NPSとは?スタートアップが成長のために知るべき顧客ロイヤルティ指標を解説

この記事でわかること
  • NPSとは?
  • NPSの計算方法と3つの顧客セグメント
  • 顧客満足度との決定的な違い
  • スタートアップがNPSを導入する3つのメリット
  • スタートアップに最適なNPS活用ステップ

スタートアップにとって、限られたリソースで顧客の本質的な評価を把握することは、事業成長のポイントとなります。NPS(Net Promoter Score)は、たった1つの質問で顧客ロイヤルティを数値化できる指標として、世界中の企業で活用されています。

本記事では、NPSの基本概念から計算方法、顧客満足度との違い、そしてスタートアップが少人数でも実践できる具体的な活用ステップまでを解説します。

目次

NPSとは?

NPSの定義と誕生背景

NPS(Net Promoter Score)は、顧客ロイヤルティを数値化するための指標です。2003年にベイン・アンド・カンパニーのフレドリック・ライクヘルド氏によって提唱され、顧客が企業やサービスを他者に推奨する意向を測定することで、将来的な収益性を予測できる点が特徴です。

従来の顧客満足度調査が現時点での評価にとどまるのに対し、NPSは「他者への推奨意向」という未来志向の行動を測定します。これにより、単なる満足度ではなく、リピート購入や口コミによる新規顧客獲得といった実際の事業成長と強い相関を持つ指標として、世界中の企業で採用されています。

スタートアップにとってのNPSの重要性

スタートアップにとって、限られたリソースで最大の成果を出すことは最重要課題です。NPSは「たった1つの質問」から顧客の本質的な評価を把握できるため、大規模な調査体制を持たないスタートアップでも導入しやすい指標といえます。

また、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の検証や、顧客の声を迅速にプロダクト改善に反映させる際の指針としても有効です。推奨者を増やし批判者を減らすという明確な目標設定ができるため、チーム全体で顧客体験向上に向けた取り組みを進めやすくなります。

さらに、投資家やステークホルダーに対して、顧客からの評価を客観的な数値で示せることも大きなメリットです。事業の健全性や成長可能性を証明する材料として、NPSは投資判断の重要な指標にもなっています。

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NPSの計算方法と3つの顧客セグメント

NPSを測定する基本的な質問

NPSの測定は非常にシンプルです。顧客に対して「この商品やサービスを友人や同僚にどの程度推奨したいですか?」と質問し、0から10の11段階で評価してもらいます。0が「まったく推奨しない」、10が「非常に推奨する」を意味します。

この質問だけで顧客ロイヤルティの本質を捉えられる理由は、他者への推奨という行動が、顧客自身の評判やリスクを伴うためです。本当に信頼できるサービスでなければ、大切な友人や同僚に勧めることはありません。

3つの顧客セグメントの特徴

回答結果に基づいて、顧客は3つのセグメントに分類されます。

9から10点をつけた顧客は「推奨者」です。ブランドに高い愛着を持ち、積極的に他者へ推奨してくれる存在です。リピート率が高く、ポジティブな口コミを広げることで新規顧客獲得にも貢献します。

7から8点をつけた顧客は「中立者」です。サービスに満足はしているものの、競合他社の魅力的なオファーがあれば移行する可能性があります。積極的な推奨もしませんが、否定的な発信もしない層です。

0から6点をつけた顧客は「批判者」です。不満を抱えており、ネガティブな口コミを発信する可能性があります。サービスの評判を下げるだけでなく、カスタマーサポートの負担を増やす要因にもなります。

NPSスコアの計算式

NPSは推奨者の割合から批判者の割合を引いた値で算出されます。計算式は「推奨者の割合(%)− 批判者の割合(%)」です。中立者は計算に含まれません。

例えば、100人の回答のうち推奨者が30人、批判者が20人の場合、NPSは10(30% − 20%)となります。スコアは-100から+100の範囲で表され、数値が高いほど顧客ロイヤルティが高いことを示します。

顧客満足度との決定的な違い

測定する内容の本質的な差異

顧客満足度とNPSは、どちらも顧客の評価を測る指標ですが、測定する内容が根本的に異なります。顧客満足度は「現時点でどの程度満足しているか」という過去から現在の評価を問うものです。一方、NPSは「他者に推奨したいか」という未来の行動意向を測定します。

