アセットファイナンスとは?スタートアップが活用すべき資金調達の新選択肢

この記事でわかること
  • アセットファイナンスとは何か
  • スタートアップが知るべき3つの資金調達手法の違い
  • アセットファイナンスの具体的な種類と活用方法
  • スタートアップがアセットファイナンスを選ぶメリット
  • 注意すべきデメリットとリスク対策

スタートアップの資金調達において、従来の銀行融資やVC投資以外の選択肢として注目を集めているのが「アセットファイナンス」です。保有する売掛債権や知的財産、設備などの資産を活用して資金を調達するこの手法は、企業の信用力に依存せず、スピーディーな資金確保が可能という特徴があります。

特に創業間もないスタートアップにとって、株式の希薄化を避けながら成長資金を確保できる点は大きな魅力です。ファクタリングやABL、知的財産の活用など、多様な手法から自社に最適な方法を選択することで、キャッシュフローの改善と事業成長の加速を同時に実現できます。

本記事では、アセットファイナンスの基本的な仕組みから具体的な活用方法、メリット・デメリット、そして成功のポイントまで、スタートアップ経営者が知っておくべき情報をに解説します。

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目次

アセットファイナンスとは何か

資産を活用した資金調達の基本概念

アセットファイナンスとは、企業が保有する資産(アセット)を活用して資金を調達する手法です。土地や建物などの不動産、機械設備、在庫商品、売掛債権、知的財産権など、企業が持つあらゆる資産が対象となります。従来の融資とは異なり、企業の信用力ではなく資産そのものの価値に基づいて資金調達を行うため、創業間もないスタートアップでも活用可能な点が大きな特徴です。

仕組みと基本的な流れ

アセットファイナンスの基本的な仕組みは、保有資産を売却、もしくは担保として活用することで資金を得るというシンプルなものです。例えば、使用していない機械設備を売却して現金化したり、売掛債権をファクタリング会社に譲渡して早期に資金を回収したりする方法があります。重要なのは、資産から生じるキャッシュフローや資産価値そのものが評価の対象となる点です。これにより、企業の業績や信用格付けが十分でない場合でも、価値ある資産を保有していれば資金調達が可能となります。

コーポレートファイナンスとの本質的な違い

従来のコーポレートファイナンスは企業全体の信用力や将来の収益力を基盤とした資金調達であるのに対し、アセットファイナンスは特定の資産に焦点を当てた資金調達手法です。この違いにより、アセットファイナンスでは企業の財務状況に関わらず、資産価値に応じた資金調達が実現できます。また、資産の売却型を選択した場合は返済義務が発生しないため、キャッシュフローへの負担を最小限に抑えながら資金を確保できる点も、スタートアップにとって重要な違いといえるでしょう。

スタートアップが知るべき3つの資金調達手法の違い

デットファイナンス:負債による調達

デットファイナンスは、銀行融資や社債発行など、返済義務を伴う借入による資金調達です。スタートアップにとっては、日本政策金融公庫の創業融資や信用保証協会付き融資が代表的な選択肢となります。メリットは経営権を維持できる点ですが、定期的な返済と利息の支払いがキャッシュフローを圧迫します。特に売上が不安定な創業期には、返済負担が経営の足かせとなるリスクがあるため、慎重な計画が必要です。

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エクイティファイナンス:株式による調達

エクイティファイナンスは、新株発行により投資家から出資を受ける方法で、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの調達が典型例です。返済義務がないため資金繰りへの負担は軽減されますが、株式の希薄化により創業者の持分比率が低下します。また、投資家が経営に関与するケースも多く、迅速な意思決定が求められるスタートアップにとっては、経営の自由度が制限される可能性があることを理解しておく必要があります。

