- 取締役会とは
- 取締役会と株主総会・経営会議の違い
- 取締役会の3つの役割と決議事項
- 取締役会設置のメリット・デメリット
- 取締役会の設置が必要な会社
取締役会は、会社の経営方針や重要事項を決定する機関です。3名以上の取締役で構成され、業務執行の意思決定や取締役の監督、代表取締役の選定などの重要な役割を担います。すべての株式会社に設置義務があるわけではありませんが、公開会社や監査役会設置会社などは会社法で設置が義務付けられています。
取締役会を設置することで迅速な意思決定や社会的信用の向上といったメリットがある一方、役員報酬の負担や開催の手間といったデメリットもあります。
本記事では、スタートアップが押さえておくべき取締役会の基本知識から開催の流れ、効果的な運営方法まで解説します。
取締役会とは
取締役会とは、会社の経営方針や重要事項を決定するために株式会社に設置される機関です。株主総会で選任された3名以上の取締役によって構成され、会社の業務執行に関する意思決定や取締役の職務執行の監督を行います。
取締役会は会社法で詳細な規定が定められており、設置することで経営の透明性や健全性を高めることができます。ただし、すべての株式会社に設置義務があるわけではなく、一部の会社を除いて設置は任意です。
取締役会の基本的な構成
取締役会を設置する場合、最低でも取締役3名以上と監査役1名以上が必要です。監査役は取締役の業務執行が適正に行われているかを監査する独立した立場の役員で、取締役会への出席義務があります。なお、非公開会社であれば監査役の代わりに会計参与を選任することも可能です。
取締役会は代表取締役を含む複数の取締役で構成されるため、特定の個人による独断的な経営判断を防ぎ、組織的な意思決定を実現する仕組みとなっています。
取締役会の開催頻度
会社法では、取締役会を最低でも3ヶ月に1回以上、年4回以上開催することが義務付けられています。これは代表取締役や業務執行取締役が自己の職務執行状況を取締役会に報告する必要があるためです。
開催時期に制限はないため、企業の状況に応じて月1回など頻繁に開催することも可能です。スタートアップの場合、重要な経営判断が求められる局面では臨時取締役会を招集し、迅速な意思決定を行うケースも多く見られます。開催場所についても法律上の制限はなく、対面だけでなくオンライン形式での開催も認められています。
取締役会と株主総会・経営会議の違い
取締役会は株主総会や経営会議とよく比較されますが、それぞれ明確な違いがあります。会社の重要事項を扱う点では共通していますが、構成員や決議事項、法的な位置づけが異なるため、その違いを正しく理解しておくことが重要です。
取締役会と株主総会の違い
株主総会は会社の所有者である株主によって構成される、株式会社の最高意思決定機関です。取締役会との主な違いは以下の通りです。
構成員の違い
取締役会は3名以上の取締役で構成されるのに対し、株主総会は全ての株主で構成されます。取締役会の招集権者は原則として各取締役ですが、株主総会は代表取締役が招集するのが一般的です。
決議事項の違い
株主総会では定款変更や取締役・監査役の選任・解任、役員報酬の決定など、会社の根幹に関わる事項を決議します。一方、取締役会では重要な財産の処分や譲受け、多額の借財、支配人の選任・解任、代表取締役の選定・解職など、経営の具体的な業務執行に関する事項を決定します。
決議要件の違い
取締役会は過半数の取締役の出席と出席者の過半数の賛成で決議が成立します。株主総会は決議内容によって普通決議・特別決議・特殊決議があり、それぞれ異なる要件が定められています。
取締役会を設置すると、株主総会の権限事項の一部を取締役会で決議できるため、年1回の株主総会を待たずに迅速な意思決定が可能になります。
取締役会と経営会議の違い
経営会議は会社が任意で設置する会議体で、取締役会とは法的な位置づけが大きく異なります。取締役会や株主総会は会社法で開催方法や決議要件が厳格に定められていますが、経営会議には法的な規定がなく、メンバーや開催方法を自由に決めることができます。
経営会議の参加者は取締役に加えて執行役員や事業部長などのマネジメント層で構成されることが多く、経営方針や事業進捗などについて議論します。取締役会よりも高い頻度で開催されるのが一般的で、週1回や月1回など柔軟に設定できます。
取締役会の3つの役割と決議事項
