ストック・オプション

IPOでストック・オプションはどれほどの価値に?従業員の持分割合と保有株式価値を調査

この記事でわかること

  • IPO企業の従業員における持分割合の水準
  • IPO企業の従業員におけるストック・オプションを含む保有株式価値の水準

著者プロフィール

宮下 卓也

O f All株式会社

シニアコンサルタント

宮下 卓也

総合リース会社にて、上場企業から個人事業主まで幅広い顧客を対象としたファイナンス営業に従事。その後、日系コンサルティング会社において、株式報酬制度の設計・導入支援、役員報酬制度の策定、ならびに指名報酬委員会の設置・運営に関するアドバイザリー業務を担当。現在は、O f All株式会社に創業メンバーとして参画。

 

従業員にストック・オプションを発行する際、多くの企業が「どの程度付与すればよいのか」「付与したストック・オプションの価値はどのくらいになるのか」といった点で悩むのではないでしょうか。

付与量を決定する際には、職位・職責、貢献度、在籍年数、専門性などを考慮することが一般的です。加えて、報酬としての外部公平性を確保するため、市場水準との比較も重要なポイントとなります。

 

本記事では、IPOをした企業における従業員の株式持分割合とストック・オプションを含む保有株式価値の水準に焦点を当てて、解説します。

 

従業員の持分割合やストック・オプションの付与量を検討する際に、参考となるデータとなれば幸いです。

IPO企業における従業員の保有株式価値(ストック・オプション含む)を調査

今回は、従業員に付与したストック・オプション等の株式価値がどのくらいになったのかを調査するにあたって、2024年に国内市場でIPOした企業の中から、従業員上位10名が保有する持分割合株式価値のデータに焦点を当て、分析しました。


まず、2024年に国内市場でIPOした企業数は86社(TPM市場を除く)あり、そのうち札幌・名古屋・福岡証券取引所に上場した5社、TPM市場からステップアップ上場した1社、およびスピンオフ上場した1社を除くと、東京証券取引所に新規上場した企業は79社でした。

今回の分析では、2024年に東証へIPOした企業のうち、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」で従業員上位10名の持分割合を個別に確認できる企業51社を対象とし、IPO時の持分割合と株式価値がどの程度であるかを調査しています。


なお、本記事における保有株式価値とは、保有している株式(ストック・オプションを含む)のIPO時点における時価を算出したものであり、株式取得価額やストック・オプションの権利行使価額は考慮していないため、キャピタルゲインの金額ではない点にご留意ください。

調査対象の概要

本調査では、以下の「企業」および「従業員」を対象といたしました。

対象企業

  • 2024年に東京証券取引所へIPOをした企業(TOKYO PRO Marketへの上場、他取引所からの上場、スピンオフ上場などは除く)
  • 従業員10名以上が株式またはストック・オプションを保有し、上位10名の持分割合が個別に確認できる企業(「その他」としてまとめられ、個別データが10名未満の場合は対象外)


対象者

  • 執行役員(子会社を含む)
  • 従業員(子会社を含む)

ただし、以下の属性の方は対象外

  • 元取締役
  • 子会社取締役を兼任している従業員
  • 代表親族の従業員


該当企業の一覧

前述の対象企業・従業員にて調査を行った結果、従業員の上位10名の持分を確認できた企業は、全79社中51社でした。
本調査では、この51社の従業員のうち、対象持分割合が上位10名に該当する方を対象に、様々な視点で調査を実施いたしました。

以下の表は、該当企業51社の業種・市場区分・企業全体の潜在株比率・公開価格ベースの時価総額・各社の従業員上位10名における「平均持分割合」と「平均株式価値」を示したものです。


