- ミドルステージとは?
- ミドルステージの特徴と企業の状態
- ミドルステージにおける資金調達の方法と相場
- ミドルステージで直面する経営課題と対処法
- ミドルステージから次のステージへ進むためのポイント
スタートアップの成長過程を語る上で欠かせない「ミドルステージ」。事業が軌道に乗り始め、本格的な拡大フェーズに入るこの時期は、企業の将来を左右する重要な分岐点です。しかし、組織規模の急拡大や大規模な資金調達、収益化へのプレッシャーなど、多くの経営課題に直面するのもこの段階の特徴です。
本記事では、ミドルステージの定義から特徴、資金調達の方法、直面する課題と対処法、そして次のステージへ進むためのポイントまで、スタートアップ経営者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
ミドルステージとは?
ミドルステージの定義
ミドルステージ(Middle Stage)とは、スタートアップの成長過程において、事業が軌道に乗り始め、本格的な拡大フェーズに入る段階を指します。別名「エクスパンションステージ(Expansion Stage)」とも呼ばれ、アーリーステージとレイターステージの間に位置する重要な成長期です。
この段階では、製品やサービスが市場に受け入れられ始め、安定的な収益基盤が構築されつつあります。多くの企業では依然として赤字が続くものの、事業モデルの有効性が証明され、成長の見通しが明確になっている状態です。一部の企業では単月黒字化を達成し、収益の安定化が進むケースも見られます。
スタートアップの成長ステージにおける位置づけ
スタートアップの成長は一般的に「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」の4つのステージで区分されます。ミドルステージは、起業当初の不確実性を乗り越え、事業の再現性とスケーラビリティを実証する段階として位置づけられます。
シードやアーリーステージでは製品開発と市場検証が主な課題でしたが、ミドルステージでは事業規模の拡大と組織体制の強化が中心的なテーマとなります。投資ラウンドではシリーズC以降に該当し、より大規模な資金調達を通じて急速な成長を目指すフェーズです。この時期をいかに乗り切るかが、IPOやM&Aといった出口戦略の成否を左右する重要な分岐点となります。


ミドルステージの特徴と企業の状態
事業面の特徴
ミドルステージに入った企業は、製品やサービスが市場で確固たる地位を築き始めています。顧客基盤が拡大し、売上が継続的に成長する一方で、事業のスケールアップに向けた投資が必要となるため、多くの場合は赤字経営が続きます。ただし、単なる赤字ではなく、計画的な先行投資による赤字である点が重要です。
この段階では、PMF(Product Market Fit)を達成した製品をさらに磨き込み、市場シェアの拡大を目指します。新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客の維持や単価向上にも注力し、持続可能なビジネスモデルの確立を進めます。また、全国展開や海外進出など、地理的な事業拡大を検討する企業も増えてきます。
とは?スタートアップの成功を左右する概念を解説-300x157.png)
組織面の特徴
組織規模は従業員20名以上に拡大し、本格的な組織づくりが求められる時期です。創業メンバーだけでは対応しきれなくなり、専門性を持った人材の採用が加速します。
具体的には、人事部や広報部門といった管理部門の設置、マーケティングチームや営業組織の強化、エンジニアやプロダクトマネージャーの増員などが進みます。経営陣も拡充され、CFOやCOOといった専門経営人材を迎え入れるケースも少なくありません。
この時期の組織づくりでは、スタートアップ特有のスピード感を維持しながら、持続的な成長を支える仕組みや制度を整備することが求められます。評価制度の導入、企業文化の浸透、意思決定プロセスの明確化など、組織基盤の強化が重要な経営課題となります。

ミドルステージにおける資金調達の方法と相場
主な資金調達方法
ミドルステージでは、複数の資金調達手段を組み合わせて活用することが一般的です。最も代表的なのがベンチャーキャピタル(VC)からのエクイティファイナンスで、シリーズC以降の投資ラウンドで実施されます。この段階では企業の実績が評価されるため、複数のVCから同時に出資を受けるケースも増えてきます。
また、事業の安定性が認められることで、金融機関からのプロパー融資や、地方自治体・信用保証協会と連携した制度融資も利用しやすくなります。デットファイナンスは株式の希薄化を避けられるメリットがあり、エクイティと組み合わせて活用する企業が多く見られます。
さらに、大手企業とのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)による資本業務提携も選択肢となります。資金調達だけでなく、事業シナジーや販路拡大といった戦略的価値も得られる点が特徴です。補助金や助成金も引き続き活用可能ですが、入金までに時間を要するため計画的な申請が必要です。




資金調達額の相場と期間
ミドルステージにおける資金調達額の相場は、数億円から数十億円規模となります。シリーズC以降では、事業拡大に必要な人材採用費、マーケティング投資、システム開発費などを賄うため、アーリーステージよりも大きな金額が必要です。
資金調達に要する期間は、投資家からのエクイティファイナンスで半年以上、金融機関からの融資で数カ月程度が目安となります。複数の投資家との交渉や詳細なデューデリジェンスが行われるため、早期からの準備が重要です。資金需要を見越して、余裕を持ったスケジュールで調達活動を進めることが成功の鍵となります。

ミドルステージで直面する経営課題と対処法
組織マネジメントの課題
ミドルステージでは、急速な人員増加に伴う組織マネジメントの複雑化が大きな課題となります。創業期の少人数体制では通用していた阿吽の呼吸やインフォーマルなコミュニケーションだけでは、組織を円滑に運営できなくなります。
対処法としては、明確な組織構造の設計と権限委譲の仕組みづくりが不可欠です。部門やチームの役割を明確化し、意思決定プロセスを整備することで、スピード感を維持しながら組織の拡大に対応できます。また、企業理念やバリューを言語化し、全社で共有することで、組織文化の希薄化を防ぐことが重要です。定期的な全社ミーティングや1on1の実施など、コミュニケーションの質と量を確保する施策も効果的です。