取締役会は会社法第362条で定められた重要な役割を担っており、企業の健全な経営を支える中核的な機関として機能します。主な役割は「業務執行の決定」「取締役の職務執行の監督」「代表取締役の選定・解職」の3つです。
業務執行の決定
取締役会の第一の役割は、会社の業務執行に関する重要事項を決定することです。会社法では、以下の事項を取締役個人に委任できない専決事項として定めており、必ず取締役会の決議を経る必要があります。
- 重要な財産の処分および譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他重要な使用人の選任・解任
- 支店その他重要な組織の設置・変更・廃止
- 社債の募集に関する重要事項
- 内部統制システムの整備
- 役員の責任免除に関する事項
これらの決議事項は企業の経営方針や財務状況に大きな影響を与えるため、複数の取締役による慎重な審議が求められます。取締役会で承認を得ずにこれらの業務を執行した場合、決議の無効や取締役の責任問題に発展する可能性があります。
取締役の職務執行の監督
取締役会の第二の役割は、各取締役が職務を適正に執行しているかを監督することです。取締役会で決議した内容に沿って業務が遂行されているか、法令や定款に違反していないかを確認します。
具体的には、代表取締役や業務執行取締役は3ヶ月に1回以上、自己の職務執行状況を取締役会に報告する義務があります。この報告をもとに、取締役会は各取締役の業務執行が適切かを判断し、必要に応じて改善措置を求めることができます。
取締役同士が互いに監督し合うことで、特定の取締役による独断的な経営を防ぎ、透明性の高い企業運営を実現します。
代表取締役の選定・解職
取締役会の第三の役割は、代表取締役の選定と解職です。代表取締役は会社のトップとして経営や事業に大きな影響を及ぼすため、その選定と解職は取締役会の重要な権限となっています。
選定も解職も取締役会の決議によって行われ、いずれも出席した取締役の過半数の同意が必要です。ただし解職の場合、当該代表取締役は特別利害関係者として議決に加わることができないため、代表取締役以外の過半数の賛成で成立します。
この2つの権限を持つことで、取締役会は実質的に代表取締役を牽制・監督する機能を果たしています。
取締役会設置のメリット・デメリット
取締役会の設置は任意である会社も多いため、設置するかどうかは慎重に判断する必要があります。メリットとデメリットの両面を理解した上で、自社の事業規模や成長段階に応じて検討することが重要です。
取締役会設置のメリット
迅速な意思決定が可能になる
取締役会を設置していない会社では、経営に関する重要事項の多くを株主総会で決議する必要があります。株主総会は通常年1回の開催であり、招集手続きも煩雑です。一方、取締役会設置会社では株主総会の権限事項の一部を取締役会で決議できるため、最低でも3ヶ月に1回開催される取締役会でスピーディーな意思決定が実現します。
スタートアップのように事業環境の変化が激しく、迅速な経営判断が求められる企業にとって、このメリットは特に大きいといえます。ビジネスチャンスを逃さず、競合に先んじた戦略を打ち出すことが可能です。
社会的信用の向上
取締役会には取締役の業務執行を相互に監督する機能があり、このガバナンス体制が機能していることで経営の透明性や健全性が担保されます。その結果、取引先や金融機関、投資家といった外部ステークホルダーからの社会的信用を得やすくなります。
信用が高まることで、銀行融資を受けやすくなったり、大企業との取引が有利に進んだりする可能性があります。特にIPOを目指すスタートアップでは、取締役会の設置は必須となるため、早い段階から体制を整えておくことが重要です。
取締役会設置のデメリット
役員人数の増加に伴うコスト負担
取締役会を設置するには最低でも取締役3名と監査役1名、合計4名の役員が必要です。非公開会社で取締役会を設置しない場合は取締役1名から設立可能であることと比較すると、最低4名分の役員報酬を負担する必要があります。
起業直後や小規模事業で売上が安定していない段階では、役員報酬の支払いが資金繰りを圧迫する可能性があります。また、適切な人材を確保できるかという点も課題となります。
開催準備と議事録作成の手間
取締役会は3ヶ月に1回以上の開催が義務付けられており、開催のたびに招集通知の発送、議題・資料の準備、議事録の作成・保管といった事務作業が発生します。議事録は10年間の保管義務があるため、管理体制の整備も必要です。