業種市上区分企業全体の
潜在株比率
公開価格ベース時価総額
(百万円)
従業員上位10名
平均持分割合
従業員上位10名
平均株式価値
(円)
サービス業グロース0.00%13,6801.18%160,876,800
精密機器プライム3.19%283,8380.06%158,949,524
電気機器プライム2.35%784,3360.02%156,867,188
サービス業スタンダード12.06%8,8201.38%121,539,600
サービス業グロース13.04%26,0280.45%117,644,607
情報・通信業グロース9.79%15,3460.61%93,152,579
精密機器グロース16.34%21,9010.41%89,138,271
情報・通信業グロース12.03%9,3130.91%84,931,377
小売業スタンダード19.11%21,1200.37%78,566,400
医薬品グロース12.34%15,9100.39%61,888,577
精密機器グロース8.99%5,8390.99%57,693,045
電気・ガス業グロース9.01%22,0140.24%52,393,320
サービス業グロース6.12%40,2620.12%49,924,724
情報・通信業グロース15.58%5,1950.95%49,197,673
サービス業グロース15.63%4,2151.15%48,603,537
医薬品スタンダード7.33%46,0000.10%43,700,000
サービス業グロース10.90%8,0100.54%43,576,293
化学グロース0.00%9,5290.43%40,686,695
サービス業グロース9.95%8,1180.49%39,453,480
情報・通信業グロース8.85%5,8870.58%34,261,046
情報・通信業グロース11.36%4,8650.60%29,192,400
情報・通信業グロース8.34%3,3630.77%25,998,154
医薬品グロース10.00%6,3010.39%24,701,151
情報・通信業グロース5.93%5,2520.37%19,171,353
サービス業スタンダード4.85%6,8160.27%18,130,560
情報・通信業グロース11.93%4,5450.38%17,043,750
情報・通信業グロース17.84%2,3910.71%16,882,324
サービス業スタンダード2.32%16,9680.10%16,119,961
サービス業グロース5.12%7,2090.22%16,003,717
情報・通信業グロース7.16%6,4000.25%15,936,000
建設業スタンダード12.22%2,7490.52%14,213,364
サービス業グロース5.09%6,1400.23%14,060,554
情報・通信業グロース12.73%4,1700.33%13,553,483
サービス業グロース12.42%11,6550.12%13,519,907
情報・通信業グロース3.26%21,3470.05%11,527,110
その他金融業グロース9.01%3,6290.31%11,213,734
小売業プライム5.60%49,8780.02%10,873,404
サービス業グロース11.56%3,1260.31%9,753,744
情報・通信業グロース10.02%3,9270.24%9,581,060
卸売業グロース7.41%5,3340.15%7,948,219
情報・通信業グロース2.91%8,9820.09%7,724,176
建設業グロース5.81%8,9490.08%7,517,556
サービス業グロース7.04%2,5000.28%7,050,185
サービス業グロース12.84%5,0320.13%6,692,959
小売業グロース3.85%4,7180.10%4,859,622
情報・通信業グロース8.06%2,8670.16%4,529,686
サービス業グロース7.10%2,4440.18%4,398,975
情報・通信業スタンダード0.00%3,0000.14%4,320,000
サービス業グロース5.77%1,9870.19%3,716,064
サービス業グロース7.58%1,7170.15%2,644,180
情報・通信業グロース1.59%1,2600.06%806,714


※表示順序は従業員上位10名 平均保有株式価値の降順(平均保有株式価値が高い順)
※公開価格ベース時価総額=IPO時の発行済株式総数(公募分含む)×公開価格
※公開価格ベース時価総額の算出には、公募後発行済株式総数を使用していますが、持分割合は公募前発行済株式総数を基に算出しています。そのため、実際の株式価値は本データよりも低い可能性があります。
※持分割合は、現物株式と潜在株式を合計した割合
※従業員上位10名の平均保有株式価値=公開価格ベース時価総額×従業員上位10名平均持分割合
※51社のうち、信託型ストック・オプションを発行している企業が5社ありますが、個別の割合は開示されていないため考慮していません。

従業員上位10名の持分割合の平均値は「0.38%」

まず、本調査のサンプル数である「対象の51社 × 各社上位10名 = 510名」のデータを確認します。

この510名全体の持分割合について、平均値中央値は以下の通りです。

  • 平均値:0.38%
  • 中央値:0.22%


また、該当する510名の持分割合の分布を示したのが、以下の表です。

持分割合人数割合
1%以上479.2%
0.8~1%未満102.0%
0.6~0.8%未満203.9%
0.4~0.6%未満6011.8%
0.2~0.4%未満13927.3%
0.1~0.2%未満12223.9%
0.1%未満11222.0%


