- SPAC上場とは何か
- SPAC上場が注目される背景
- SPAC上場の基本的な仕組み
- SPAC上場のメリット
- SPAC上場のデメリット
近年、米国を中心に注目を集めているSPAC上場。従来のIPOに比べて短期間で上場を実現できる新たな資金調達手段として、多くのスタートアップが活用しています。しかし、迅速性というメリットの一方で、リスクも存在するため慎重な検討が必要です。
本記事では、SPAC上場の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、実際の成功事例と失敗事例、日本における導入の現状まで詳しく解説します。スタートアップが上場手段を検討する際の判断材料として、ぜひお役立てください。
SPAC上場とは何か
SPACの定義と基本概念
SPAC(Special Purpose Acquisition Company)とは、日本語で「特別買収目的会社」と訳される上場の仕組みです。一般的な企業とは異なり、SPACは自ら事業を営まず、未上場企業を買収して上場させることだけを目的として設立されます。
SPACは「空箱」のような存在で、設立時点では具体的な事業内容を持ちません。まず著名な投資家や経営者がSPACを設立して株式市場に上場し、投資家から資金を調達します。その後、調達した資金を使って有望な未上場企業を買収し、両社が合併することで、買収された企業が従来のIPO手続きを経ずに上場を実現します。
従来のIPOとの違い
従来のIPOでは、企業自身が上場審査を受け、長期間の準備期間と厳格な審査を経て上場します。一方、SPAC上場では、すでに上場しているSPACが未上場企業を買収する形を取るため、買収される企業は直接的な上場審査を受けません。このため、通常のIPOと比較して上場までの期間が短く、手続きも簡素化されるという特徴があります。
SPACの別称
SPACは「ブランクチェック・カンパニー(白紙委任会社)」や「空箱上場」とも呼ばれています。これは、投資家がSPACに投資する時点では買収対象が決まっておらず、経営陣の判断を「白紙委任」する形になること、また事業実体のない「空箱」状態で上場することに由来しています。
SPAC上場が注目される背景
米国市場での急速な拡大
SPAC上場は米国で2020年から2021年にかけて急速に拡大しました。2019年には59件だったSPAC上場が、2020年には248件、2021年には613件と大幅に増加し、調達額も1,625億ドル(約18兆円)に達しています。この背景には、新型コロナウイルス対策による大規模な金融緩和があり、市場に豊富な資金が流入したことが挙げられます。
また、ソフトバンクグループの孫正義氏をはじめ、著名な投資家や元スポーツ選手などがSPACの設立者(スポンサー)として参画したことも、SPAC市場の信頼性向上と注目度の高まりにつながりました。
従来のIPO手続きの課題
従来のIPO手続きには、スタートアップにとって大きな課題がありました。上場準備から完了までに通常2〜3年という長い期間を要し、その間に厳格な審査や財務情報の開示、内部管理体制の整備など多くの準備が必要です。また、専門家の起用や体制構築には高額なコストもかかります。
さらに、市場環境によっては上場のタイミングを逃してしまうリスクもあり、成長著しいスタートアップにとって、この時間とコストは大きな負担となっていました。
スタートアップにとっての魅力
SPAC上場は、これらの課題を解決する新たな選択肢として注目されました。上場までの期間が1〜2年程度に短縮され、手続きも簡素化されるため、迅速に資金調達と上場を実現できます。特に、将来性は高いものの実績が少ないスタートアップにとって、著名なスポンサーの信用力を活用して市場から資金を調達できる点は大きな魅力となりました。
SPAC上場の基本的な仕組み
SPACの設立と上場
SPAC上場のプロセスは、まずスポンサーと呼ばれる投資家や経営者がSPACを設立することから始まります。スポンサーは通常、実績豊富な投資家やPEファンド、事業経営の経験が豊富な人物が担い、自己資金を投入して一定の株式を保有します。
設立されたSPACは速やかに株式市場に上場し、幅広い投資家から資金を調達します。この段階では買収対象は決まっておらず、業界や規模などの大まかな投資方針のみが示されます。調達した資金の大部分は、投資家保護の観点から信託口座に預けられ、買収が完了するまで自由に使用することはできません。
買収対象企業の選定
SPAC上場後、スポンサーは一定期間内(通常24ヶ月以内)に未上場企業を買収する必要があります。この期限内に適切な買収先を見つけられない場合、SPACは解散され、調達資金は利息を付けて投資家に返還されます。
スポンサーは買収候補企業の事業性や成長性、財務状況などを評価し、デューデリジェンス(企業価値評価)を実施します。買収条件について企業と交渉を行い、合意に至れば株主総会での承認を経て買収が正式に決定します。なお、買収に反対する投資家には償還権があり、資金の返還を受けることができます。