バックオフィスのリソースが限られているスタートアップにとって、この業務負担は決して小さくありません。運営の手間とコストを考慮し、設置の必要性を見極めることが大切です。
取締役会の設置が必要な会社
取締役会の設置は基本的に任意ですが、会社法第327条の定めに該当する会社は必ず取締役会を設置しなければなりません。自社が該当するかを確認し、設置義務の有無を正しく把握しておくことが重要です。
設置義務がある4つの会社類型
会社法により取締役会の設置が義務付けられているのは、以下の4種類の株式会社です。
公開会社
発行する株式の全部または一部について譲渡制限を設けていない会社を指します。株主が会社の承認なく自由に株式を譲渡できるため、株主保護の観点から取締役会の設置が必須となっています。なお、公開会社は必ずしも株式を上場している必要はなく、定款で株式譲渡に会社の承認が不要と定められていれば該当します。
監査役会設置会社
3名以上の監査役で構成される監査役会を設置している会社です。監査役会のうち半数以上は社外監査役である必要があります。監査役会が組織的な監査体制を確保することで、取締役の業務執行をより厳格にチェックする仕組みとなっています。

監査等委員会設置会社
3名以上の取締役で構成される監査等委員会を設置している会社で、過半数は社外取締役である必要があります。取締役自身が監査を担うことで監督機能の強化を図る機関設計です。

指名委員会等設置会社
指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会を設置している会社で、各委員会はそれぞれ過半数が社外取締役で構成される必要があります。経営の監督と執行を明確に分離し、高い透明性を確保する機関設計となっています。

大会社と上場企業の取り扱い
大会社とは、資本金5億円以上または負債200億円以上の会社を指します。大会社や上場企業は、原則として監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの形態である必要があり、結果として取締役会の設置が義務付けられます。
スタートアップの設置判断
上記に該当しないスタートアップや非公開会社は、取締役会を設置する義務はありません。ただし、IPOを目指す場合は取締役会の設置が必須となるため、シリーズAの資金調達前後に設置するケースが多く見られます。
設置の判断にあたっては、事業の成長段階、資金調達の状況、ガバナンス体制の必要性、役員報酬の負担能力などを総合的に考慮することが重要です。将来的な上場を見据えている場合は、早めに取締役会を設置してガバナンス体制を整備しておくことで、上場審査をスムーズに進めることができます。
取締役会の開催準備から議事録作成までの流れ
取締役会を適切に開催するには、会社法に定められた手続きに沿って進める必要があります。開催準備から議事録の作成・保管まで、一連の流れを理解しておきましょう。
招集通知の発送
取締役会を開催するには、原則として開催日の1週間前までに各取締役および監査役に対して招集通知を発送します。招集権者は原則として各取締役ですが、定款で特定の取締役を定めることも可能です。
招集通知には開催日時、場所、議題を明記し、必要な資料を添付するのが一般的です。招集通知は書面に限定されず、メールなどの電磁的方法でも問題ありません。なお、取締役および監査役の全員が同意している場合は、招集手続きを省略することもできます。
定款で招集期間を短縮している場合はその期間に従いますが、決議が無効とならないよう定足数を満たしているか事前に確認することが重要です。
議題の作成と資料の準備
取締役会の議題は報告事項と決議事項に分けて作成します。報告事項には代表取締役や業務執行取締役からの職務執行状況の報告が含まれ、決議事項には重要な財産の処分や譲受け、多額の借財、代表取締役の選定など会社法で定められた専決事項が該当します。
議題ごとに目的や提案内容、想定される効果やリスクを整理した資料を事前に準備し、取締役会開催前に配布することで、質の高い審議が可能になります。十分な検討時間を確保するため、早めの資料共有を心がけましょう。
取締役会の開催
取締役会は議決権を持つ取締役の過半数が出席することで成立します。議長による議事進行のもと、報告事項の確認と決議事項の審議・採決を行います。決議には出席した取締役の過半数の賛成が必要です。ただし、決議について特別な利害関係にある取締役は議決に参加できません。