この表から、持分割合が1%以上の従業員が47人(9.2%)おり、企業によって取締役ではなくとも1%以上の持分を保有しているケースがあることがわかります。


また、0.2〜0.39% の持分を持つ人数は 139人(全体の 27.3%)、次いで0.1〜0.19% の持分が 122人( 23.9% )、0.1%未満の持分は 112名( 22.0% )であり、0.4%未満の持分割合の方が全体の 73.2%を占める結果となりました。


企業別に見た平均持分割合で最も多いのは「0.2%~0.39%」

続いて、企業別における従業員上位10名の平均持分割合の分布は、以下の通りです。
企業ごとの従業員上位10名の平均持分割合という視点で見ても、平均持分割合では「0.2%~0.39%」の企業が15社(全体の 29.4%)と最も多い結果となりました。

従業員上位10名平均持分割合企業数割合
1%以上35.9%
0.8~1%未満35.9%
0.6~0.8%未満47.8%
0.4~0.6%未満713.7%
0.2~0.4%未満1529.4%
0.1~0.2%未満1019.6%
0.1%未満917.6%


従業員上位10名の平均持分が1%を超えている企業は3社(5.9%)あり、3社の内訳をみると持分上位の従業員はストック・オプションだけではなく現物株式も合わせて保有している傾向にありました。


一方で、平均持分割合が0.1%未満の企業9社(17.6%)の従業員は現物株式を保有していない方が多く、ストック・オプションのみの持分割合である傾向にありました。



従業員上位10名の保有株式価値の平均値は「約3,800万円」

持分割合に続いて、次は保有株式価値について解説していきます。保有株式価値は以下の計算式で算出しています。

公開価格ベース時価総額 × 持分割合

なお、本調査では株式取得価額やストック・オプションの権利行使価額は考慮していないため、キャピタルゲインの金額ではないことに注意してください。


510名全体の保有株式価値における平均値中央値は、以下の通りです。

  • 平均値:38,288,800円
  • 中央値:16,142,438円


また、該当する510名の保有株式価値の分布は、以下の通りです。

保有株式価値人数割合
1億円以上54名10.60%
5,000万~1億円未満64名12.50%
3,000万~5,000万円未満51名10.00%
1,000万~3,000万円未満162名31.80%
1,000万円未満179名35.10%


調査対象 510名のうち、1億円以上の株式を保有しているのは10.6%(54名) であり、大多数の従業員は1億円未満の水準にとどまる結果となりました。

特に1,000万円未満の方が最も多く(35.1%)、次いで1,000万~3,000万円未満の層が31.8%という結果になっています。

企業別に見た平均株式価値で一番多いのは「1,000万~3,000万円未満」

続いて、51社の企業別における従業員上位10名平均株式価値の分布が以下となります。

従業員上位10名平均株式価値企業数割合
1億円以上59.8%
5,000万~1億円未満713.7%
3,000万~5,000万円未満815.7%
1,000万~3,000万円未満1733.3%
1,000万円未満1427.5%


従業員上位10名の平均保有株式価値が1億円を超えている企業は5社ありますが、そのうち2社は平均持分割合が0.1%以下であり、時価総額が大きい企業では、持分割合が低い場合でも株式価値が高くなることがわかります。

まとめ

IPO企業51社の従業員上位10名(510名)の平均持分割合は「0.38%」、平均株式価値は「約3,800万円」

今回は、従業員に付与したストック・オプション等の株式価値がどのくらいになったのかを調査するため、2024年に国内市場でIPOした企業の中から、従業員上位10名が保有する株式価値と持分割合のデータに焦点を当てて分析しました。

調査対象となった51社の従業員上位10名において、510名全体の持分割合の平均値は「0.38%」(中央値は「0.22%」)となり、同じく510名全体の保有株式価値(ストック・オプション含む)の平均値は「約3,800万円」(中央値は「約1,600万円」)という結果になりました。

本記事は、IPOをした企業の従業員上位10名の持分割合と保有株式価値に焦点を当て、平均値・中央値などを分析した結果です。保有株式価値とは、保有している株式(ストック・オプションを含む)の時価を算出したものであり、株式取得価額やストック・オプションの権利行使価額は考慮していないため、キャピタルゲインの金額ではない点にご留意ください。

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今回は、従業員が保有する持分割合と株式価値のデータに焦点を当て調査をしました。
本記事の内容が、ストック・オプションを検討している皆さまの参考になれば幸いです。

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