この違いは重要です。顧客満足度調査で「満足している」と回答した顧客の80%が、その後離反したという調査結果も存在します。満足していても、必ずしもリピート購入や口コミにつながるわけではないのです。NPSは推奨という具体的な行動を問うことで、より実態に近い顧客評価を捉えることができます。

事業成長との相関性

NPSと顧客満足度の最大の違いは、業績との相関性です。顧客満足度が高くても、必ずしも売上や成長率の向上につながるとは限りません。満足度という言葉の解釈は人によって幅広く、曖昧さを含むためです。

対してNPSは、事業成長との強い相関関係が実証されています。ベイン・アンド・カンパニーの調査では、多くの業界においてNPSトップ企業は競合他社の2倍の成長率を達成しています。推奨者は継続利用率が高く、購入金額も大きい傾向があり、さらにポジティブな口コミで新規顧客を呼び込むため、直接的に収益に貢献するのです。

スタートアップにとっての実用性

スタートアップにとって、NPSは顧客満足度よりも実用的な指標です。測定が簡単で、1つの質問から本質的な評価を得られるため、調査の負担が少なく済みます。また、推奨者を増やし批判者を減らすという明確な改善目標を設定できる点も魅力です。

さらに、NPSは投資家や経営陣にとっても理解しやすい指標です。事業の健全性や成長ポテンシャルを示す客観的なデータとして、資金調達やKPI設定の場面で活用できます。限られたリソースで最大の成果を求められるスタートアップには、NPSの方が実践的な価値を提供します。

スタートアップがNPSを導入する3つのメリット

メリット1:少ないリソースで顧客の本質を把握できる

スタートアップは限られた人員と予算の中で事業を運営しています。NPSは「たった1つの質問」で顧客ロイヤルティを測定できるため、大規模な調査体制や専門知識がなくても導入可能です。複雑な統計処理や分析ツールも必須ではなく、Googleフォームなどの無料ツールでも十分に測定できます。

また、顧客にとっても回答の負担が少ないため、高い回答率を期待できます。50問近い質問がある従来の顧客満足度調査では、途中離脱が発生しやすく、有効回答数の確保が課題でした。NPSなら5分以内で回答できる設計が可能で、多くのフィードバックを効率的に収集できます。

メリット2:プロダクト改善の優先順位が明確になる

NPSは推奨者、中立者、批判者という明確なセグメントを提供します。この分類により、どの顧客層にどのようなアプローチをすべきかが一目で分かります。批判者の不満を解消すれば中立者へ、中立者の体験を向上させれば推奨者へと引き上げることができ、具体的な改善目標を設定できます。

さらに、NPSの質問に加えて「その評価をつけた理由」を自由記述で聞くことで、プロダクトの強みと弱みが浮き彫りになります。推奨者からは成功要因を、批判者からは改善ポイントを学べるため、限られた開発リソースをどこに投入すべきか判断する材料になります。

メリット3:投資家やステークホルダーへの説得力が増す

スタートアップにとって、投資家への説明責任は重要です。NPSは世界標準の指標であり、客観的な数値として事業の健全性を示せます。売上やユーザー数だけでなく、顧客が本当にプロダクトを支持しているかを証明できるため、資金調達の場面で強力な武器となります。

また、業界平均や競合他社のNPSと比較することで、自社の市場ポジションを明確に示すことも可能です。NPSが継続的に改善していれば、顧客体験向上への取り組みが成果を出している証拠となり、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。

スタートアップに最適なNPS活用ステップ

ステップ1:調査の目的と対象者を明確にする

NPS調査を始める前に、何を知りたいのかを明確にしましょう。プロダクト全体の評価を知りたいのか、特定の機能やサービスについて知りたいのかによって、質問内容や対象者が変わります。

対象者の選定も重要です。全ユーザーを対象にするのか、一定期間以上の利用者に限定するのか、あるいは特定のプランや機能を使っている顧客に絞るのかを決めます。スタートアップの場合、まずは直近3ヶ月以内にアクティブなユーザーから始めるのが効果的です。サンプル数は最低でも100件、理想的には400件以上確保できると統計的な信頼性が高まります。