合併による上場の実現
買収が実行されると、SPACと買収された企業が合併します。この際、買収された企業を存続会社、SPACを消滅会社として合併が行われ、結果として買収された企業が上場企業としての地位を獲得します。これにより、従来のIPO手続きを経ずに上場が実現するのです。
SPAC上場のメリット
上場までの期間短縮とコスト削減
SPAC上場の最大のメリットは、上場までの期間を大幅に短縮できることです。従来のIPOでは準備から完了まで2〜3年を要するのに対し、SPAC上場では1〜2年程度で上場を実現できます。すでに上場しているSPACと合併する形を取るため、買収される企業は直接的な上場審査を受ける必要がなく、手続きが簡素化されます。
また、期間短縮に伴い、準備にかかるコストも抑えられます。専門家の起用費用や体制整備にかかる期間が短くなるため、スタートアップにとって大きな負担軽減となります。市場環境に左右されずに上場時期を固定できる点も、事業計画を立てやすいという利点があります。
柔軟な資金調達と企業価値の交渉
SPAC上場では、スポンサーとの交渉を通じて企業価値や資金調達額を決定できます。従来のIPOでは市場の需給関係で公開価格が決まりますが、SPAC上場では交渉次第で有利な条件を確保できる可能性があります。
また、実績が少ないスタートアップでも、著名なスポンサーの信用力を背景に多額の資金を調達できます。スポンサーが業界の専門家であれば、上場後の事業展開において助言や人脈の提供を受けられる可能性もあります。
投資家にとってのメリット
投資家側にも、一般の個人投資家が未公開企業に間接的に投資できるというメリットがあります。通常、未公開企業への投資は機関投資家やベンチャーキャピタルに限られていますが、SPAC上場を通じて市場で株式を購入できます。また、買収に反対する場合は償還権を行使して資金を回収でき、一定の投資家保護措置が設けられています。
SPAC上場のデメリット
期限内の買収完了プレッシャー
SPAC上場の大きなデメリットは、設立から通常24ヶ月以内に買収を完了させなければならないという時間的制約です。この期限により、スポンサーは適切な買収先を見つけるプレッシャーを受けることになり、急いで交渉を進めるケースも想定されます。
期限が近づくにつれて交渉の立場が弱まり、買収対象企業が不利な条件を提示してくる可能性があります。また、デューデリジェンスが不十分になり、粉飾決算や簿外債務などの問題が後から発覚するリスクも高まります。実際に米国では、買収を急いだ結果、上場後に虚偽報告や法令違反が発覚した事例も複数報告されています。
上場準備不足によるリスク
従来のIPOと比較してSPAC上場は手続きが簡素なため、十分な準備ができないまま上場する企業も少なくありません。内部管理体制の整備や情報開示の仕組みが不十分な状態で上場すると、買収後の企業の財務状況や成長見通しが市場の期待に応えられず、株価の急落や業績悪化を招くリスクがあります。
実際に米国では、SPAC上場後に株価が大幅に下落した事例や、経営破綻に至った企業も存在します。スピードを優先するあまり、上場企業としての体制構築が後回しになってしまう危険性があるのです。
投資家にとってのリスク
投資家側のリスクとして、買収対象が決まっていない段階で投資する必要がある点が挙げられます。経営陣の能力や判断力に依存することになり、適切な買収先が見つからなかった場合や選定企業が期待通りに成長しなかった場合には損失を被る可能性があります。また、未上場企業は情報開示が限られているため、投資判断に必要な情報を十分に得られないという課題もあります。
実際のSPAC上場事例
注目された成功事例
SPAC上場を活用して市場に参入した代表的な事例として、リチャード・ブランソン氏が率いる宇宙開発ベンチャー「Virgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)」があります。2019年10月にSPACとの合併によりニューヨーク証券取引所に上場し、宇宙旅行会社として株式公開した世界初の企業となりました。この成功がSPAC取引ブームの先駆けとなりました。
また、ソフトバンクグループが出資する東南アジア配車最大手「Grab(グラブ)」は、2021年12月にナスダック市場に上場しました。合併時の評価額は346億ドルに達し、SPAC合併案件としては過去最大級の規模となりました。自動運転技術を開発する「Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)」もSPACを通じてナスダックに上場し、先進的な技術企業の資金調達手段として注目を集めました。
問題が発覚した事例
一方で、SPAC上場後に問題が発覚した事例も存在します。電気自動車トラックメーカー「Nikola(ニコラ)」は2020年6月に上場後、技術内容や事業実績に関する虚偽報告が発覚し、創業者が辞任する事態となりました。株価も大幅に下落し、投資家に大きな損失をもたらしました。
