EBITDAとは?スタートアップが投資家と対話するために必要な財務指標の基礎知識

この記事でわかること
  • EBITDAとは何か
  • なぜスタートアップでEBITDAが重要なのか
  • EBITDAの計算方法
  • EBITDAと他の財務指標との違い
  • スタートアップがEBITDAを活用する際の注意点

スタートアップが投資家と対話する際、避けて通れないのが「EBITDA」という財務指標です。利払い前・税引き前・減価償却前利益を意味するこの指標は、企業の本質的な収益力を測る世界共通の物差しとして機能します。

特に資金調達やM&Aの場面では、企業価値をEBITDAの倍数で評価することが一般的であり、投資家との交渉を有利に進めるためには必須の知識となっています。

本記事では、EBITDAの基本的な意味から計算方法、活用時の注意点、そして投資家が重視する関連指標まで、スタートアップ経営者が押さえるべきポイントを実践的な視点で解説します。

目次

EBITDAとは何か

EBITDAの基本的な意味と読み方

EBITDAは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略称で、日本語では「利払い前・税引き前・減価償却前利益」と訳されます。読み方は「イービットディーエー」が最も一般的ですが、「イービッタ」と呼ばれることもあります。これは企業が本業で稼ぎ出すキャッシュフローに近い利益を表す指標で、金利や税金、減価償却費といった要素を除外することで、企業の純粋な収益力を測ることができます。

なぜ営業利益ではなくEBITDAなのか

営業利益は企業の本業による利益を示す重要な指標ですが、減価償却費が差し引かれているため、実際のキャッシュフローとは乖離が生じます。特にスタートアップのようにソフトウェア開発や設備投資を積極的に行う企業では、減価償却費の影響で営業利益が実態よりも低く見えてしまうケースが多くあります。EBITDAはこうした会計上の処理を排除し、事業が生み出す実質的なキャッシュ創出力を把握できる点が大きな特徴です。

スタートアップにとってのEBITDAの位置づけ

スタートアップにとってEBITDAは、投資家との対話において共通言語となる重要な指標です。成長フェーズにあるスタートアップは積極的な投資により赤字になることも多いですが、EBITDAを見ることで将来的な収益性のポテンシャルを示すことができます。また、国内外の投資家が企業価値を評価する際の標準的な指標となっているため、資金調達や事業売却などの局面で必ず理解しておくべき概念といえるでしょう。

なぜスタートアップでEBITDAが重要なのか

投資家との共通言語として機能する

スタートアップが資金調達を行う際、投資家は企業の将来性を評価するために様々な指標を用います。その中でもEBITDAは、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドが最も重視する指標の一つです。投資家は企業価値をEBITDAの倍数で評価することが多く、例えば「EBITDA×5倍」といった形で買収価格や投資額を検討します。スタートアップ経営者がこの指標を理解し、自社のEBITDAを正確に把握・説明できることは、投資家との交渉において大きなアドバンテージとなります。

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成長投資の影響を適切に評価できる

スタートアップは急成長を目指すため、人材採用やマーケティング、プロダクト開発に積極的に投資します。これらの投資は短期的には利益を圧迫しますが、将来的な成長の源泉となります。営業利益や純利益だけを見ると赤字でも、EBITDAがプラスであれば、事業自体はキャッシュを生み出せていることを示せます。特にSaaSビジネスのように初期投資が大きく、後から収益が積み上がるビジネスモデルでは、EBITDAは事業の健全性を判断する重要な指標となります。

EBITDAの計算方法

基本的な計算式

EBITDAの最も一般的な計算方法は「営業利益+減価償却費」です。財務諸表から簡単に算出でき、スタートアップが自社の収益力を把握する第一歩として最適です。例えば、営業利益が500万円、減価償却費が200万円の場合、EBITDAは700万円となります。この方法は損益計算書の数値をそのまま使えるため、経理担当者でなくても容易に計算できる点が大きなメリットです。

状況に応じた4つの計算アプローチ

実務では目的に応じて複数の計算方法が使われます。経常利益から算出する場合は「経常利益+支払利息+減価償却費」、税引前当期純利益を起点とする場合は「税引前当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費」、当期純利益から逆算する場合は「当期純利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費」となります。スタートアップの場合、特別損益が発生することは少ないため、営業利益ベースの計算が最も実態を反映しやすいといえます。