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アセットファイナンス:資産活用による調達

アセットファイナンスは、上記2つとは根本的に異なるアプローチです。保有資産を売却または担保として活用するため、企業の信用力や将来性の評価に依存しません。売掛債権のファクタリングや知的財産権の活用など、スタートアップが持つ限られた資産でも資金化が可能です。特に売却型を選択した場合は返済義務がなく、経営権の希薄化も起こりません。

3つの手法の使い分けポイント

成長段階や資金使途に応じて最適な手法は異なります。安定収入が見込める場合はデットファイナンス、急成長を目指す場合はエクイティファイナンス、そして保有資産を有効活用したい場合や短期的な資金ニーズにはアセットファイナンスが適しています。多くの成功したスタートアップは、これらを組み合わせて活用することで、柔軟な資金調達を実現しています。

アセットファイナンスの具体的な種類と活用方法

ファクタリング:売掛債権の早期資金化

ファクタリングは、スタートアップが最も活用しやすいアセットファイナンスの手法です。売掛債権をファクタリング会社に譲渡することで、通常の支払期日を待たずに現金を獲得できます。特にBtoBビジネスを展開するスタートアップでは、大手企業との取引で発生する売掛金を活用することで、信用力の高い債権として有利な条件で資金化が可能です。手数料は2者間で8-18%、3者間で2-9%程度が相場ですが、最短即日での入金も可能なため、急な資金ニーズに対応できる利点があります。

ABL(動産担保融資):在庫や設備の活用

ABL(Asset Based Lending)は、在庫商品や機械設備、原材料などの動産を担保に融資を受ける方法です。ハードウェアスタートアップやD2Cブランドなど、在庫を抱える事業モデルに適しています。融資型のため返済義務はありますが、不動産を持たないスタートアップでも、事業で使用している資産を担保に資金調達できる点が魅力です。金融機関への定期的な資産状況の報告が必要ですが、この過程で在庫管理の精度向上にもつながります。

知的財産の活用:特許権や商標権の資金化

技術系スタートアップにとって重要な選択肢が、特許権や商標権などの知的財産を活用した資金調達です。特許権の売却やライセンス供与により収益を得る方法のほか、知的財産を担保にした融資も可能です。特に、独自技術を持つディープテック企業では、研究開発段階での資金調達手段として有効です。ただし、知的財産の価値評価には専門性が必要なため、知財評価機関との連携が重要となります。

リースバック:資産の流動化と継続利用

リースバックは、所有する設備や不動産を一度売却し、その後リース契約により継続使用する手法です。オフィスや研究設備など、事業継続に必要な資産を手放すことなく資金調達が可能です。売却により一時的にまとまった資金を確保しつつ、固定資産税や維持管理コストを削減できるため、キャッシュフローの改善と財務の効率化を同時に実現できます。

スタートアップがアセットファイナンスを選ぶメリット

迅速な資金調達の実現

スタートアップにとって時間は最も貴重な資源の一つです。アセットファイナンスは、従来の銀行融資と比較して圧倒的にスピーディーな資金調達が可能です。特にファクタリングでは最短即日、ABLでも数日から1週間程度で実行できるケースが多く、急速な事業展開や突発的な資金ニーズに対応できます。ベンチャーキャピタルからの調達が数ヶ月かかることを考えると、この速さは大きなアドバンテージとなります。市場機会を逃さず、競合に先んじて事業を推進できる点で、スピード重視のスタートアップには理想的な選択肢です。

財務体質の改善とROA向上

アセットファイナンスの活用は、スタートアップの財務指標を大幅に改善する効果があります。資産を売却した場合、バランスシート上の資産が現預金に転換され、その資金で既存の借入を返済すれば総資産利益率(ROA)が向上します。また、売却型を選択すれば負債を増やすことなく資金調達できるため、自己資本比率も維持できます。これらの財務指標の改善は、将来的な銀行融資やシリーズA以降の資金調達時に有利に働き、投資家からの評価向上にもつながります。