ステップ2:シンプルな調査票を設計する

基本となる推奨度の質問は「この商品やサービスを友人や同僚にどの程度推奨したいですか?」とし、0から10の11段階で回答してもらいます。この質問は必ず最初に配置しましょう。他の質問の後に置くと、バイアスがかかる可能性があります。

次に「その評価をつけた理由を教えてください」という自由記述の質問を追加します。これにより、スコアの背景にある具体的な理由が分かります。さらに必要に応じて、顧客の属性や利用状況に関する質問を2〜3問程度加えます。全体で5分以内に回答できる設計を心がけ、質問数は7問以内に抑えましょう。

ステップ3:調査を実施してデータを収集する

調査の実施方法は、スタートアップの状況に応じて選択します。メール配信、アプリ内ポップアップ、Webサイト上のフォームなど、顧客との接点に合わせた手法を選びましょう。無料で使えるGoogleフォームでも十分に実施可能です。

回答率を高めるコツは、適切なタイミングでの配信です。サービス利用直後や、重要な体験を終えた後に調査を送ると、回答してもらいやすくなります。また、調査の目的を簡潔に説明し、回答時間の目安を示すことで、顧客の協力を得やすくなります。

少人数でも始められるNPS実践法

無料ツールで今日から始める方法

スタートアップが少人数でNPSを始めるなら、まずは無料ツールを活用しましょう。Googleフォームなどを使えば、専門知識がなくても数十分でNPS調査を作成できます。推奨度の質問を0から10のスケールで設定し、理由を聞く自由記述欄を追加するだけで基本的な調査は完成です。

配信方法も工夫次第でコストをかけずに実施できます。既存の顧客メールリストがあればメールで配信し、WebサイトやアプリにフォームのURLを埋め込む方法も有効です。調査結果の集計は自動で行われるため、手作業での集計は不要です。スプレッドシートに回答を連携させれば、リアルタイムでデータを確認できます。

小規模でも効果的なデータ分析のコツ

少人数チームでは、複雑な統計分析よりもシンプルな分析から始めましょう。まずNPSスコアを計算し、推奨者・中立者・批判者の割合を把握します。次に、各セグメントの自由記述コメントを読み込み、共通するキーワードやテーマを抽出します。

批判者のコメントからは改善すべき課題が、推奨者のコメントからは強化すべき強みが見えてきます。ExcelやGoogleスプレッドシートでキーワードごとに分類すれば、頻出する問題点や評価ポイントが明確になります。高度なテキストマイニングツールがなくても、手動で20〜30件のコメントを分析するだけで十分な示唆が得られます。

チーム全体で改善を回すPDCAサイクル

NPS調査は実施して終わりではなく、結果を改善につなげることが重要です。少人数だからこそ、調査結果を全員で共有し、具体的なアクションを決める場を設けましょう。週次のミーティングで10分間、NPS結果を確認する時間を作るだけでも効果があります。

批判者には迅速にフォローアップを行い、不満の解消に努めます。個別にコンタクトを取り、問題を解決することで、批判者を中立者や推奨者に転換できる可能性があります。推奨者に対しては、感謝のメッセージを送ったり、レビューや紹介を依頼したりすることで、さらなるロイヤルティ向上を図れます。

定期的に調査を実施し、スコアの変化を追跡することで、改善施策の効果を検証できます。月次または四半期ごとの測定を習慣化し、データに基づいた意思決定を行う文化を育てましょう。

まとめ

NPSは、顧客ロイヤルティを数値化し、事業成長と強い相関を持つ指標です。たった1つの質問から顧客の本質的な評価を把握できるため、限られたリソースで運営するスタートアップにとって実用的なツールといえます。

顧客満足度との違いは、未来の行動意向を測定する点にあり、推奨者を増やし批判者を減らすという明確な改善目標を設定できます。無料ツールを活用すれば、専門知識がなくても今日から測定を開始できます。

重要なのは、調査を実施するだけでなく、結果を分析して具体的な改善アクションにつなげることです。批判者へのフォローアップや推奨者との関係強化を通じて、顧客体験を継続的に向上させましょう。NPSを定期的に測定し、データに基づいた意思決定を行う文化を育てることが、持続的な成長への第一歩となります。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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