事業成長と収益化のバランス
ミドルステージでは、事業規模の拡大を追求しながらも、収益化への道筋を明確にする必要があります。成長のための先行投資を続けつつ、単月黒字化や損益分岐点の達成を目指すバランス感覚が求められます。
この課題に対しては、KPIの適切な設定と定期的なモニタリングが重要です。売上成長率だけでなく、顧客獲得コスト(CAC)やライフタイムバリュー(LTV)といった収益性指標も注視し、健全な成長を維持します。また、事業の優先順位を明確にし、リソースを集中投下する領域を絞り込むことも必要です。
さらに、既存事業の収益性向上と新規事業への投資のバランスを取りながら、中長期的な成長戦略を描くことが、次のステージへの移行を成功させる鍵となります。
とは?スタートアップの成長に欠かせない指標を解説-300x157.png)
とは?スタートアップが知るべき計算方法と改善策を解説-300x157.png)
ミドルステージから次のステージへ進むためのポイント
収益性の確立と事業の安定化
レイターステージへ移行するためには、事業の収益性を確立し、持続可能な成長モデルを構築することが最優先課題です。単月黒字化から単年黒字化へと進め、安定的にキャッシュフローを生み出せる体制を整えます。
そのためには、既存事業の収益構造を最適化し、不採算部門の見直しや効率化を進めることが重要です。顧客単価の向上、解約率の低減、営業効率の改善など、具体的な施策を通じて収益性を高めます。また、市場シェアの拡大だけでなく、競合優位性を確立し、持続的な成長を支える差別化要因を強化することも必要です。
事業の再現性とスケーラビリティが証明されることで、投資家からの信頼を獲得し、より大規模な資金調達やIPOへの道が開けます。
イグジット戦略の明確化
レイターステージに進むためには、IPOやM&Aといった出口戦略を具体的に検討し始める必要があります。経営陣は中長期的なビジョンを明確にし、それに基づいた戦略的意思決定を行います。
IPOを目指す場合は、上場準備チームの組織化、内部統制の整備、監査法人や主幹事証券会社との連携など、準備に2年から3年程度を要します。財務報告体制の構築やコーポレートガバナンスの強化も不可欠です。
M&Aを視野に入れる場合は、戦略的パートナーとの関係構築や、企業価値を高めるための施策を計画的に実行します。いずれの選択肢においても、経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得することが重要です。明確なイグジット戦略を持つことで、組織全体が同じ方向を向いて成長を加速させることができます。

各成長ステージとの比較(シード・アーリー・レイター)
シードステージとの違い
シードステージは、事業アイデアやコンセプトを持ちながらも、まだ起業前もしくは起業直後の段階です。具体的な製品やサービスは実現しておらず、市場調査や仮説検証(PSF:Problem Solution Fit)を行う時期にあたります。
従業員規模は創業メンバーを中心とした3名から5名程度で、資金調達はエンジェル投資家やシードアクセラレーターから数千万円規模が一般的です。この段階では、事業アイデアの質と創業チームの実行力が評価の中心となります。
一方、ミドルステージでは既に製品が市場に受け入れられ、安定的な収益を生み出している点が大きく異なります。組織規模も20名以上に拡大し、数十億円規模の資金調達を行うなど、事業の実績と成長性が評価されるステージです。

アーリーステージとの違い
アーリーステージは、起業後に事業を立ち上げ、軌道に乗せるまでの段階を指します。PMF(Product Market Fit)の達成を目指し、製品を磨き込みながら初期顧客を獲得していく時期です。従業員規模は5名から20名程度で、シリーズAからシリーズBの投資ラウンドで数億円から数十億円の資金調達を行います。
この段階では、製品の市場適合性を証明することが最優先課題であり、依然として不確実性が高い状態です。顧客からのフィードバックを基に、頻繁なピボットや製品改善が行われます。
ミドルステージでは、PMFが達成済みであり、事業モデルの有効性が実証されています。焦点は製品開発から事業拡大へと移り、マーケティングや営業体制の強化、組織基盤の整備が中心的なテーマとなります。



レイターステージとの違い
レイターステージは、組織が確立され経営が安定化する段階で、ミドルステージの次に位置します。従業員規模は30名以上、業種によっては100名を超え、IPOやM&Aを具体的に検討する時期です。
単月黒字化ではなく単年黒字化を達成し、安定的な収益基盤が構築されています。シリーズD以降の投資ラウンドで数十億円規模の資金調達を行い、メイン事業の拡大と新規事業の開発を並行して進めます。
ミドルステージとの最大の違いは、収益の安定性と事業の確実性です。レイターステージでは成長の再現性が証明されており、大規模なマーケティング投資や戦略的M&Aなど、より積極的な事業展開が可能になります。

まとめ
ミドルステージは、スタートアップが事業の有効性を証明し、本格的な成長軌道に乗る重要な時期です。この段階では、製品が市場に受け入れられ安定的な収益基盤を構築しつつ、組織規模を20名以上に拡大し、数十億円規模の資金調達を通じて事業のスケールアップを目指します。
一方で、急速な組織拡大に伴うマネジメントの複雑化や、成長と収益化のバランスといった経営課題にも直面します。これらの課題を乗り越え、収益性の確立と明確なイグジット戦略を描くことが、レイターステージへの移行とIPO成功への鍵となります。自社の成長段階を正しく理解し、各ステージに応じた適切な経営判断を行うことで、持続的な成長を実現できるでしょう。
本記事が参考になれば幸いです。