経営の自主性を維持

エクイティファイナンスとは異なり、アセットファイナンスでは株式の希薄化が発生しません。創業者の持分比率を維持したまま資金調達できるため、経営の自主性と意思決定の速さを保つことができます。特に創業初期のスタートアップにとって、ビジョンを貫き、ピボットも含めた柔軟な戦略変更を行う自由度は極めて重要です。投資家との調整に時間を費やすことなく、市場の変化に素早く対応できる点は大きなメリットといえるでしょう。

信用力に依存しない調達

創業間もないスタートアップは、実績不足により銀行融資の審査に通らないケースが少なくありません。しかし、アセットファイナンスは企業の信用力ではなく、保有資産の価値に基づいて評価されるため、設立1年未満の企業でも利用可能です。価値ある売掛債権や知的財産を保有していれば、それらを活用して成長資金を確保できます。

注意すべきデメリットとリスク対策

手数料コストと収益性への影響

アセットファイナンスの最大のデメリットは、手数料の高さです。特にファクタリングでは、売掛先の信用力によって手数料率が大きく変動し、場合によっては年利換算で銀行融資を上回ることもあります。例えば、月次で8%の手数料は年利換算で96%に相当します。対策として、複数のファクタリング会社から相見積もりを取得し、手数料率と調達額のバランスを慎重に検討することが重要です。また、継続的な利用ではなく、短期的な資金ニーズに限定して活用することで、コスト負担を最小限に抑えることができます。

資産価値の変動リスク

保有資産の価値は市場環境や技術革新により大きく変動する可能性があります。特に在庫商品や機械設備は陳腐化リスクが高く、売却タイミングを誤ると想定より低い評価額となる恐れがあります。知的財産についても、競合技術の出現により価値が急速に低下することがあります。このリスクに対しては、定期的な資産評価を実施し、市場動向を注視しながら最適なタイミングで資金化することが求められます。専門家による資産査定を活用し、客観的な価値判断を行うことも重要です。

将来の資金調達への制約

アセットファイナンスで資産を売却または担保提供すると、将来の資金調達時に活用できる資産が減少します。特に優良な売掛債権や価値の高い知的財産を手放した後、追加の資金需要が発生した際に調達手段が限られるリスクがあります。対策として、資金調達計画を中長期的視点で策定し、どの資産をいつ活用するか戦略的に判断する必要があります。全ての資産を一度に活用するのではなく、段階的な実行により柔軟性を維持することが賢明です。

取引先との関係性への配慮

3者間ファクタリングでは売掛先に債権譲渡の通知が必要となり、資金繰りの懸念を持たれる可能性があります。これにより取引条件の見直しや、最悪の場合は取引停止のリスクもあります。2者間ファクタリングの選択や、売掛先との事前のコミュニケーションにより、関係性を維持しながら資金調達を実行することが重要です。

アセットファイナンスが適している企業の特徴

売掛債権を多く保有するBtoBスタートアップ

大手企業や官公庁と取引があるBtoBスタートアップは、アセットファイナンスの理想的な候補です。これらの売掛先は信用力が高いため、ファクタリングの手数料を低く抑えることができ、効率的な資金調達が可能となります。特にSaaS企業やシステム開発会社など、サービス提供から入金まで2-3ヶ月のタイムラグがある業態では、売掛債権の早期資金化により運転資金を確保し、事業拡大のスピードを加速させることができます。月額課金モデルで安定した売上があるスタートアップも、将来の売掛債権を活用した資金調達が検討できます。

知的財産を保有する技術系企業

特許や独自技術を持つディープテック、バイオテック、AI系スタートアップは、知的財産を活用したアセットファイナンスに適しています。研究開発に長期間を要し、製品化まで時間がかかる事業モデルでは、保有する特許権をライセンス供与したり、知財担保融資を活用することで、エクイティの希薄化を避けながら開発資金を確保できます。また、複数の特許を保有している場合、コア技術以外の周辺特許を戦略的に活用することで、主力事業への影響を最小限に抑えた資金調達が可能です。