シェアオフィス大手「WeWork(ウィーワーク)」も、2021年にSPAC上場を果たしましたが、その後株価は低迷を続け、2023年11月に経営破綻しています。
日本企業の動向
日本企業では、空飛ぶバイクを開発する「A.L.I. Technologies」が2023年2月に米国ナスダック市場にSPAC上場を果たしました。日本企業として初の事例でしたが、投資家の99%が資金を引き揚げ、想定していた調達額の約1%しか確保できないという厳しい結果となりました。
日本におけるSPAC上場の現状と展望
日本でのSPAC制度の検討状況
現在、日本ではSPAC制度は導入されていません。日本の証券取引所では「実体を持たない箱会社の株式上場」が認められていないため、SPAC自体の設立や上場ができない状況です。
しかし、2020年から2021年にかけての米国でのSPACブームを受けて、日本でも導入可能性の検討が始まりました。2021年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」において、SPAC導入に必要な制度整備について検討することが明記されました。また、同年10月には東京証券取引所が「SPAC制度の在り方等に関する研究会」を設置し、複数回の会合を通じて米国の動向や投資家保護の論点整理を行っています。
導入に向けた主な課題
SPAC制度を日本に導入する場合、いくつかの重要な課題があります。
第一に、投資家保護の仕組み整備です。信託拘束、償還権、スポンサー報酬の透明化など、投資家を守るための制度設計が不可欠となります。
第二に、未上場企業の適格性評価です。短期間での上場を許可する分、従来のIPOよりも厳格な審査基準をどう担保するかが重要な論点となっています。
第三に、既存のIPO市場との関係性です。日本は従来のIPO市場が比較的活発なため、SPACがどのような補完的役割を果たせるかが焦点となります。第四に、国際的な投資資金を呼び込むための海外制度との整合性も課題として挙げられています。
今後の見通し
現時点では、日本におけるSPAC導入は慎重な姿勢が続いています。特に米国でのSPAC市場が規制強化を経て急速に縮小したこともあり、拙速な導入はリスクが高いとの見方が主流です。
ただし、スタートアップ企業の育成や資本市場の国際競争力強化の観点から、中長期的には制度導入の検討が再び進む可能性があります。その際には、米国の経験を踏まえた透明性の高い仕組みと強固な投資家保護策が前提条件となると考えられます。
スタートアップがSPAC上場を検討する際のポイント
SPAC上場に向いている企業の特徴
SPAC上場は、すべてのスタートアップに適しているわけではありません。特に向いているのは、急速な成長機会を捉えるために短期間での資金調達が必要な企業です。革新的な技術やビジネスモデルを持ち、市場投入のスピードが競争優位につながるテクノロジー企業やフィンテック企業などは、SPAC上場の恩恵を受けやすいといえます。
また、強力なリーダーシップと実績を持つ経営陣がいる企業も成功しやすい傾向があります。SPACのスポンサーや投資家は経営陣の信頼性とビジョンを重視するため、過去の成功実績や業界での評価が高い経営者がいることが重要です。
一方、ビジネスモデルが不確実で収益性が不透明な企業や、情報開示に課題がある企業はSPAC上場を避けるべきです。上場後に株価が大幅に下落するリスクが高く、長期的な企業価値の向上には結びつかない可能性があります。
従来のIPOとの比較検討
SPAC上場を検討する際は、従来のIPOとのメリット・デメリットを慎重に比較する必要があります。迅速な上場と資金調達というメリットがある一方、上場企業としての準備不足や市場からの信頼獲得という観点では従来のIPOが優れている面もあります。
自社の成長戦略、資金需要のタイミング、ブランド価値の重要性などを総合的に評価し、どちらの手段が企業価値の最大化につながるかを判断することが重要です。
スポンサー選定の重要性
SPAC上場を選択する場合、スポンサーの選定が成否を左右します。業界での実績や専門知識を持つスポンサーを選ぶことで、買収交渉を有利に進められるだけでなく、上場後の事業展開においても助言や人脈提供を受けられる可能性があります。スポンサーの信頼性、透明性、過去の実績を十分に調査し、自社のビジョンと合致するパートナーを見極めることが成功への鍵となります。
まとめ
SPAC上場は、従来のIPOに比べて短期間・低コストで上場を実現できる資金調達手段です。特に急成長を目指すスタートアップにとって、迅速な資金調達と市場参入は大きな魅力となります。
しかし、期限内の買収プレッシャーや準備不足によるリスクも存在し、米国では上場後に問題が発覚した事例も少なくありません。日本ではまだ制度が導入されていませんが、今後の動向には注目が必要です。
スタートアップが上場を検討する際は、SPAC上場と従来のIPOのメリット・デメリットを比較し、自社の成長戦略や資金需要のタイミングに最適な手段を選択することが重要です。特にスポンサー選定は成否を左右するため、慎重な判断が求められます。
本記事が参考になれば幸いです。