スタートアップ特有の調整項目

スタートアップのEBITDAを正確に算出する際は、いくつかの調整が必要になります。ストック・オプション費用は現金支出を伴わないため加え戻すことが一般的です。また、創業者の役員報酬が市場水準と大きく乖離している場合は、適正水準に調整して計算します。一時的な補助金収入や資産売却益なども、事業の継続的な収益力を評価する観点から除外することが重要です。これらの調整により算出される「正常化EBITDA」は、投資家が企業の真の収益力を判断する際の重要な指標となります。特にデューデリジェンスの場面では、この正常化プロセスが企業価値評価の鍵を握ることになるため、日頃から自社の調整項目を把握しておくことが大切です。

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EBITDAと他の財務指標との違い

EBITとの違い:減価償却費の扱い

EBITは「Earnings Before Interest and Taxes」の略で、利払い前・税引き前利益を意味します。EBITDAとの決定的な違いは減価償却費を含むか否かです。EBITは「経常利益+支払利息-受取利息」で計算され、減価償却費は含みません。スタートアップの文脈では、ソフトウェア開発やクラウドインフラへの投資が多い企業はEBITDAを、物理的な設備投資が少ないサービス業はEBITを使うケースが多く見られます。投資家との対話では、自社のビジネスモデルに応じて適切な指標を選択することが重要です。

営業利益・純利益との本質的な違い

営業利益は企業の本業による利益を示しますが、減価償却費が差し引かれているため、実際のキャッシュ創出力とは乖離があります。特にスタートアップは成長投資により減価償却費が大きくなりがちで、営業利益だけでは事業の実力を正確に評価できません。純利益はさらに税金や特別損益の影響を受けるため、企業の継続的な収益力を判断するには適していません。EBITDAはこれらの要素を除外し、事業が生み出す純粋なキャッシュフローに近い数値を示すため、成長企業の実力を測る上で最も適した指標といえます。

フリーキャッシュフローとの使い分け

フリーキャッシュフローは「営業利益+減価償却費-設備投資±運転資金の増減」で計算され、企業が自由に使える現金を示します。EBITDAが営業活動から得られる利益に焦点を当てるのに対し、フリーキャッシュフローは投資活動も含めた実際の現金創出力を表します。スタートアップの場合、急成長期は設備投資や運転資金の増加によりフリーキャッシュフローがマイナスになることも多いですが、EBITDAがプラスであれば事業自体は健全といえます。投資家はEBITDAで収益性を、フリーキャッシュフローで資金繰りを評価するため、両指標を併せて管理することが重要です。

スタートアップがEBITDAを活用する際の注意点

過度な設備投資のリスクを見落とす危険性

EBITDAは減価償却費を加え戻すため、過剰な設備投資による将来的な損失を見抜けない場合があります。スタートアップが急成長を目指して大規模な投資を行った結果、その投資が期待通りのリターンを生まなかったとしても、EBITDAは高い数値を示し続ける可能性があります。例えば、不要なオフィス拡張や過度なサーバー投資を行った場合、減価償却費が膨らんでも、EBITDAでは問題が表面化しません。投資判断を行う際は、EBITDAだけでなく、投資効率を示すROIやキャッシュフローも併せて確認し、設備投資の妥当性を常に検証することが重要です。

実際の手元資金との乖離

EBITDAが高くても、それがそのまま使える現金として残るわけではありません。スタートアップは運転資金の増加や借入金の返済、継続的な設備投資など、多くの資金需要を抱えています。例えば、売上が急成長している企業では、売掛金の増加により運転資金が膨らみ、EBITDAは黒字でも資金繰りに苦しむケースがよく見られます。また、税金や利息の支払いも実際には発生するため、EBITDAの数値だけで経営判断を下すことは危険です。月次のキャッシュフロー管理と併せて、実際の資金繰りを常に把握しておく必要があります。

会計基準の違いによる比較の難しさ

EBITDAは会計基準に基づく正式な指標ではないため、企業によって計算方法が異なることがあります。特にスタートアップでは、ストック・オプション費用の扱いや研究開発費の資産計上など、会計処理の判断が分かれる項目が多く存在します。競合他社との比較や投資家への説明の際は、自社がどのような計算方法を採用しているかを明確にし、必要に応じて複数の計算方法での数値を提示することが大切です。透明性の高い情報開示は、投資家との信頼関係構築にもつながります。