在庫や設備を保有する製造・物販系企業

ハードウェアスタートアップ、D2Cブランド、製造業など、在庫や生産設備を保有する企業はABLの活用に適しています。季節変動が大きい事業では、繁忙期前の在庫仕入れ資金をABLで調達し、売上回収後に返済するサイクルを構築できます。また、高額な製造設備や検査機器を保有する企業は、リースバックにより設備を資金化しながら継続使用することで、設備投資の負担を軽減できます。

急成長期で短期資金需要が高い企業

月次成長率が高く、マーケティング投資や人材採用などで短期的な資金需要が頻発するスタートアップには、アセットファイナンスの機動性が大きな武器となります。次回の資金調達ラウンドまでのブリッジファイナンスとして活用することで、希薄化を最小限に抑えながら成長機会を逃さず事業を推進できます。

実行前に確認すべきポイントと成功の秘訣

資金調達の目的と金額の明確化

アセットファイナンスを実行する前に、まず資金使途と必要金額を具体的に定義することが不可欠です。運転資金なのか、設備投資なのか、マーケティング費用なのかによって、最適な手法と実行タイミングが変わります。例えば、3ヶ月後の大型案件の仕入れ資金であれば売掛債権のファクタリングが適していますが、1年以上の研究開発資金であれば知的財産の活用や設備のリースバックを検討すべきです。また、必要額に対して保有資産の価値が十分かを事前に査定し、不足する場合は他の調達手段との組み合わせを計画しておくことが重要です。

コスト比較と採算性の検証

アセットファイナンスの手数料を他の資金調達手段と比較し、トータルコストを算出することが重要となります。ファクタリングの手数料が月8%の場合、3ヶ月継続すると約24%のコストとなり、これが事業の利益率を上回っていないか慎重に検証する必要があります。単純な金利比較だけでなく、調達スピードや手続きの簡便性、将来の資金調達への影響も含めた総合的な判断が求められます。エクセルなどで複数シナリオのシミュレーションを作成し、最悪のケースでも事業継続が可能か確認しておきましょう。

信頼できるパートナー選定

ファクタリング会社やABL提供金融機関の選定は、成功を左右する重要な要素です。手数料の安さだけでなく、契約条件の透明性、担当者の専門性、過去の実績を総合的に評価する必要があります。特に悪質な業者を避けるため、金融庁の登録を確認し、契約書の内容を弁護士にレビューしてもらうことも検討すべきです。可能であれば、同業他社やメンターから推薦を得ることで、信頼性の高いパートナーを見つけることができます。

実行後のモニタリング体制

アセットファイナンス実行後も、資金の使用状況と効果を定期的にモニタリングし、当初の計画通りに進んでいるか確認することが重要です。特に継続的な利用を検討している場合は、財務指標への影響を月次で把握し、必要に応じて他の調達手段への切り替えを検討する柔軟性を持つことが成功につながります。

まとめ

アセットファイナンスは、スタートアップにとって従来の資金調達手法を補完する重要な選択肢です。売掛債権、知的財産、設備など、既存の資産を活用することで、企業の信用力に依存せず、迅速な資金調達が実現できます。特に、株式の希薄化を避けたい創業者や、銀行融資の審査基準を満たせない企業にとって、有効な解決策となるでしょう。

ただし、手数料コストや将来の調達制約など、デメリットも存在します。成功の鍵は、自社の資産状況を正確に把握し、資金使途と調達コストのバランスを慎重に検討することです。ファクタリング、ABL、リースバックなど、複数の手法から最適なものを選択し、必要に応じて他の資金調達手段と組み合わせることで、より効果的な財務戦略を構築できます。

アセットファイナンスを単なる緊急時の資金調達手段としてではなく、成長戦略の一部として位置づけることで、スタートアップの持続的な成長を支える強力なツールとなるはずです。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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