手側は経営陣や各部門の責任者に対してインタビューを実施します。資料だけでは分からない実態や、追加で確認したい事項について質疑応答を行います。最終的に専門家が調査結果をレポートにまとめ、買い手側に報告します。この報告内容をもとに、買収価格や契約条件の最終交渉が行われます。

スタートアップが事前に準備すべき資料

デューデリジェンスをスムーズに進めるには、事前の資料準備が不可欠です。財務関連では、過去3年分程度の財務諸表、税務申告書、総勘定元帳、事業計画書などが必要になります。月次の試算表や資金繰り表も求められることが多いため、日頃から整備しておくことが重要です。

法務関連では、登記簿謄本、定款、株主名簿、取締役会議事録、重要な契約書、知的財産権に関する資料などを準備します。スタートアップ特有の資料として、ストック・オプションの発行状況や、投資契約書、株主間契約書なども対象となります。

人事労務関連では、従業員名簿、雇用契約書、就業規則、給与台帳、社会保険の加入状況などが確認されます。未払い残業代の有無は特に重視されるため、労働時間の管理状況も整理しておきましょう。

対応時の心構えと注意点

デューデリジェンスに対応する際は、誠実さと透明性が何より重要です。問題を隠そうとすると、後から発覚した際に信頼関係が損なわれ、取引が破談になるリスクがあります。認識している課題については正直に開示し、改善の意思を示すことが賢明です。

また、資料請求には迅速に対応することが求められます。回答の遅れは買い手側に不信感を与え、調査期間の長期化にもつながります。経営陣だけでなく、経理や人事担当者も巻き込んで、チーム全体で対応する体制を整えましょう。質問の意図が不明な場合は、曖昧な回答をせず、確認してから正確な情報を提供することが大切です。

デューデリジェンスで指摘されやすい問題と対策

簿外債務とストック・オプション関連の問題

スタートアップのデューデリジェンスで最も頻繁に指摘されるのが簿外債務です。退職給付引当金や賞与引当金が適切に計上されていない、取引先への債務保証が存在するなど、貸借対照表に表れない負債が潜んでいるケースがあります。これらは買収後に買い手側の負担となるため、事前に洗い出しが必要です。

またストック・オプションの発行状況も重要な調査項目です。発行済みのストック・オプションが適切に管理されていない、税制適格要件を満たしていない、従業員への説明が不十分といった問題がよく見られます。買収後にストックオプションの権利行使が集中すると、株式の希薄化が進み買い手側の持ち分が減少するため、発行状況の詳細な開示が求められます。

対策としては、日頃から会計顧問と連携し、適切な引当金の計上を行うことです。ストック・オプションについては発行履歴を一覧表にまとめ、権利行使のスケジュールを可視化しておきましょう。

O f All株式会社
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知的財産権の管理不備

スタートアップにとって知的財産は重要な資産ですが、管理が不十分なケースが散見されます。よくある問題として、商標登録や特許出願が完了していない、従業員や外部協力者との間で知的財産の帰属が契約で明確化されていない、オープンソースソフトウェアのライセンス違反があるといった点が挙げられます。

特に創業初期に開発されたプロダクトについて、知的財産権の帰属が曖昧なまま放置されているケースは要注意です。買収後に元従業員や協力者から権利を主張されるリスクがあり、買い手側は慎重に調査します。

対策としては、従業員との雇用契約書に職務発明の帰属条項を明記する、外部協力者とは業務委託契約で成果物の権利帰属を明確にする、重要な技術は早期に特許出願を行うなどの対応が有効です。

労務・契約関係の不備

労務管理の不備もデューデリジェンスで指摘されやすい問題です。未払い残業代の存在、労働時間の管理が不適切、就業規則が未整備または労働基準監督署への届出がされていない、社会保険の未加入者がいるといった問題が発覚すると、買収価格の減額要因となります。

また取引先との契約書が整備されていない、口頭での合意のみで進めている取引がある、契約書の自動更新条項が不利な内容になっているといった契約関係の問題も指摘されがちです。

対策としては、タイムカードやクラウド勤怠システムで労働時間を正確に記録し、未払い残業代が発生しないよう給与計算を適正化することが重要です。就業規則は社会保険労務士に相談して整備し、主要な取引先とは必ず契約書を締結する習慣をつけましょう。

スタートアップがデューデリジェンスをスムーズに乗り切るコツ

専門家を効果的に活用する

デューデリジェンスを成功させるには、専門家の力を借りることが重要です。買い手側だけでなく、売り手側も弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に相談することで、指摘される前に問題点を把握し対処できます。これをセルサイドデューデリジェンスと呼び、事前に自社の課題を洗い出すことで交渉を有利に進められます。

専門家を選ぶ際は、M&Aやスタートアップ支援の実績が豊富な人材を選定しましょう。スタートアップ特有の論点に精通している専門家であれば、ストック・オプションや種類株式、投資契約の扱いなど複雑な問題にも適切にアドバイスしてくれます。

また、顧問税理士や顧問弁護士が既にいる場合でも、M&Aの経験が少なければ別の専門家にセカンドオピニオンを求めることも検討すべきです。専門家への報酬は発生しますが、取引条件の改善や破談リスクの回避を考えれば、十分に回収できる投資といえます。

タイムマネジメントと優先順位付け

デューデリジェンスは限られた期間内で膨大な資料準備と質問対応を求められるため、効率的なタイムマネジメントが不可欠です。まず買い手側から提示される資料請求リストを受け取ったら、すぐに全項目を確認し、準備に時間がかかりそうな資料を特定します。

優先順位をつける際は、財務諸表や登記簿謄本など基本的な資料を最優先で準備し、早期に提出することで買い手側の信頼を得られます。一方で、すぐに用意できない資料については、いつまでに提出できるか明確なスケジュールを伝えることが大切です。

社内リソースが限られるスタートアップでは、経営陣だけで対応しようとせず、経理担当者や人事担当者にも協力を依頼し、役割分担を明確にしましょう。ただし、M&Aの事実を知る人数は最小限に抑え、情報管理には細心の注意を払う必要があります。

誠実な対応が信頼関係を構築する

デューデリジェンスをスムーズに乗り切る最大のコツは、買い手側に対して誠実に対応することです。問題点を隠そうとしたり、都合の悪い質問を避けたりする姿勢は、かえって不信感を招きます。認識している課題については正直に開示し、改善に向けた取り組みや今後の対応策を説明することで、買い手側の理解を得られます。

また質問の回答期限を守ることも信頼関係の構築につながります。もし期限内に回答できない場合は、事前に連絡して延期を依頼するなど、コミュニケーションを密に取りましょう。デューデリジェンスは単なる調査ではなく、買い手側との関係構築の場でもあります。誠実な対応を続けることで、交渉がスムーズに進み、最終的により良い条件での取引成立が期待できるのです。

まとめ

デューデリジェンスは、M&Aや大型資金調達において買い手側が実施する重要な調査プロセスです。財務、法務、ビジネス、ITなど多岐にわたる項目が精査され、企業の真の価値とリスクが評価されます。スタートアップにとっては負担の大きい作業ですが、事前準備と誠実な対応により、買い手との信頼関係を構築する絶好の機会となります。

簿外債務やストック・オプション管理、知的財産権の整備、労務契約の適正化など、指摘されやすい問題には事前に対処しておくことが重要です。専門家の力を借りながら優先順位をつけて効率的に対応し、透明性を持って情報開示することで、取引をスムーズに進められます。デューデリジェンスを単なる関門ではなく、企業体制を強化し成長を加速させるステップとして前向きに捉えましょう。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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