投資家が見るEBITDA関連指標

EV/EBITDA倍率:企業価値評価の基準

EV/EBITDA倍率は、企業価値(EV)をEBITDAで割った値で、投資回収期間を示す最も重要な指標です。企業価値は「株式時価総額+純有利子負債」で計算され、この倍率が低いほど割安と判断されます。スタートアップの場合、成長性を考慮して5〜10倍程度が一般的ですが、SaaS企業のように予測可能な収益モデルを持つ場合は15倍以上で評価されることもあります。投資家はこの倍率を業界平均や類似企業と比較して投資判断を行うため、自社の倍率が妥当な水準にあるか常に把握しておくことが重要です。シリーズAやBの資金調達では、この倍率が企業価値算定の出発点となることが多いです。

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EBITDAマージン:収益性の健全度

EBITDAマージンは「EBITDA÷売上高×100」で計算され、売上に対する収益性を示します。スタートアップの成長段階によって目標値は異なりますが、シード期はマイナスでも許容される一方、シリーズB以降では10%以上が期待されることが一般的です。SaaS企業では将来的に20〜30%を目指すケースが多く、この数値が競合他社と比べて優位にあるかが投資判断の重要な要素となります。投資家はこの指標の推移を見て、ビジネスモデルのスケーラビリティや収益改善の可能性を評価します。

EBITDA有利子負債倍率:財務健全性の指標

EBITDA有利子負債倍率は「(有利子負債-現預金)÷EBITDA」で計算され、借入金の返済能力を示します。スタートアップの場合、ベンチャーデットやコンバーティブルノートなどの負債性資金調達を行うことも多いため、この指標は重要です。投資家はこの指標で追加資金調達の必要性やデフォルトリスクを評価するため、適切な水準を維持することが次回の資金調達成功につながります。

EBITDAを改善する3つの実践的方法

売上高と営業利益の戦略的な向上

EBITDAを改善する最も直接的な方法は、売上高と営業利益を増やすことです。スタートアップの場合、プロダクトマーケットフィットの改善により顧客単価を上げる、あるいはカスタマーサクセスを強化して解約率を下げることが効果的です。特にSaaS企業では、アップセルやクロスセルによる既存顧客からの収益拡大が、新規顧客獲得よりも効率的にEBITDAを改善できます。価格戦略の見直しも重要で、競合分析を基に適正価格を設定することで、売上と利益率の両方を改善できる可能性があります。ただし、短期的な数値改善のために無理な値上げを行うと顧客離れにつながるため、価値提供とのバランスを常に意識することが大切です。

コスト構造の最適化と効率化

固定費と変動費の両面からコスト削減を進めることで、EBITDAを大きく改善できます。スタートアップでは、クラウドサービスの利用最適化、オフィスコストの見直し、外注業務の内製化などが主な削減対象となります。特に人件費については、採用の精度を上げて離職率を下げることで、採用コストと教育コストの削減につながります。また、マーケティング費用のROIを詳細に分析し、効果の低いチャネルから撤退することも重要です。ただし、成長に必要な投資まで削減してしまうと長期的な競争力を失うため、削減すべき費用と投資すべき費用を明確に区別する必要があります。

負債構造の見直しによる財務改善

有利子負債を削減することで、支払利息を減らしEBITDAを改善できます。スタートアップの場合、ベンチャーデットからエクイティファイナンスへの切り替えや、より低金利の資金調達手段への借り換えが選択肢となります。また、運転資金の効率化により借入依存度を下げることも効果的です。売掛金の回収期間短縮や在庫の適正化により、必要運転資金を減らすことで、借入金を圧縮できます。これらの施策により財務体質が改善されると、次回の資金調達でより有利な条件を引き出すことも可能になります。

まとめ

EBITDAは、スタートアップが投資家と対話し、企業価値を正確に伝えるために欠かせない財務指標です。営業利益に減価償却費を加えることで、会計処理の影響を排除し、事業の実質的なキャッシュ創出力を示すことができます。特に成長投資が先行するスタートアップにとって、赤字であってもEBITDAがプラスであれば、事業の健全性を投資家に示すことが可能です。

ただし、EBITDAだけに頼った経営判断は危険です。実際の手元資金との乖離や、過剰投資のリスクを見落とす可能性があるため、キャッシュフローや他の財務指標と併せて総合的に評価することが重要です。また、EV/EBITDA倍率やEBITDAマージンといった関連指標は、投資家が企業価値を判断する際の重要な基準となるため、常に把握しておく必要があります。

自社のEBITDAを正確に算出し、継続的に改善していくことは、資金調達の成功だけでなく、持続的な成長の実現にもつながります。この指標を理解し活用することで、投資家との建設的な対話が可能になるでしょう。

本記事が参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

O f All株式会社の編集局です。ファイナンス・資本政策・IPO・経営戦略・成長戦略・ガバナンス・M&Aに関するノウハウを発信しています。

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