開催場所に法律上の制限はなく、オンラインでの開催も認められています。対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式も可能です。
なお、定款に定めがある場合は、実際に会議を開催せずに書面決議を行うこともできます。書面決議は議決権を有する取締役全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をし、監査役から異議が述べられない場合に成立します。
議事録の作成と保管
取締役会終了後は速やかに議事録を作成します。議事録には開催日時・場所、出席した取締役・監査役の氏名、議事の経過の要領、決議結果、意見の概要などを詳細に記録します。
議事録を書面で作成する場合は出席した取締役および監査役の署名または記名押印が、電磁的記録で作成する場合は電子署名が必要です。作成した議事録は本店で開催日から10年間保管しなければなりません。株主や債権者からの閲覧請求に対応できるよう、適切に管理しておくことが重要です。
取締役会を効果的に運営するポイント
取締役会を形骸化させず実効性のあるものにするためには、継続的な改善と工夫が必要です。スタートアップが取締役会を効果的に運営するための重要なポイントを押さえておきましょう。
事前の情報共有を徹底する
取締役会での質の高い議論を実現するには、事前の情報共有が極めて重要です。議題や関連資料は遅くとも開催の数日前までに全員に配布し、各メンバーが議題に対する理解を深め、意見や質問を整理する時間を確保しましょう。
資料は論点を明確にし、必要なデータや背景情報を簡潔にまとめることが大切です。情報が不足していると表面的な議論に終わってしまい、適切な意思決定ができません。特に財務データや事業進捗については、最新の情報をタイムリーに共有することで、現状を正確に把握した上での議論が可能になります。
建設的な議論ができる環境をつくる
取締役会では、役職や経歴に関わらず全員が自由に意見を発言できる心理的安全性の高い環境を整えることが重要です。議長は特定の人物の発言に偏らないよう全員に意見を求め、時間管理を行い、論点を整理する役割を担います。
社外取締役がいる場合は、外部の客観的な視点を積極的に取り入れることで、経営判断の質を高めることができます。異なる意見や批判的な視点も歓迎する文化を醸成し、多角的な議論を促進しましょう。
議題の優先順位を明確にする
限られた時間の中で効率的に取締役会を運営するには、議題の優先順位付けが不可欠です。重要度や緊急度に応じて適切な時間配分を行い、戦略的な議論に十分な時間を確保します。
報告事項は簡潔にまとめ、決議事項や重要な経営課題の議論に時間を割くようにしましょう。形式的な承認だけで終わらせず、本質的な議論ができる議題設定を心がけることが大切です。
デジタルツールを活用する
取締役会の運営効率化には、デジタルツールの活用が効果的です。オンライン会議システムを利用すれば、遠隔地にいる取締役も参加しやすくなり、日程調整の負担も軽減されます。
クラウド型の取締役会支援ツールを導入すれば、資料の配布や議事録の作成・保管、過去の決議事項の検索などを効率的に行うことができます。電子署名を活用することで、議事録への署名・押印の手間も大幅に削減できるでしょう。
定期的に実効性を評価する
取締役会自体の活動を定期的に評価し、改善に取り組むことが重要です。議論の質、情報共有の適切さ、時間配分、メンバー構成などについて振り返り、課題を明確にします。
評価結果をもとに具体的な改善アクションに繋げることで、取締役会の機能を最大化できます。特にIPOを目指すスタートアップでは、上場審査に向けてガバナンス体制を継続的に強化していく必要があるため、実効性評価を習慣化しておくことが望ましいでしょう。
まとめ
取締役会は会社の経営方針や重要事項を決定する機関であり、業務執行の決定、取締役の監督、代表取締役の選定という3つの重要な役割を担います。公開会社や監査役会設置会社などには設置義務がありますが、それ以外のスタートアップでは任意です。
取締役会を設置することで迅速な意思決定が可能になり、社会的信用も向上しますが、最低4名の役員報酬や開催準備の負担といったデメリットもあります。IPOを目指すスタートアップでは取締役会の設置が必須となるため、資金調達の段階や事業規模に応じて適切なタイミングでの設置を検討しましょう。設置後は事前の情報共有や建設的な議論環境の整備、デジタルツールの活用などにより、実効性の高い取締役会運営を目指すことが重要です。
本記事が参考になれば幸いです。

